『シヴァ・ベイビー』シュガー・ベイビーは修羅・ベイビー

『シヴァ・ベイビー』シュガー・ベイビーは修羅・ベイビー

2026-02-26 08:00:00

タイトルの「シヴァ・ベイビー」とは、ユダヤ教徒の葬儀〈シヴァ〉と、パパ活女子を意味する〈シュガー・ベイビー〉を組み合わせた造語である。

弔いと性俗、というかけ離れた響きの言葉を無理やり圧縮させたような、その粗雑さ、おかしさ、ぎこちなさは、そのまま主人公のダニエルのような、不安だらけなのに怖いもの知らずのように振る舞ってしまう、輪郭の定まらない若さの不安定さをあらわす。

大学の卒業を控えながらもいまだに就職先の決まらないダニエルは、ベビーシッターのバイト代では物足りず、パパ活をしている。

その日、逢瀬を終えた足で嫌々出向いた記憶にもない親戚の葬儀〈シヴァ〉で彼女は、しばらく前に自然消滅した元カノのマヤ、そして先ほど別れたばかりのパパ活相手マックスと鉢合わせてしまう。

そこでダニエルはマヤがロースクールに合格したこと、さらにはマックスが実は妻子持ちであることを知らされる。

立てつづけに突きつけられる事実にうちのめされそうになっているダニエルに追い打ちをかけるようにして、久しぶりに顔を合わせた親戚たちは、就職先は?彼氏は?痩せすぎじゃない?と好き勝手に話しかけてくる。両親もまた、娘の将来を案じるという名目で、インターン先や交際相手など、親戚のコネクションをあからさまに探っている。

そうこうしているうちに、スマホをどこかに置いてきたことに気が付くダニエル。矛盾や秘密が誰かにバレたら。彼女の必死の取り繕いも、もはや限界に達し・・・。

監督のエマ・セリグマンの言う、「自分の性的パワーに思っていたほどの影響力がなく、そして自尊心は性的に認められることでは築けないということを若い女性が突きつけられた時に感じる苦い現実」。

その現実は、まだ若手の彼女にとっては新鮮な記憶、振り返ればすぐそこにある過去なのだろう。だからこそ、何者でもないことに怯えながらも何者かであろうとする若者の現在、その滑稽さと切実さを、気まずいほど間近で描く。

冒頭で述べたように、『シヴァ・ベイビー』は、〈シヴァ〉と〈シュガー・ベイビー〉を引っ掛けた造語ではあるが、それは単なるウケ狙いの言葉遊びには思えない。

つぎはぎしたような言葉のあいだに、もまれ挟まれるダニエルが、言葉のはげしいコントラストの中に、崖っぷちのダニエルが見える。

その日〈葬儀/パパ活〉で彼女が、決して爽やかではないが断じて敗北ではないひと区切りを、迎えていることを期待したい。

(小川のえ)

イントロダクション

第45回(2020年)トロント国際映画祭 正式出品

MUBI2021年度視聴数No.1獲得

『ボトムス ~最底で最強?な私たち~』のエマ・セリグマン監督と、Z世代のアイコン/マルチ・クリエイター、レイチェル・セノット主演

デミ・ムーア主演『サブスタンス』を手がけ、世界中の映画ファンから熱狂的な支持を集めるアートハウス系ストリーミングサービス/配給会社MUBIにて、2021年度の最高視聴数を記録。さらにニューヨークでは16週間連続上映という異例のロングランを達成した。

パパ活女子(シュガーベイビー)が、お葬式(シヴァ)で修羅場。“ぜんぜん大丈夫じゃない”彼女たちのリアルが描かれる。

ストーリー

大学の卒業を間近に控えたある日、ダニエルは神経質な母親の頼みで、誰が亡くなったのかも知らされないまま親戚の葬式「シヴァ」(※)へと参列する。

式場へ到着すると、その場に居合わせた幼馴染で元カノのマヤがロースクールに合格したことで賞賛を受ける一方、ダニエルはパッとしない進路や容姿の変化について親類縁者たちから不躾に詮索され、次第に身の置き所を失っていく。

そんな中、ついさきほど会っていたシュガーダディ(パパ活相手)のマックスが、容姿端麗な実業家の妻・キムと泣き叫ぶ赤ん坊を連れて現れる。

親に甘えていたい、性的に魅力的に見られたい、自立した人間でありたい──

ダニエルはさまざまに使い分けている「顔」とプライドをどうにか保とうとするが、やがてそのプレッシャーは限界に達し、自らの手にも追えない事態を招くことになる。

 

※Shiva シヴァ:ユダヤ教徒が親族を亡くしたときに行う7日間の喪の期間のこと

エマ・セリグマン監督コメント

私が『Shiva Baby』の短編を制作したのは、ニューヨーク大学の最終学年に在籍していた21歳の時でした。

当時の私は徐々に、大学時代に見いだした偽りの“性的パワー”が燃え尽き、信じられないほど低い自尊心が掘り起こされていくことに気づいていました。

卒業が近づくにつれ、自分の将来がどうなるのかという不安は着実に大きくなっていきました。

大学でセクシュアリティを通じて自立と主体性を得たとはいえ、親の目から見れば私はまだ子供だったのです。

エマ・セリグマン監督プロフィール

トロント出身の映像作家。現在はニューヨークを拠点に活動している。2017年5月にニューヨーク大学の映画&TVプログラムを卒業し、在学中に自らが脚本・監督を行い、自身の初作品となる短編映画2本を製作する。その1本が卒業制作の短編『Shiva Baby』である。この短編は2018年にサウス・バイ・サウスウエストでプレミア上映された後、パームスプリングス国際短編映画祭、ウッドストック・フィルムフェスティバル、TIFFネクストウェーブ・フィルムフェスティバルなど数々の映画祭で上映され、現在はVimeoスタッフ・ピックに選ばれている。その後『Shiva Baby』をレイチェル・セノットらを起用して長編映画へと発展させた。この長編映画は、サウス・バイ・サウスウエスト、メルボルン国際映画祭、アウトフェストLA、ドーヴィル・アメリカ映画祭、そして2020年のトロント国際映画祭といった主要映画祭で上映された。

アップリンク吉祥寺 アップリンク京都 ほか全国劇場にて公開

公式サイト

レイチェル・セノット

モリー・ゴードン ダニー・デフェラーリ ダイアナ・アグロン

ポリー・ドレイパー フレッド・メラメッド

監督・脚本:エマ・セリグマン 製作:エマ・セリグマン、リジー・シャピロ、ケイティ・シラー、キーラン・アルトマン 撮影監督:マリア・ルーシェ

編集:ハンナ・パーク

プロダクション・デザイン:シャイアン・フォード

音楽:アリエル・マルクス

衣装デザイン:ミシェル・J・リー

2020|78分|英語|アメリカ、カナダ|原題:Shiva Baby|字幕翻訳:内海千広 <G> © 2020 SHIVA BABY LLC. All Rights Reserved.

配給・宣伝:SUNDAE