『在日ミャンマー人 −私たちの自由−』すれ違う一人一人に名前があること

『在日ミャンマー人 −私たちの自由−』すれ違う一人一人に名前があること

2026-02-01 12:00:00

2021年2月1日、ミャンマー国軍によるクーデターが発生。このクーデターに対し、国民はミャンマー全土で非暴力の抗議デモで激しく抵抗、国軍は武力で弾圧し、拷問死も含め多数の死傷者を出した。
本作では、クーデター直後から抗議のデモに立ち上がった在日ミャンマー人それぞれの名前と背景をテロップで提示し、過去と現在を語り直す姿が克明に映し出されている。笑顔を見せ、前を向いて強く生きる彼女たちが、失った家族のことを語り直すときに流す涙には息が詰まる。


(参照:出入国在留管理庁「令和7年6月末現在における在留外国人数について」)

出入国在留管理庁によれば、2021年2月1日のクーデター以降、来日するミャンマー人は急増している。令和7年6月末時点での在留外国人数は395万6,619人、うちミャンマー人は160,362人。これは国籍別の在留外国人としては上位8位である。増加傾向にある在日ミャンマー人たちについて、劇中には在日ミャンマー人たちが東日本大震災の支援に駆け付ける姿、非暴力の抗議デモや募金活動に参加する姿も描かれる。彼女たちの多くが自身の時間を投げ打ち、ときには仕事を辞めてまで支援を優先している。助け合って周りを幸せにする、人を助けることが一生の幸せであると信じている。

ミャンマー人に共通するこの国民性について、上智大学名誉教授でありビルマ近現代史の専門である根本敬氏は「パラヒタ」というものがキーワードにあると述べている。日本語では利他主義を意味する言葉だ。

ミャンマー人の「パラヒタ」を下地とした国民性は、公的セーフティネットが弱く、 貧困・病気・災害が身近であるからこそ「人は助け合わなければ生きられない」という前提から成り立っている。助け合わないと成立しないもの、それがミャンマー人にとっての社会なのだ。

一方、日本人は利他主義が見えにくい。例えば、落とし物が戻ることや公共マナーが高いことなど、無言で配慮する「表に出ない利他性=間接的な利他主義」は基盤にある。しかし、それは裏を返すと他人に表立って干渉しない日本人の特性を示している。この間接的な利他主義は、他方ではデモや募金活動を横目に通り過ぎる私たちの無関心の下地になっているように思う。

この映画に映される多くの日本人が良い例だ。在日ミャンマー人たちを横目に、多くの日本人がただ通り過ぎていく。東京の日常風景に組み込まれて、在日ミャンマー人たちの活動は透明化されているようにも見える。しかし、登場人物の名前と背景をテキストで表示し、彼女たちの動向を映し出していく映画構成に、私たちはこれまで透明化してきた集団の一人一人に名前と人生があるのだという当たり前の事実に気づかされるのだ。

自身の無関心と向きあうこと。この映画を通して、ミャンマー人たちの「パラヒタ」に触れ、あなたの世界の見え方が変わることを信じたい。

(編集部:F)

イントロダクション

2021年2月1日、ミャンマー国軍によるクーデターが起き、ミンアンフライン総司令官が全権を掌握、国家指導者の地位に就く。国軍は2020年の総選挙を無効とし、非常事態宣言を布告すると、選挙で勝利した国民民主連盟(NLD)政権の指導者アウンサンスーチー氏らが拘束された。

このクーデターに対し、国民はミャンマー全土で非暴力の抗議デモで激しく抵抗、多くの公務員たちが抵抗の意志を示すために職場を離れ、市民不服従運動(CDM)を展開したが、国軍は武力で弾圧し、拷問死も含め多数の死傷者を出した。その結果、推定350万以上の人々が国軍の弾圧を逃れ、国内避難民となった。日本でもクーデター直後から当時4万人ほどいた在日ミャンマー人たちの多くが抗議のデモで立ち上がる。各地で働く技能実習生の若者たちも休日を返上し、地方から東京での抗議デモに駆けつけ、現地支援のための募金活動にも奔走する。

『沈黙を破る』、『福島は語る』、『津島』、『ガザからの報告』など、そこに暮らす人々の視点で丹念に映し出してきた作品は数々の受賞を重ねてきた土井敏邦監督。本作は祖国・ミャンマーの民主化運動のために日本に亡命したチョウチョウソー(チョウ)を14年追った『異国に生きる-日本の中のビルマ人-』(2013年公開)の続編的位置づけとなる作品。

第一部では、デモに参加した若者たちの祖国のクーデターへの怒りと悲しみ、深い思いを伝え、第二部ではタイ側の国境沿いの町に避難したミャンマー人たち、とりわけ子どもたちが通う学校の支援を続ける在日ミャンマー女性を追う。そして第三部では前作のチョウのその後を追い、さらにクーデターを起こした国軍と日本との関係を追う。世界で民主主義が後退しつつある中、そのレンズに映る在日ミャンマー人たちの姿は、私たちに自由、民主主義そして祖国とは何かを問いかける。

監督メッセージ

2021年2月、1人の軍司令官の権力欲のために、やっと歩み始めた「ミャンマーの民主化」が踏みにじられたとき、すでに「自由」を体験した若い在日ミャンマー人たちは抗議に立ち上がった。必死に軍事政権の打倒を訴える彼らの姿は、私たち日本人に「祖国とは何か」「自由とは何か」そして「人間が“人間らしく生きる”とはどういうことなのか」を問いかけている。さらに軍事政権と深いつながりを持つ日本は、「他人事」と遠望していていいのかという問いを彼らから突き付けられている。

土井敏邦監督プロフィール

1953年佐賀県生まれ。 1985年よりパレスチナ・イスラエルの現地取材を開始、1993年より映像取材も手掛け、NHKや民放で多くのドキュメンタリー番組を発表。2009年、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、第4部にあたる『沈黙を破る』は初の劇場公開作品として同年5月に公開、第83回キネマ旬報ベスト・テン文化映画第1位、第9回石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞を受賞する。

その後、『”私”を生きる』(2010、座高円寺ドキュメンタリーフェスティバル奨励賞)、『飯舘村 第一章・故郷を追わる村人たち』(2012、ゆふいん文化・記録映画祭/第5回松川賞)、『異国に生きる 日本の中のビルマ人』(2012、文化庁映画賞文化記録映画優秀賞)、『飯舘村―放射能と帰村―』(2013)、『”記憶”と生きる』(2015)など精力的に劇場公開作品を制作。他にも5部作『ガザを生きる』(2015)で大同生命地域研究特別賞を受賞。

2019年には『福島は語る』(2018)で文化庁映画賞文化記録映画優秀賞、コロナ禍後は『愛国の告白―沈黙を破るpart2―』(2022)、『津島ー福島は語る・第二章ー』(2023)、『ガザからの報告』(2024)を公開。2024年公開の『津島』では、第75回芸術選奨・文部科学大臣賞(映画部門)を受賞する。
主な著書に『占領と民衆―パレスチナ』(晩聲社)、『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『アメリカのパレスチナ人』(すずさわ書店)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』(岩波書店)、『沈黙を破る』(岩波書店)、『“記憶”と生きる―元「慰安婦」姜徳景の生涯』(大月書店)、『ガザからの報告』(岩波ブックレット)など多数。

1月30日(金)アップリンク吉祥寺、2月6日(金)アップリンク京都、ほか全国劇場にて順次公開

公式サイト公式X

『在日ミャンマー人 -わたしたちの自由-』(2025年/日本/171分/カラー)
監督・撮影・編集・製作:土井敏邦
編集協力:尾尻弘一
配給:きろくびと