『終点のあの子』素直で、傲慢で、脆い─10代のもどかしい自尊心の行方。
急行片瀬江ノ島行き。それは、彼女たちの高校の最寄駅を通過していく小田急線の急行電車。
その終点を目指す「あの子」は、憧れの的のようでもあり、奇異の対象でもあり、目の敵のようでもある。
「あの子」がいると知ってしまった終点。なぜ私は私でしかなく、あの子はあの子でしかないのか。どうして、私にはあの子になることも、まして学校をサボってその場所まで行くこともできないのか。そしてまたあの子にも、そんな私の気持ちが、わかることはたぶん一生ない。
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中高一貫の女子校の入学式。それは内部進学生たちにとっては、始業式の延長ようなものだった。地毛が茶色い希代子は新学期を前に、母親に黒染めを施してもらう。
きれいな黒に染め上げられた髪を短くしばっていつもの通学路を歩いていく。下北沢駅周辺の工事は延々と続いている。中学部に入学してからずっと、終わる気配はない。
「完成しないというところに良さがあるんだよ。それってすごい勇気と想像力じゃない?」。希代子の前に現れた、青いワンピースの女の子。転校生の朱里だった。
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原作者は柚木麻子。
2012年に発表した小説『早稲女、女、男』は『早乙女カナコの場合は』として橋本愛主演で映画化された。また、2017年に出版した『BUTTER』は、フェミニズムやボディイメージへの洞察がイギリスで話題をよび、35か国以上で刊行、累計70万部以上を売り上げている。
海外の文学祭にも数多く参加し、国際的な作家となった彼女のデビュー作が、本作の原作である『終点のあの子』だ。
『終点のあの子』は短編「フォーゲットミー、ノットブルー」が第88回オール讀物新人賞を受賞したのを機に、その他3篇を含めて出版された連作集。本作では、連作の中でも象徴的な一篇「フォーゲットミー、ノットブルー」が主に描かれている。
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「映画では、高校生の自尊心の行方がそれぞれ描かれていると思います。そして私は、朱里に通ずる傲慢さのようなものを持っている一人だと、改めて自覚させられました。彼女たちが友達の中に映し、狂ったように確かめ合っていたのは、脆い自分自身を見るためだったのかと思うのです」。
転校生の朱里を演じた中島セナのこの言葉はあざやかだ。
主人公の希代子役には、カルピスウォーターの14代目TVCMキャラクターとなり脚光を浴びた當真あみ。同級生役にはスタジオジブリ作品『アーヤと魔女』でヒロインを務めた平澤宏々路や、川上未映子、金原ひとみ原作の映画にも出演する南琴奈らが演じている。いずれも2006年、2007年生まれで、撮影当時、実際に高校生の年齢だった。
人と違うことに恐れも憧れもし、他者との距離感の中でしか自分自身を測ることができず、自分が恵まれていることに気づけない、10代の彼女たちの自尊心。白く濁るようなそのムードを、きらっとしたものとともに映し出している。
「甘夏」「ふたりでいるのに無言で読書」「オイスターベイビー」。ほかの短編を生きる彼女たちの姿も見てみたかった。
そして今、過ぎ去る電車を見送るホームのどこかに、少しだけ大人になった彼女たちがいる気がする。
(小川のえ)
イントロダクション
ゆらぎやすい女子高生の友情と複雑な心情を描き、その繊細な心理描写がガールズ系小説の金字塔として各メディアで絶賛された柚木麻子のデビュー作『終点のあの子』。
誰もがかつて住んだことのある世界と地続きな感覚をもたらすこの作品は、高校時代ならではの閉塞感と揺れ動く自意識、そして根拠のない万能感がまとわりついた世界を鮮やかに描き出す。
忘れていたとしても、スクリーンを前に、没入感と共にあの頃の感覚を呼び起こすほどのリアリティがそこにはある。
メガホンを取ったのは、『愛の病』(18)、『Sexual Drive』(21)、『スノードロップ』(25)など、マイノリティをモチーフに映画を制作し、国内外の映画祭で高い評価を受ける監督・吉田浩太。商業映画、インディペンデント映画で活動し、ジャンルを横断しながらも、一貫して人間の心の奥に潜む衝動や欲望を描いてきた。
女性に限らず、誰もが通過する思春期の痛みと美しさを、今という時代に蘇らせる青春映画がここに誕生した。
ストーリー
私立女子高校の入学式。中等部から進学した希代子と奈津子は、通学の途中で青い服を着た見知らぬ女の子から声をかけられた。
高校から外部生として入学してきた朱里だった。
父は有名カメラマン、海外で暮らしてきた朱里を希代子は気になって仕方がない。
朱里は学校では浮いた存在でありつつも、羨望の眼差しで見られていた。
希代子は朱里と一緒に共に時間を過ごすような仲になり「親密な関係」になったと思っていた矢先、希代子は朱里の日記帳を見つけるー。
吉田 浩太監督コメント

今から10年以上前に柚木麻子先生の小説「終点のあの子」を読みました。
自分は男性かつ既に思春期は過ぎてしまいましたが、女子高校生である登場人物たちの行動や気持ちに痛いほど共感したことを覚えています。
小説で描かれる若者特有の感情はとても普遍的であり、その普遍さによって自分の心は強く動かされ、すぐに映画にしてみたい衝動に駆られました。
原作として向き合い続けた故、映画化へのプロセスはとても長いものになりましたが、當真あみさん、中島セナさんという今の時代を象徴とする若く素晴らしい感受性に満ちた二人に主役を演じてもらえたことで、この小説が持つ瑞々しい普遍的な『終点のあの子』の世界を映像化することが出来たと思っております。
吉田 浩太監督プロフィール
1978年生まれ。早稲田大学中退。ENBUゼミナール卒業後、映像制作会社シャイカーに所属。『お姉ちゃん、弟といく』(06)でゆうばり国際ファンタスティック映画祭審査員特別賞受賞。『ユリ子のアロマ』(10)でドイツ・ニッポンコネクションデジタルアワードにて審査員特別賞を受賞した後、劇場デビュー。『ソーローなんてくだらない』(11)ではレインダンス映画祭ベストインターナショナルコンペティションにノミネート、『愛の病」(18)でローマアジアンフィルフェスティバル最優秀主演男優賞(岡山天音)受賞。『Sexual Drive』(21)でロッテルダム国際映画祭ビックスクリーンコンペティション部門選出。『スノードロップ』(24)でカイロ国際映画祭インターナショナルコンペティション部門、大阪アジアン映画祭コンペティション部門選出。







アップリンク吉祥寺 ほか全国劇場にて公開
2026年製作/125分/G/日本
監督・脚本:吉田浩太
出演:當真あみ、中島セナ、平澤宏々路、南琴奈、新原泰佑、小西桜子、野村麻純、今森茉耶、陣野小和、深川麻衣、石田ひかり
原作:柚木麻子『終点のあの子』(文春文庫)
配給協力:SPOTTED PRODUCTIONS
製作・配給:グラスゴー15
©2026『終点のあの子』製作委員会