『万事快調 〈オール・グリーンズ〉』掃き溜めの中に目を凝らし続けたその先で

『万事快調 〈オール・グリーンズ〉』掃き溜めの中に目を凝らし続けたその先で

2026-01-15 08:00:00

 青春を終えた大人たちは、仕事終わりの一杯や一本の煙草で今日をやり過ごす。学生時代は夢を語ることが気力になっていたのに、言葉を飲み込むことばかり増えて、夢を語る代わりに煙を吐く。身体から吐き出した煙が消えていく事実は、世の人々にわずかな安堵をもたらしているような気がする。

ラッパーになる夢を抱く高校生の朴秀美(南 沙良)はいつも煙草を吸っている。放課後にはストロング缶を飲んで、学校やお店では床に座ったりする。社会の規範に反抗してみせる彼女が解放される唯一の瞬間は、仲間とラップを刻んでいるときだけだ。クラスメイトに面と向かって文句も言えない彼女は、しかしラップに乗せれば感情を吐露することができる。

ラップを聴き慣れていない人は彼女の放つ言葉を聞き逃してしまうかもしれない。しかし彼女のラップは観客のために用意されたものではなく、彼女が自身の内側から鬱屈を吐き出すためにある。それは大人が吐き出す白い煙と等しく、自身が現実と向き直すためにあるものだ。

児山隆監督は『この映画は青春時代がただ過ぎ去っていくことを指を咥えて見ていることしかできなかった男が監督した「青春映画」だ。 あの頃好きだったもの、逃げ込んでいたもの、救われていたもの、全部詰め込んだ』と本作について語っている。種々様々な現実を飲み込んできた児山監督がその内側から吐き出して作られたのがこの映画だ。

そういう意味では、映画も小説も音楽も漫画も、誰かの人生がごちゃ混ぜになって吐き出された吐瀉物のようなもので、たとえば本作のように事によるとモザイク処理が施されるべきものなのかもしれない。そして誰かが吐き出したものが集積されるこの世の中は、ある意味では掃き溜めと呼べるのかもしれない。

町の全てが掃き溜めのようにしか思えない彼女たちは、その掃き溜めの中できらめく互いの姿を見つける。彼女たちが夢を叶えるための走行を止めないのは、掃き溜めの中に目を凝らし続けてきたからだ。青春時代を終えた私たちも、掃き溜めに目を凝らすことを忘れなければ彼女たちのように前進できるのではないかと思う。

この映画に映る全てをあえて掃き溜めと呼びたい。映画館の暗闇の中で、児山監督が、彼女たちが、現実を生きるために吐き続けた吐瀉物で出来上がった掃き溜めに、どうか目を凝らしてみてください。
そして映画を観た後、冬の寒さに吐き出す白い息を見送って、各々の生活に戻るそのときをどうか楽しみにしていてください。

(編集部:F)

イントロダクション

ラッパーを夢見ながらも、学校にも家にも居場所を見いだせず鬱屈とした日々を送る朴秀美(ぼく・ひでみ)役には、映画初主演の『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(18)で多くの映画賞新人賞を獲得、映画『愛されなくても別に』(25)の主演に加え、ゆりやんレトリィバァ初監督作品・映画『禍禍女』(26)で主演を務めるなど、多くの映画やドラマで活躍している南沙良。

もう一人の主人公、陸上部のエースで社交的かつ、スクールカースト上位に属しながらも、家庭では問題を抱えている映画好きの矢口美流紅(やぐち・みるく)役には、雑誌「Seventeen」の『ミスセブンティーン2018』に選ばれ、現在は「non-no」専属モデルに加え、俳優として『舞妓さんちのまかないさん』(22/NETFLIX)、映画『余命一年の僕が、余命半年の君と出会った話。』(24)、『赤羽骨子のボディガード』(24)、『か「」く「」し「」ご「」と「』
(25)など話題作への出演が続く出口夏希。

さらに、朴秀美や美流紅と共に、同好会「オール・グリーンズ」を結成する岩隈真子(いわくま・まこ)を演じるのは、数々の映画賞を受賞し話題となった劇場アニメ『ルックバック』(24)で河合優実とW主演を務め、海外映画に初出演した『KARATEKA』のスペイン公開が控える吉田美月喜。さらに、羽村仁成、金子大地、黒崎煌代など今最も旬なキャストが集結いたしました。

音楽はヒップホップトリオDos Monosのフロントマンである荘子itが担当、主題歌はクリエイティブミクスチャーユニットNIKO NIKO TAN TANの書き下ろし楽曲「Stranger」が務め、映像と音楽で生まれた化学反応が映画に彩りを与えています。

第30回釜山国際映画祭Vision部門に加え、第38回東京国際映画祭Nippon Cinema Now部門に公式出品となり、国内外から注目を集めている『万事快調〈オール・グリーンズ〉』。
未来を選べない若者たちが、自らの手で未来を奪いにいこうと軽やかにもがく、新たな時代の不適切な青春映画が幕を開けます!

 

ストーリー

ラッパーを夢見ながらも、学校にも家にも居場所を見いだせず鬱屈とした日々を送る朴秀美(南沙良)。陸上部のエースで社交的、かつスクールカースト上位に属しながらも、家庭では問題を抱えている映画好きの矢口美流紅(出口夏希)。
未来が見えない町で暮らすどん詰まりの日々の中、朴秀美が地元のラッパー佐藤(金子大地)の家で〇〇〇〇を手に入れる。その出来事をきっかけに、同級生で漫画に詳しい毒舌キャラ岩隈真子(吉田美月喜)、岩隈の後輩で漫画オタクの藤木漢(羽村仁成)らを仲間引き入れ、同好会「オール・グリーンズ」を結成、〇〇〇〇の栽培に乗り出す。

人生を諦めるのはまだ早い!自分たちの夢をかなえるために、この町を出ていくには、一攫千金を狙うしかない!
そして、学校の屋上で、禁断の課外活動がはじまるー

 

児山隆監督コメント

思い返してみると、僕にはいわゆる「映画みたいな青春」はなかったと思う。 陸上部には入ったけれど3ヶ月も続かなかったし、誰かに夢中になってこっぴどく失恋するようなこともなかった。 「青春」なんてものは、たぶん、もっと選ばれた人たちのものだったんじゃないかと少なくとも当時の自分は思っていた。 教室の隅っこで、漫画やアニメ、映画や音楽にばかりふれていた。 それらの中にしか自分の居場所はなかったし、誰も知らないものを知っているという、ちっぽけな優越感でなんとかバランスを取っていたんだと思う。 この映画は青春時代がただ過ぎ去っていくことを指を咥えて見ていることしかできなかった男が監督した「青春映画」だ。 あの頃好きだったもの、逃げ込んでいたもの、救われていたもの、全部詰め込んだ。 そうやってできた「万事快調」は、あの頃のひねくれた自分が観てもきっと面白いと言ってくれる映画になったと思う。 そうか、自分にもちゃんと青春があったんだ。 それはきっとこの映画を撮るための。 とまあ、なんだかそれらしいコメントはこの辺にして...、
超絶スーパーおもしろカッコいい映画が爆誕したんでみんな絶対観てね!!!!

児山隆監督プロフィール

映像ディレクター/映画監督/脚本家。CM制作、助監督、オフラインエディターを経験後、2015年独立。2021年「猿楽町で会いましょう」で劇場映画デビュー。​東京国際映画祭スプラッシュ部門ノミネート、ウィディネファーイースト映画祭ノミネート。2022年には小学館「アオアシスペシャルムービー」で広告電通賞金賞、BOVA広告主部門グランプリを受賞。2024年テレビ東京「SHUT UP」にてアジアコンテンツアワード作品賞にノミネート。長編映画として2本目となる「万事快調 〈オール・グリーンズ〉」が第30回釜山国際映画祭Vision部門にノミネート、2026年1月16日公開。

 

アップリンク吉祥寺ほか全国劇場にて1月16日(金)公開

公式サイト

『万事快調 〈オール・グリーンズ〉』(2026年製作/119分/日本)
監督:児山隆
原作:波木銅『万事快調〈オール・グリーンズ〉』(文春文庫)
出演:南沙良、出口夏希、吉田美月喜、羽村仁成、黒崎煌代、金子大地
配給:カルチュア・パブリッシャーズ

©2026「万事快調」製作委員会