『北の食景』二度と食べられない料理を通し、二度と戻らない時間に思いを馳せる。

『北の食景』二度と食べられない料理を通し、二度と戻らない時間に思いを馳せる。

2025-12-02 08:00:00

愛らしい羊たちの群がる青々とした草原。丘の向こうにゆっくりと沈んでいく真っ赤な太陽。霜が降りてきらきらと光る土の表面。こんもりと静かに積もる柔らかな雪。

彩り豊かな北海道の四季のなか、四人の料理人たちはそれぞれの向き合い方で店をしつらえ切り盛りし、二つとない料理で訪れる人々をもてなす。

本作『北の食景』に登場する四つの料理店は、札幌市中央区の住宅街にあるフレンチ「La Santé(ラ・サンテ)」、夕張郡栗山町にたたずむ日本料理店「味道広路(あじどころ)」、札幌市西区の小高い山から市内を望む循環型農園レストラン「AGRISCAPE(アグリケープ)」、そして札幌の繁華街すすきのの一角に店を構える「○鮨(まるずし)」。

多くの時間と丹精が注がれた食材や料理は言うまでもなく、一皿を前に交わされる会話や表情が、味や香りのように心に沁みわたる。

そこには、ご馳走を楽しみ食欲を満たすことでは得られないよろこびがあり、二度と食べられないものを通して、二度と戻らない時間に思いを馳せることができる。

札幌出身の上杉哲也監督は、アイヌ語で「私」という意味を持つ映像制作スタジオ「KUANI」を設立。「“私(個人)” に丁寧に向き合うこと」をモットーに、ドキュメンタリー的な映像制作を行なっている。

本作では、監督のふるさとである北海道の食を通して、育てる人、採る人、作る人、食べる人を映し出す。それはほとんどすべての人々の姿であり、そしてその営みを包む大きな時間の流れを、一つの風景のように見せてくれる。

『北の食景』は美食家のための単なるフードドキュメンタリーではなく、監督自身やわたしたち個人の土地や時間へのまなざしを引き戻してくれるような作品だ。

(小川のえ)

ストーリー

北海道を舞台に、四人の料理人と北国の四季が織りなす食の物語を追ったフードドキュメンタリー。

札幌のフレンチ「ラ・サンテ」高橋毅シェフは、生産者との信頼関係をもとに、土耕で育てられたホワイトアスパラガスや羊農家が手塩にかけて育てた希少のミルクラムを一皿へと昇華させる。

栗山町の日本料理店「味道広路」では、酒井夫妻が郷土の知恵と温もりを受け継ぎ、日本のもてなしの心を次世代へと伝えている。

札幌の郊外にある循環型レストラン「アグリスケープ」では、自ら農園を営む吉田夏織シェフが畑と厨房を往復し、自然と調和する料理を四季折々に生み出す。

そして札幌・すすきの「まる鮨」では、川崎純之亮大将が旬の海の幸と温かな会話で、人と人が笑顔で語り合う空間をつくり出す。

料理人と生産者、土地と季節が交錯する日々を淡々と切り取り、一皿の料理に込められた時間と想いを映し出す。

華やかさの裏にある労働と葛藤、そして北海道の自然と共に生きる歓び。

北国の四季と人間が紡ぐ食の景色が、スクリーンに広がる。

上杉 哲也監督メッセージ

一年間、北海道各地を巡り、四季とともに移ろう食と人の姿をカメラに収めました。

畑や牧場、厨房で生まれる一皿一皿には、自然の恵みと人の営みが重なっています。

春の芽吹きから冬の静寂まで、食を通じて命の循環と時間の尊さを見つめ直しました。

この映画は、北の大地で生きる人々と自然が織りなす「食の風景」を、五感で感じてもらえる作品になったと思います。

上杉 哲也監督プロフィール

1983年札幌生まれ。CM、映画の映像作品を中心にグラフィックのアートディレクションなど多岐にわたる領域で活動する映像ディレクター。 2010年、アイヌ語で「私」という意味を持つフィルムスタジオ KUANI を設立。 その名の通り、ごくパーソナルな事柄に着目し、ドキュメンタリーのような手法で映像制作を手掛ける。近年は広告映像の他に、原点でもある札幌を舞台とした長編映画やドキュメンタリーのプロジェクトを進めている。短編映画「となりの井戸」が北欧国際映画祭Best international Shortを受賞。

アップリンク京都 ほか全国劇場にて公開 

公式サイト

監督・脚本・撮影・編集:上杉哲也

製作総指揮:伊藤亜由美、宮口宏夫

エグゼクティブプロデューサー:北崎千鶴、谷嶋真行

プロデューサー:山口普

音楽:林正樹 編集:寺本遥

制作担当:佐藤万尋 整音:井口勇

料理監修:小西由稀

制作会社:クアニ

制作協力会社:ノックオンウッド

製作:クリエイティブオフィスキュー、北海道新聞社

配給:バリオン

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