『兄を持ち運べるサイズに』そっと心に持ち帰りたい、愛おしい家族のかたち
良一がそっと本を開く。
見開きに刻まれた言葉――「家族とは支えであり、呪縛ではない」
その一文が胸に静かに残る中、物語は動き出す。
突然の兄の死。村井理子(柴咲コウ)は幼いころから振り回されてきたマイペースで自分勝手な兄(オダギリジョー)の後始末を任されることに。葬儀の手配、遺品整理…兄が残した「現実」。家族が「兄」の最後に奮闘する、笑いあり、涙ありのてんてこまいな4日間が始まる。
『湯を沸かすほどの熱い愛』『浅田家!』で知られる中野量太監督が、約5年ぶりに再びメガホンを取った本作には、実力派俳優たちが顔をそろえた。
幼い頃から自分本位な兄に振り回され続けてきた主人公・松井理子を演じるのは柴咲コウ。そして、家族の中心で騒動を巻き起こす“ダメな兄ちゃん”にはオダギリジョーが扮する。かつてその兄と夫婦だったものの、ある事情で別れた元妻・加奈子役を務めるのは満島ひかり。兄と加奈子の娘で両親離婚後は母と暮らす満里奈を演じるのは、青山姫乃。2人のもう一人の子供で最後まで兄と暮らした息子・良一役を味元耀大が演じる。
主人公の理子を演じた柴咲は本作の出演に際し、「形は様々なはずなのに、私は村井理子さんを演じることで積み重なっていた心の陰の部分に優しく灯りをともされたような、そんな感覚を抱いた」と心境の変化を語っている。
また、兄を演じたオダギリは、「家族だからこそ、知っていること。家族だからこそ、知らないこと。家族だからこそ期待し、また後悔してしまうこと。家族って簡単なものではないけど 思い切っていつもより近づいて、素直に向き合いたいと思わせてくれる作品でした」と話す。そして、加奈子務めた満島は、本作への出演を「中野量太監督の大きな瞳に宿る優しさ、大好きな柴咲コウさんの豊かさ、ロケで伺った宮城県の街の柔らかさや夕陽の美しさに背中を押してもらいながらの、良い撮影だったなと感じます」と振り返った。
「家族」という“当たり前”を、常に独自の角度から切り取ってきた中野量太監督。幼い頃から「家族っていったい何だろう」と自問し続けてきた中野監督は、監督になってからもその問いを映像に投げかけてきた。それぞれの家族がそれぞれの形を持つように、すべての家族はひとつとして同じじゃない ――。 その多様な「家族のかたち」を、毎回新鮮な気持ちで描こうとしている。彼が描く人間は、“単なる善人/悪人”ではない。欠点もあれば愚かさもあるけれど、滑稽で、壊れやすくて、だからこそどこか愛おしい。そんな多面的で、本物の人間らしさに満ちた登場人物たちを、監督は丁寧に見つめる。“悪い人すら愛おしい”と感じさせるまなざしこそが、中野監督の物語を特別なものにしている。
原作は村井理子の『兄の終い』。村井は映画化にあたり、亡き兄への手紙のようにこう綴る。「兄ちゃん、あの日からもう5年。とうとう映画が完成しました。まさか自分のことが映画になったなんて知る由もない兄ちゃん、天国の両親と穏やかな時間を過ごしていてください。いつか私もそちらに行きます。そしたらもう一度、四人家族をやり直そう」
不器用で、面倒で、愛おしい――家族という名の存在。
特別な日ではないけれど、小さなケーキを買って、家に帰る足取りが少し軽くなるような、そんな温かさを残す一作だ。
(小出)
イントロダクション
本作の主人公・理子を演じるのは、『GO』で日本アカデミー賞新人俳優賞・最優秀助演女優賞を受賞し、現在も話題作に出演し続ける柴咲コウ。家族を翻弄する「映画史上稀にみるダメ兄ちゃん」を演じるのは、多方面で活躍するオダギリジョー。さらに、兄の元妻・加奈子役には『ラストマイル』で高い評価を得た満島ひかりが出演。5年ぶりの新作となる中野量太監督は、「自信を持って届けたい作品」と語り、俳優陣のアンサンブルや子どもたちの自然な演技を絶賛。原作者・村井氏は、亡き兄への想いをつづった手紙のようなコメントを寄せ、映画完成への喜びと家族への深い愛情を表した。
ストーリー
何年も会っていない兄が、死んだという知らせだった。発見したのは、兄と住んでいた息子の良一だという。
「早く、兄を持ち運べるサイズにしてしまおう」
東北へと向かった理子は、警察署で7年ぶりに兄の元嫁・加奈子とその娘の満里奈と再会する。
兄たちが住んでいたゴミ屋敷と化しているアパートを片付けていた3人が見つけたのは、壁に貼られた家族写真。
子供時代の兄と理子が写ったもの、兄・加奈子・満里奈・良一の兄が作った家族のもの…
同じように迷惑をかけられたはずの加奈子は、兄の後始末をしながら悪口を言いつづける理子に言う。
「もしかしたら、理子ちゃんには、あの人の知らないところがあるのかな」
もう一度、家族を想いなおす、4人のてんてこまいな4日間が始まったー。
中野量太監督コメント
5年ぶり、満を持しての新作です。『面白い映画を作ったので観て!』と、自信を持って言いたくて、脚本から仕上げまで、真摯にこだわり抜いて作り上げました。誰もが人生で経験するであろう身近な話を、リアルかつ、映像でしか表現できない奇想天外な方法で描いています。柴咲さん、オダギリさん、満島さん、この三人の絶妙なアンサンブルは、監督として、もう堪らんです。僕の想像を超えるシーンをいくつも撮れました。子ども達のナチュラルで存在感ある演技も素晴らしかった。自分の身にも起こるかもしれない話です。もしかしたら、この映画は、【明日のあなたの真実】になるかもしれません。最後に言いたい。
『めっちゃ面白い映画を作ったので観てね!』

監督プロフィール
1973年7月27日生まれ。京都育ち。大学卒業後、日本映画学校(現:日本映画大学)に入学し3年間映画作りの面白さに浸る。卒業制作『バンザイ人生まっ赤っ赤。』(00)が、日本映画学校今村昌平賞、TAMA NEW WAVEグランプリなどを受賞。卒業後、映画の助監督やテレビのディレクターを経て、6年ぶりに撮った自主短編映画『ロケットパンチを君に!』(06)が、ひろしま映像展グランプリ、福井映画祭グランプリ、水戸短編映像祭準グランプリなどを含む7つの賞に輝く。2008年、文化庁若手映画作家育成プロジェクト(ndjc)に選出され、35ミリフィルムで制作した短編映画『琥珀色のキラキラ』(08)が高い評価を得る。2012年、自主長編映画『チチを撮りに』(12)を制作、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭にて日本人初の監督賞を受賞し、ベルリン国際映画祭を皮切りに各国の映画祭に招待され、国内外で14の賞に輝く。2016年、商業長編映画『湯を沸かすほどの熱い愛』では、日本アカデミー賞・報知映画賞など多くの映画賞を席巻。二宮和也主演の『浅田家!』では、国内のヒットのみならずフランスでも大ヒットを記録した。独自の視点と感性で『家族』を描き続けている。






アップリンク吉祥寺 ほか全国劇場にて 11月28日(金)公開
監督・脚本:中野量太
出演:柴咲コウ、オダギリジョー、満島ひかり、青山姫乃、味元耀大、斉藤陽一郎、岩瀬亮、浦井のりひろ(男性ブランコ)、足立智充、村川絵梨、不破万作、吹越満
原作:村井理子「兄の終い」(CEメディアハウス刊)
制作プロダクション:ブリッジヘッド/パイプライン
製作幹事:カルチュア・エンタテインメント
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会