『ボンヘッファー ヒトラーを暗殺しようとした牧師』9月に上場した気鋭のエンジェル・スタジオ北米配給の牧師スパイ映画
ヒトラーを悪として、彼に立ち向かう牧師の話──そう単純に言い切れる作品ではない。
牧師という“神に仕える身”でありながら、どんなに悪人であっても「人を殺してはならない」という戒めを抱く立場で、なおヒトラー暗殺計画に関与していく。その牧師が「人を殺めていいのか」という命題と真正面から向き合う、いわばキリスト教信者の内なる葛藤に焦点を当てたサスペンスドラマである。
本作の主人公は、実在したドイツの神学者・牧師ディートリッヒ・ボンヘッファー(Dietrich Bonhoeffer)。
彼は第二次世界大戦中、ナチス政権下でヒトラーに抵抗した“告白教会”の一員であり、やがて反ナチ地下組織との接点を持ち、暗殺計画に関与したとされる。その結果、1943年に逮捕され、戦争終結直前の1945年4月、フロッセンビュルク強制収容所で処刑された。
グレース宣教会 牧師・青木保憲さんはこう語る。
「『牧師』と『暗殺計画加担者』という二項対立では、彼の本当の姿が見えてこないのです。
多くの人がボンヘッファーという人物を知ったとき、『牧師なのに、どうして暗殺計画に加担したのだろう?』と疑問に思います。
しかし、この一見矛盾する二つの要素がボンヘッファーの中で同じ源泉を持っていたと考えるなら、それは矛盾ではなく、“祖国と教会に集う同胞たちへの愛”だったことに気づかされます。
キリスト者にとって、人としてできる『最大の愛』の行為とは、自らの命を犠牲にして他者を生かすことなのです」
本作をアメリカで配給したのは Angel Studios(エンジェル・スタジオ)。
人身売買を題材にした『サウンド・オブ・フリーダム』を大ヒットに導き、2024年9月にニューヨーク証券取引所(NYSE)へ上場した気鋭のスタジオである。
同社の企業ミッションは「Stories that amplify light(光を増幅する物語)」。信仰・家族・徳目を前面に押し出したラインナップを掲げ、観客自身が資金や宣伝に参加できるPay It Forward(他者分のチケットを買う)制度など、独自の参加型システムを展開している。
『サウンド・オブ・フリーダム』ではこの仕組みだけで2,600万ドル相当のチケットが動いたと報じられており、まさに“観客と共に映画を広げる”という新しいビジネスモデルを築いている。
また、エンジェル・ギルド(Angel Guild)という仕組みでは、ファン=有料会員が次に配給・制作する企画をサンプル映像や試写を観て投票し、一定スコアを超えた作品のみが社内会議に進むという“観客参加型の選定システム”を採用。これが同社の成功を支える大きな柱となっている。
本作の舞台はドイツだが、全編英語で撮影されている。
制作はアイルランドとベルギーのスタジオによる国際共同製作で、全世界の配給権をエンジェル・スタジオが取得。アメリカとカナダでの配給を自社で行っている。
アメリカのキリスト教人口は約6割、カナダでも5割にのぼるといわれる中で、この層に向けた信仰映画を戦略的に配給していく同社のモデルは、キリスト教人口が1%前後とされる日本では成立しにくい、極めてユニークな映画ビジネスといえる。
あなたがキリスト教徒であるかどうかに関わらず、ぜひ一人の人間として、実在の牧師ボンヘッファーが抱えた信仰と行動の矛盾、そして愛の覚悟を、スクリーンで確かめてほしい。
善と悪、信仰と現実、そして愛と犠牲──そのすべてが交錯するこの物語の中心に、“人間としての光”がある。
イントロダクション
第二次世界大戦下、ナチス政権に抵抗しヒトラー暗殺計画に加担した実在の牧師ディートリヒ・ボンヘッファー(1906–1945)の壮絶な生涯を描く。ナチスに支配された教会や迫害されるユダヤ人を救うため、我が身を顧みず行動した彼は、平和を祈る聖職者でありながらスパイ活動に身を投じ、ヒトラー暗殺の共謀者となっていく。家族を想い、信仰を貫き、抵抗運動に身を置いた39年間を通して、理想に生きた一人の人間の姿が浮かび上がる。
監督・脚本・製作を務めたのは、『ハドソン川の奇跡』『博士と狂人』など実話を題材にした名脚本家トッド・コマーニキ。製作は、実話映画『サウンド・オブ・フリーダム』で世界的ヒットを記録したエンジェル・スタジオが担当し、「勇気と正義ある行動が世界を変える」というテーマを貫く。
主演のヨナス・ダスラーがボンヘッファーの内面を熱演し、アウグスト・ディール、モーリッツ・ブライブトロイら実力派俳優が脇を固める。
彼の残した「悪の前の沈黙は悪であり、神の前に罪である」「行動なき信仰は信仰ではない」という言葉は、今なお世界に響く。全米公開時にはCinemaScoreで「A」評価、映画評論サイトRotten Tomatoesで観客満足度92%を記録した話題作。
ストーリー
第一次大戦で兄を失い、遺された聖書を手に神学の道へ進んだディートリヒ・ボンヘッファー。
アメリカで自由な信仰に触れた彼は、帰国後、ナチスによって支配された教会の現実に直面する。
信仰と良心の狭間で葛藤しながらも、「悪の前の沈黙は悪である」と声を上げ、抵抗運動に身を投じていく。
やがてヒトラー暗殺計画に加わり、命を賭して独裁に立ち向かったボンヘッファーの信念は、過酷な時代を越えて今も輝きを放つ。
牧師として、そして一人の人間として、真実に生きた男ディートリヒ・ボンヘッファーの生涯を描く。
トッド・コマーニキ監督インタビュー

Q:監督することになったきっかけ
私がこの作品に近づいたのではなく、ディートリヒ・ボンヘッファーが私を探し当てたのです。脚本を書き始めたのは約6年前で、2019年に完成し、2023年に映画化しました。私は最初、脚本も監督も断りました。しかし、神は私の「ノー」には興味がありませんでした。神は私の「イエス」という答えを求めていたのです。企画は私を追い続け、屈服した時、初めて深い喜びと勇気を見出しました。ディートリヒは、信じるすべてを賭けて正しいことを貫いた人間でした。
Q:プロジェクトの始まりについて
ディートリヒのことを初めて知ったのは20代前半、彼の著書「弟子としての代償」を読んだ時でした。映画化の話を受けた際、すでに脚本と監督は決まっていましたが、その脚本は彼にふさわしい物語ではありませんでした。ディートリヒが主人公でなかったのです。私は「彼の視点から一から作り直さなければならない」と伝えました。するとプロデューサーが「あなたのビジョンで進めよう」と言ってくれました。延期されたことも幸運でした。この物語が語られるべき時期は、まさに今だと思ったのです。
Q:撮影について
撮影はアイルランドで11日間、ベルギーで約1か月行いました。当初はチェコで撮影予定でしたが、ウクライナ侵攻で中止に。妻がアイルランド出身だったことから、彼女の知人を通じて現地のプロデューサー、アーサー・ラペンに相談しました。彼の協力のもと、急ピッチでヨーロッパ法人を設立し、撮影を実現させました。困難な中でも、皆がこの作品に力を注いでくれました。
Q:観客に伝えたいこと
他者の人間性を制限する瞬間から、ファシズムは始まります。私たちはその仕組みを理解し、何ができるのかを考えなければなりません。ディートリヒは完璧な英雄ではなく、常に「自分が正しいことをしているのか」と葛藤する普通の人間でした。彼は真実を語り、他者のために命を捧げた。彼は「時代を超えた人物」ではなく、「私たちの時代の人物」なのです。
監督プロフィール
1965 年アメリカ、ペンシルバニア州フィラデルフィア生まれ。アメリカの劇作家、小説家、脚本家、監督、プロデューサーとして活躍する。文学界において、彼の最初の小説「フリー」は 1993 年に Doubleday から出版され日本でも扶桑社より発売された。2 作目の小説「Famine」は絶賛を浴び、その後フランス語、イタリア語、ドイツ語に翻訳された。
コマーニキの脚本作品には、クリント・イーストウッド監督、トム・ハンクス主演の『ハドソン川の奇跡』が含まれ、この作品は公開初週に興行収入ランキング 1 位を記録した。そのほかメル・ギブソンとショーン・ペン主演の『教授と狂人』、ブルース・ウィリスとハル・ベリー主演『パーフェクト・ストレンジャー』などの脚本も手がけた。「Heart」は、心臓移植を受けた唯一の職業アスリートの真実の物語で、監督を務める予定だ。映画以外にも ABC,NBC, CBS, FOX, TNT, Netflix などのドラマの脚本も手掛けている。



アップリンク京都ほか全国劇場にて11月7日(金)公開
監督・脚本・製作:トッド・コマーニキ
出演:ヨナス・ダスラー、アウグスト・ディール、モーリッツ・ブライブトロイ、ナディーン・ハイデンライヒ、デヴィッド・ジョンソン、フルーラ・ボルク
プロデクションデザイナー:ジョン・ビアード
撮影:ジョン・マシソン
編集:ブルー・マレー
字幕翻訳:大塚美左恵
字幕監修:小川政弘
配給:ハーク
配給協力:フリック
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