『君と私』セウォル号沈没事故。光のなかに眠る君たちへ。

『君と私』セウォル号沈没事故。光のなかに眠る君たちへ。

2025-11-10 08:00:00

セウォル号沈没事故当時、私は大学生だった。

修学旅行でチェジュ島へと向かう高校生たちを乗せた旅客船セウォル号が転覆、乗務員たちは乗客に対して避難の適切な指示を怠るどころか、自分たちだけ海洋警察に助けを求めた。そのまま船は沈没し、250名の高校生を含む乗客299名が犠牲となった。

この痛ましい事件についての報道を目にしていたと思うが、ほかの大きな事件、事故と同じように、出来事は日常に紛れて、隣の国で起きた惨事についての記憶は薄れていった。

覚えているのは、韓国人の留学生の友だちが吐くように放った一言。「韓国おわった」。

修学旅行の前日を過ごす高校生を描く本作『君と私』は、セウォル号沈没事故で命を落とした高校生たちへ手向けられた鎮魂歌のような存在だ。

観終わったいま、そんな存在の映画に対して、紹介したり宣伝したり、そういう目線で語ることはとてもむずかしい。観ている最中、画面に映るのは健気に笑ったり怒ったりしている登場人物たちなのに、胸から首、頬から耳にかけて、熱が込みあげた。

監督は、俳優として活躍するチョ・ヒョンチョルが務めた。撮影は、雑誌『BRUTUS』で「今最も“要注意”すべき韓国のカルチャーを牽引するキーパーソン」として紹介された気鋭の映像作家、DQMが担当。音楽は韓国のインディーズシーンを牽引し、サマーソニックやフジロックなど日本の音楽フェスにも出演するバンドHYUKOH(ヒョゴ)のリーダーのオヒョクが手掛けている。

彼らの正確な年齢はわからないが、事故発生当時、わたしと然程変わらない歳だったはずだ。そんな彼らが、突然消えてしまった弟妹(きょうだい)に捧げるようにして作った作品だと思う。

校庭が、そこに咲く桜の花が、その下を駆ける生徒たちが、強くて白い光をまとっている。

この世とあの世の境目を照らすようなその眩しさが、ただただ美しい光として、安らかに眠る彼らに寄り添いますように。

(小川のえ)

イントロダクション

セウォル号沈没事故を背景に紡がれる、

女子高生たちの愛の風景。

2014年4月16日、修学旅行中の韓国安山市檀園高校2年生など乗客476名を乗せた大型旅客船セウォル号が、南西部の観梅(クァンメ)島沖海上で転覆、沈没した。

犠牲者は299名、行方不明者は5人に上り、犠牲者のうち、250人は修学旅行中の安山市檀園高校2年生の生徒で、11人は引率の教員だった。

本作は、間接的に観客に事故を想起させながら、その時、確かに人生を歩んでいた彼女たちや彼らの日常に寄り添う愛の物語である。

 

監督は、ドラマ『D.P. ー脱走兵追跡官ー』シーズン1(21)の脱走兵チョ・ソクポン役で視聴者の涙を誘い、百想芸術大賞で男性助演賞を受賞した名バイプレーヤーのチョ・ヒョンチョル。

撮影には、広告やMVを中心に手掛ける気鋭の映像作家DQMが、音楽には今年、フジロックフェスティバルにも出演し話題を呼んだ4ピースバンドHYUKOH/ヒョゴのリーダー兼ボーカルを務めるOHHYUK/オヒョクが抜擢された。

韓国カルチャーシーンを牽引するクリエイターが、「夢と現実の境界を曖昧にしたかった」というチョ監督のイメージをふくらませた『君と私』。

幻想的な映像美と浮遊感のある寂しげなサウンドがエモーショナルな雰囲気を紡ぎ出し、いつまでも心に宿り続ける、忘れがたい一遍が誕生した。

ストーリー

修学旅行の前日。セミは、教室で不思議な夢を見た。

胸騒ぎを覚えたセミは学校を抜け出し、想いを寄せるハウンの病室へと走る。

自転車との衝突で脚をけがしたハウンは、修学旅行を諦めて入院中なのだ。

ところが、ふいに見てしまったハウンの手帳の一言に、セミの視線が止まる。”フンババにキスしたい”。

 

夢のせいで不吉な予感から逃れられないセミは、一緒に修学旅行に行こうとハウンを必死で説得し、ビデオカメラを片手に何とか旅費を工面しようとする。

しかしどこか煮え切らないハウンの態度に、セミの抑えていた感情がついに溢れ出す。

心に秘めてきた想いを、今日こそ伝えたい。

焦るセミと、ある事情を抱えるハウン。お互い言葉にならない気持ちを抱えたまま、二人だけの夜が訪れた──。

チョ・ヒョンチョル監督メッセージ

だれかの記憶の中では忘れ去られていくとしても、

春がくるたびに、心を痛めている方がいることを思い出してほしい。

チョ・ヒョンチョル監督プロフィール

韓国芸術総合学校映像院映画科在学中に発表した短編映画が、富川国際ファンタスティック映画祭、ソウル独立映画祭、ミジャンセン短編映画祭な どに招待され注目を集める。その後は、俳優として、映画『コインロッカーの女』(15)や『サムジンカンパニー1995』(20)など個性あふれる演技力によって存在感を高め、ドラマ『D.P. ー脱走兵追跡官ー』シーズン1(21)では“韓国のジョーカー ホアキン・フェニックス”と呼ばれ話題に。同作にて、第58回百想芸術大賞テレビ部門助演男優賞、第20回ディレクターズ・カット・アワード で今年の新人俳優賞を受賞。そしてこの度7年にも及ぶ歳月をかけて、自ら脚本も手がけた初の長編監督作『君と私』が、国内外の映画祭に多数招かれ、高い評価を得ている。

 

 

 

11月14日(金)渋谷ホワイトシネクイント他にて全国公開

アップリンク吉祥寺アップリンク京都 でも上映

公式サイト

監督:チョ・ヒョンチョル

脚本:チョ・ヒョンチョル、チョン・ミヨン

出演: パク・ヘス、キム・シウン、オ・ウリ、キル・へヨン、パク・ジョンミン

撮影:DQM

音楽:OHHYUK/オヒョク

2022年|韓国|118分|ビスタ|5.1ch|G|原題:너와 나|英題:The Dream Songs|

字幕翻訳:廣川芙由美|配給:パルコ

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