『ガザからの声:エピソード2:ミュージシャン・アハマドのメッセージ』世界中の芸術家たちへのメッセージは、不正義に沈黙することは加担だ
ガザでは、2023年10月に始まったイスラエルとハマスの戦闘が約2年にわたり続いてきました。2025年10月初旬、両者の間で人質の解放を含む一時的な停戦合意が報じられましたが、その後、合意内容の履行をめぐって緊張が再び高まり、イスラエルのネタニヤフ首相は「人質の引き渡しが行われなければ戦闘を再開する」と表明し、ガザへの空爆も再開されたと伝えられています。
映画を配給し劇場公開するスピードでは遅い!という思いから始めた、ガザの映像制作会社アレフと共同で行うプロジェクト『ガザからの声』。
ガザに住む人の視点で、ニュースやSNSで目にする短い映像ではなく、その向こう側にあるガザの人たちの声を伝えるプロジェクトです。
先日ガザのムハンマド・サウワーフ監督からメールが来ました。
「停戦は始まりましたが、爆撃が沈静化したことを除けば、生活に大きな変化はありません。それ自体は良いことです。しかし、状況は依然として不安定で、ガザ地区の約53%はイスラエル軍の直接支配により依然として立ち入りが制限されています」
最後に「このメッセージを書き終える今も、遠くで爆発音が聞こえてきます。戦争がまだ本当に終わっていないことを思い出させてくれます」と書かれています。
「エピソード1:アハマドの物語」に続き公開するのは、「エピソード2:ミュージシャン・アハマドのメッセージ」です。
撮影は7月12日、「無名兵士公園」の避難民キャンプで生活するミュージシャン、アハマド・アブ=アムシャが子どもたちに音楽を教える様子を捉ました。
彼がギターを弾きながら歌う「フリー・パレスチナ」の最後の歌詞は、
♪パレスチナを解放せよ!家はない♪ です。
アハマドはこう語ります。
「世界中の芸術家たちへのメッセージは、不正義に沈黙することは加担だ。真実を語れ、命を失っても。すべての芸術家にパレスチナのために歌ってほしい」。
また、停戦後のガザについても、破壊された商店街で知人とアラビアコーヒーを飲みながらこう語っています。
「ネタニヤフが建てようとしている“人道都市”。本当の目的は強制移住だ」。
「エピソード3」は、9月9日にイスラエル軍によるガザ市全域避難命令を受け、多くの人が南部へ移動する様子を緊急に撮影しました。
歩いて避難する子どもたちの声を聞きました。
今後、停戦後のガザの人たちの声を捉えた「エピソード4」を撮影する予定です。
劇中で主人公アハマドが弾き語る「フリー・パレスチナ」MV
ストーリー
アハマド・アブ=アムシャはミュージシャンであり、5人の子どもを育てる父親でもある。かつてはコンサート活動を通じて生計を立てていた。
彼はガザ北部のベイトハヌーンに住んでいたが、戦争の勃発以降、これまでに12回もの避難を余儀なくされた。現在はガザ西部にある「無名戦士公園」内のキャンプで暮らしている。2025年1月、停戦が発表された際にベイトハヌーンへ帰還したものの、自宅もスタジオも瓦礫と化していた。それでも、比較的形を保っていた部屋にテントを張り、留まることを選んだ。
しかし、2025年3月に停戦が再び崩壊すると、彼はアル・レマル地区へと移動し、現在もそこで生活している。
アハマドは、スマートフォンで見るニュースや周囲の人々からの情報を頼りに、日々、現状や知人の安否を確認している。神に祈ることでしか心を保てない、不安に満ちた日々が続く。
そんな避難生活の中で、アハマドは「音楽でこの不安を吹き飛ばせないか」と考えるようになった。彼はかつて共にエドワード・サイード音楽院で働いていた仲間の音楽家たちと協力し、子どもたちに楽器や歌を教える活動を始めた。
戦争への恐怖で笑顔を失った子どもたちが、音楽を通して再び笑う姿を見る瞬間が、アハマドにとって何よりの支えとなっている。戦争のことを忘れられる、ほんの一瞬の時間――それが、彼が活動を続ける理由だ。
アハマドは信じている。音楽は戦争への抵抗であり、世界に声を届ける最も強い手段だと。そして、世界中の芸術家たちにこう呼びかける。「不正義に沈黙することは、加担することだ。」
今の彼の目標は、できるだけ多くの子どもたちに音楽の喜びを届けること。パレスチナへの希望を失うことなく、アハマドは今日も音楽を奏で続けている。
ムハンマド・サウワーフ監督プロフィール

パレスチナ・ガザ出身の映像作家、プロデューサー、ジャーナリスト。ALEF Multimediaの創設者。16年以上の経験を持ち、携わった作品は30作品以上。
主な作品に、イギリスのマイケル・ウィンターボトム監督と共同制作した2021年のガザ攻撃を記録したドキュメンタリー『Eleven Days in May』(邦題『忘れない、パレスチナの子どもたちを』2024年、配給:アップリンク)がある。





アップリンク吉祥寺、アップリンク京都、オンラインにて10月31日(金)公開
2025年/パレスチナ・日本/アラビア語/1:1.65/2ch/64分
監督:ムハンマド・サウワーフ
撮影:イブラヒム・アル・ウトゥラ
リサーチャー:アブデルカリーム・アル=ズワイディ
編集:芝暢佑
製作:アップリンク、アレフ・マルチメディア
プロデューサー:浅井隆、ムハンマド・サウワーフ
配給・宣伝:アップリンク
©UPLINK Co. & ALEF MULTIMEDIA