『アニタ 反逆の女神』ストーンズのミューズという構図を覆し女性の視点を取り戻した傑作!

『アニタ 反逆の女神』ストーンズのミューズという構図を覆し女性の視点を取り戻した傑作!

2025-10-27 16:26:00

アップリンク吉祥寺では、これまでにも往年のロックバンドやミュージシャンのドキュメンタリーが数多く公開されてきた。その中の一つとして、ローリング・ストーンズのミューズとして知られるアニタ・パレンバーグ(享年73歳:1944–2017)のドキュメンタリーを紹介したい。懐かしい映像や知られざるエピソードを通じて、シニア世代の観客には満足感を与える作品と思われるかもしれない。だが本作は、単なる懐古的ドキュメンタリーではない。
本作が特別なのは、プロデューサーを務めるのがアニタとキース・リチャーズ(81歳)の息子マーロン・リチャーズであり、妹のアンジェラ・リチャーズが出演し、さらにキース自身も声で登場している点にある。つまりこれは、超有名人一家のプライベート・フィルムでもあるのだ。

台本となったのはアニタの死後発見された彼女が記した自伝原稿だ。一人の女性のその時代時代に合った映像がなんと残っている事に驚くというか、二人の監督たちの編集能力に驚くと共に、一人の人生を2時間で表現しいる事実に胸が詰まる思いもする。

「ストーンズのミューズ」という言葉には、主語がストーンズで、アニタが“添え物”のように扱われるニュアンスがある。しかし本作はその構図を覆す。ここではアニタ自身が主語となり、ストーンズや他の著名人たちはむしろ彼女の人生を彩る脇役として描かれている。おそらく、日本のファンの多くは彼女の「ミューズ以後」の活躍を知らないのではないだろうか。

映画の中で語られるように、アニタの人生には二幕がある。ドラッグに溺れて終わる悲劇ではなく、キースと別れた後、大学に進学して卒業し、ケイト・モスのメンターとして活躍するなど、晩年まで精力的に生きた彼女の姿が描かれる。ストーンズ・ファンはもちろん、アニタを知らない若い観客にとっても、彼女の生き方は刺激的で、現代的な女性像として共感を呼ぶに違いない。

監督はアレクシス・ブルームとスヴェトラーナ・ジル、二人の女性監督。以下に彼女たちのコメントを紹介する。

本作は、私たちアレクシス・ブルームとスヴェトラーナ・ジルが「個人的で、永く残るものを作りたい」という想いから手作業で丁寧に作り上げた作品です。 これは「家族についての映画」であり、「家族によって作られた映画」でもあります。アニタ・パレンバーグとキ ース・リチャーズの息子であるマーロン・リチャーズが、母アニタの複雑な人生をきちんと伝えたいという願 いのもと、2020 年にこの企画を私たちに託してくれました。私たちは 3 年間にわたりアニタの親しい人々と 密接に関わりながら制作を進め、その結果、公の場で生きていた彼女の人生の、極めてプライベートな側 面を映し出す作品が完成しました。 作品全体にちりばめられた 8 ミリのホームムービーは、この親密さをもっとも純粋に表現しています。 本作は、アニタの家族の正直さと愛情の表れでもありますが、決して「聖人伝」ではありません。アニタは辛辣なユーモアと、お世辞や美化を嫌う姿勢で知られていました。この映画は、ありがちな「ブランド化された 内容」や「有名人伝記映画」の枠に収まらず、苦さと甘さ、挫折と勝利の両面を受け入れています。 アニタ・パレンバーグは真の“アンチヒーロー”であり、企業的メッセージの解毒剤のような存在です。

私たちはまた、この映画を、“歴史の再生”として捉えました。ロックンロールの公式な物語に、女性の視点 を取り戻し、アニタを再び可視化するための試みです。 私たちにとって本作は、歴史を意図的に調整し直す行為であり、躊躇のないリーダーであったアニタを祝 福する映画でもあります。 アニタは確かに多くの人のミューズでしたが、それ以上に、今もなお私たちに大きなインスピレーションを与 えてくれる存在です。アニタの孫のひとりは言いました──「アニタはオリジナルのギャングスター。最後ま で“ガールパワー”だった」。 私たちは、この極めて個人的な物語が、普遍的なものになり得ると信じて映画を作りました。アニタは、パ ートナーとの関係のなかで自分の仕事をどう成立させるか、母であることと自由への欲求との間で葛藤して いました──そうしたテーマは、現代にこそ通じるものです。 この物語は時に容赦のないものですが、アニタのユーモア──そして私たちのユーモア──がきちんと伝 わることを願っています。アニタはリスクを恐れませんでした。そして私たちも同じく、リスクをとりました。この作品は、独自のスタイルとリズムを持った没入型のドキュメンタリーです。 「彼女は、誰もが憧れるすべてを持っていました」。

(TA)

イントロダクション

ローリング・ストーンズのミューズであり共作者、女優、モデル、ボヘミアン・ロック・シックを生み出したファッションアイコン、そして愛情深い母親でもあったアニタ・パレンバーグ(1944-2017)。
1960 年代から 70 年代の文化や風俗に多大な影響を与えた彼女の、波乱に満ちた人生が明らかに。
彼女は 1965 年ストーンズの公演を観に行き、リーダーのブライアン・ジョーンズと恋に落ちる。横恋慕するキース・リチャーズ、映画で共演したミック・ジャガーも彼女のとりこに。ブライアンの死後、キースとの間に三児をもうけるが末っ子を生後 10 か月で亡くす。ドラッグの問題もあり逃げるように引っ越しを繰り返すファミリーには、さらなる決定的な悲劇が待っていたー。しかし嵐の渦巻く地獄からアニタは不死鳥のごとくよみがえるー。
本人の死後発見された未発表の回顧録の言葉(声:スカーレット・ヨハンソン)を用いながら、息子マーロン、娘アンジェラ、そして彼らの父キース・リチャーズが、愛おしくも痛切な家族の秘話を語る。
先ごろ(2025 年 1 月 30 日)亡くなった、ミックの恋人でありアニタと親友でもあったマリアンヌ・フェイスフル、アニタを崇拝するケイト・モスらがアニタの影響力のとてつもない大きさ深さを物語る。
未公開のホーム・ムービーや家族写真から浮かび上がる、ストーンズと過ごした激動の日々とその後の年月。
アニタ・パレンバーグは常に状況に立ち向かい新しい価値観を創造する女性だった。本作は、息子マーロン・リチャーズがそんな母に捧げるべく製作総指揮を務めた。

 

アニタ・パレンバーグ プロフィール

1942 年生まれのイタリア系ドイツ人のモデル、俳優、ファッションアイコンであり、1960-70 年代のロック文化における象徴的存在。多言語を操り、反体制的で自由奔放。彼女は、自身のペルソナとクリエイティヴィティで時代を体現した先駆者。彼女がいなければ、ローリング・ストーンズのイメージも、ロックとファッションの結びつきも大きく違っていたかもしれない。晩年にはファッション学を修め、ヴィヴィアン・ウエストウッドとの共作もした。周囲からは「ミューズ」「It Girl」「ロック界のワルキューレ」と称された。2017 年没。

 

アレクシス・ブルーム監督 プロフィール

南アフリカ・ヨハネスブルグ生まれ。現在はニューヨーク在住。キャリア初期には、ナショナルジオグラフィック・チャンネルや BBC ワールドの番組制作に広く携わり、PBS の「フロントライン」や「ノヴァ」でも数多くの作品を手がけた。2014 年には、ユニバーサル・ピクチャーズ製作の長編ドキュメンタリー『We StealSecrets: ウィキリークスの真実』で全米製作者組合賞(Producers Guild of America Award)を受賞。同作は BAFTA 賞にもノミネートされた。2017 年には、HBO の『Bright Lights: キャリー・フィッシャーとデビー・レイノルズ』で、エミー賞においてノンフィクション番組の優秀監督賞およびドキュメンタリー製作における顕著な功績賞にノミネート。さらに 2019 年には、ドキュメンタリー『Divide and Conquer: ロジャー・エイルズの物語』でエミー賞にノミネートされた。彼女の作品は、カンヌ、テルライド、トロント、ニューヨーク映画祭など、世界各地の映画祭で上映されている。

 

スヴェトラーナ・ジル監督 プロフィール

生まれも育ちもニューヨークの映画作家。これまで、アレックス・ギブニー、エロール・モリス、モーガン・スパーロックといった現代を代表する著名なドキュメンタリー作家たちのもとでプロデューサーとして活動してきまた。キャリアのスタートは、マイケル・ムーア監督の『キャピタリズム〜マネーは踊る』や、マイク・ミルズ監督の『人生はビギナーズ』におけるアーカイブ調査員。その後、アカデミー賞にノミネートされ、エミー賞も受賞した『くもりときどきミートボール』ではコンサルティング・プロデューサーを務めた。彼女の作品は、CIA の陰謀、風変わりなスポーツファン、ポップカルチャーのアイコン、美術家など、実に多彩なテーマを探求しており、HBO、ショウタイム、Netflix、PBS、ニューヨーク・タイムズなどを通じて発表されている。本作は、彼女にとって監督デビュー作。

 

 

アップリンク吉祥寺ほか全国劇場にて10月25日(土)公開
アップリンク京都では11月7日(金)より上映

公式サイト

監督:アレクシス・ブルーム、スヴェトラーナ・ジル
出演:アニタ・パレンバーグ、キース・リチャーズ、マーロン・リチャーズ、アンジェラ・リチャーズ、ケイト・モス、フォルカー・シュレンドルフ、スタニスラス・クロソウスキー・ド・ローラ、サンドロ・スルソック、ジェイク・ウエバー、ブライアン・ジョーンズ、ミック・ジャガー、マリアンヌ・フェイスフル、ジェーン・フォンダ、ジェイムズ・フォックス、アレン・ギンズバーグ、ジャスパー・ジョーンズ、アンディ・ウォーホル
声の出演:スカーレット・ヨハンソン
配給:オンリー・ハーツ

2024 年/アメリカ/英語・フランス語・ドイツ語/113 分/1.78:1/原題:CATCHING FIRE: The Story of
Anita Pallenberg/©2023 Brown Bag Productions, LLC/字幕:福永詩乃