『ホウセンカ』──人生の終わりに語りかけたのは「花」だった。
死を目の前にしたヤクザと、一輪のホウセンカ。
異様で詩的な出会いから、ひとりの男の記憶がゆっくりほどけていく。
花火が照らす夏の夜、海沿いのアパートで過ごした日々の光と影。その静かな時間の中に、「生きること」の痛みと輝きが浮かび上がる。
『オッドタクシー』で予測不能な物語を生み出した木下麦と此元和津也、そして『映画大好きポンポさん』『夏へのトンネル、さよならの出口』のスタジオCLAP。世界が注目するクリエイターたちが再び手を組み、ひとりの男の人生を通して〈美しさ〉と〈儚さ〉を描き出す。
派手なアクションも奇抜な設定もない。あるのは、日常の中に咲く小さな花が見せる「生の証」。
阿久津の「過去」を生きた戸塚純貴は「人間臭い阿久津が愛おしかった」と語り、「現在」を演じた小林薫は「充実感と疲労、感動の入り混じった収録だった」と振り返る。那奈の「過去」を演じた満島ひかりは「胸がぎゅっとなる作品」と語り、「現在」を演じた宮崎美子は「信じる、託す、前を向く──人はそうやって命を繋いできた」と言葉を残した。ふたりの声が織りなす時間の隔たりは、やがて人生の厚みそのものとなって響く。
そして、ホウセンカを演じたピエール瀧が生み出す存在感が、現実と幻想の境を柔らかく溶かしていく。
物語を包み込むのは、ceroによる音楽。
冒頭を彩るオープニングテーマ「Moving Still Life」が、花火の光のように物語の扉を開き、穏やかで時にざらついた旋律が、登場人物たちの息づかいをそっと照らす。
音と映像が呼応し合いながら紡がれる世界は、静けさの中に確かな熱を宿す。
誰かを想うこと。
何かを守りたいと願うこと。
その気持ちは、どんな人生の終わりにも確かに残る。
木下麦監督が原点に立ち返り、空の青さ、花の色、そして人を想う力を見つめ直す。
静けさの中に力強さが宿る、珠玉のアニメーション映画『ホウセンカ』。
今を生きる私たちの心に、そっと一粒の種を残す。
どうかその美しさを、ぜひ映画館で。
(小出)
イントロダクション
世界が注目するクリエイタータッグ×スタジオの最新作!
死にかけのヤクザに語りかけたのは、ホウセンカだった──。
予測不能なストーリーで話題を呼んだオリジナル TV アニメ「オッドタクシー」を手掛けた、クリエイタータッグ・木下⻨×此元和津也と、国内外の映画祭で注目を集めた『映画大好きポンポさん』『夏へのトンネル、さよならの出口』の制作スタジオ・CLAPが出会い、唯一無二のオリジナルアニメーションが誕生!
W 主演は、主人公・阿久津の“過去”と“現在”を演じ分ける小林薫と戶塚純貴。共演には満島ひかり、宮崎美子、ピエール瀧といった実力派俳優が集結! さらに安元洋貴、⻫藤壮馬、そしてお笑い界から村田秀亮(とろサーモン)、中山功太が参加。多彩なキャストがキャラクターたちに魂を吹き込んだ。
圧巻の花火とともに幕を開ける、象徴的なオープニングテーマ「Moving Still Life」。全編を通して、創造性に富んだ cero の音楽が物語を鮮やかに彩る。
男が人生を懸けた“大逆転”とは何か。その先に浮かび上がる物語があなたの心を満たす。
ストーリー
「ろくでもない一生だったな」
無期懲役囚の老人・阿久津が独房で孤独な死を迎えようとしていたとき、声を掛けたのは、人の言葉を操るホウセンカだった。
“会話”の中で、阿久津は自身の過去を振り返り始める。
「お前たちが来た日のこと、よく覚えてるぜ」
1987 年、夏。海沿いの街。
しがないヤクザの阿久津は、兄貴分として慕う堤の世話で、6 歳年下の那奈と、ホウセンカが庭に咲く素朴なアパートで暮らし始めた。
生まれたばかりの那奈の息子・健介も一緒だ。縁側からは、大きな打ち上げ花火が見える。
3 人は、慎ましくも幸せな日々を送っていた。
「退路を絶ったもんだけに大逆転のチャンスが残されてんだよ」
やがて土地転がしのシノギに成功し羽振りがよくなった阿久津は、享楽的に過ごし家を顧みなくなる。
そんなある日、事態は一変する。
阿久津は大金を工面しなければならなくなり、堤と共に組の金庫にある3億円の強奪を企てるのだった――。
ある 1 人の男の、人生と愛の物語。
木下⻨ 監督コメント
空の⻘さの美しさとは、日を浴びた葉の色の美しさとは、人を想う意義とは。美と儚さと幸せの価値観とそれが人に与える影響を改めて見つめ直し、揺れ動く生活の中で生きる生き物の底力を、原点に立ち帰る気持ちで表現しました。沢山の人に観ていただきたいです。
木下⻨ 監督プロフィール
アニメーション監督/イラストレーター
多摩美術大学在籍時からイラストレーター/アニメーターとして活動。アニメーターや監督補佐を経て、オリジナル TV アニメーション「オッドタクシー』で 自身初となる監督、キャラクターデザインを担当。同作で Crunchyroll Anime Awards 2022 / Best Director、第 25 回文化庁メディア芸術祭 アニメーション部門 新人賞などを受賞した。アニメーションの演出やコンセプトアート、キャラクターデザインなど幅広く活動分野を広げている。P.I.C.S.management 所属。
アップリンク京都ほか全国劇場にて10月10日(金)公開
監督・キャラクターデザイン:木下麦
原作・脚本:此元和津也
企画・制作:CLAP
声の出演:小林薫、戸塚純貴、満島ひかり、宮崎美子、安元洋貴、斉藤壮馬、村田秀亮(とろサーモン)、中山功太、ピエール瀧
演出:木下麦、原田奈奈
コンセプトアート:ミチノク峠
レイアウト作画監督:寺井英二
作画監督:細越裕治、三好和也、島村秀一
色彩設計:のぼりはるこ
美術監督:佐藤歩
撮影監督:星名工、本台貴宏
編集:後田良樹
音楽:cero/髙城晶平、荒内佑、橋本翼
音響演出:笠松広司
録音演出:清水洋史
制作プロデューサー:伊藤絹恵、松尾亮一郎
宣伝:ミラクルヴォイス
配給:ポニーキャニオン
製作:ホウセンカ製作委員会
©此元和津也/ホウセンカ製作委員会