『男と女 -クロニクルズ-』クロード・ルルーシュ監督特集!

『男と女 -クロニクルズ-』クロード・ルルーシュ監督特集!

2025-10-13 08:00:00

今からおよそ60年前、カンヌ国際映画祭で最高賞にあたるパルム・ドールを受賞したクロード・ルルーシュ監督の映画『男と女』が、今年の同映画祭のメインビジュアルを飾った。

ポスターは2種類。浜辺で抱き合う男女、それぞれの背中越しに男と女、それぞれの顔がのぞいている。

吹き荒れる風のためなのか、抱擁の躍動のためなのか、髪が大きく乱れている。けれど無邪気でおだやかな、こちらまで幸せになるようなふたつの顔。

2つの公式ポスターを採用するのは、カンヌ映画祭史上初めての試みだという。

なぜ今、『男と女』なのだろうか。

1966年に『男と女』で出会った男女は、2019年に『男と女 人生最良の日々』で再会を果たす。そのあいだ、1973年に発表された作品『男と女の詩』は、『男と女』のラストシーンから始まり、やがてそれは刑務所で開催されている上映会のスクリーンだと分かる。

受刑者から、今日の上映作品は何だと尋ねられた看守に、ルルーシュ監督は「恋愛ものだ」と言い放させる。監督自身が自作をからかっているようで、セルフオマージュというよりもセルフパロディに近い。その後に描かれる結婚についての登場人物たちの会話は、ロマンチックとはほど遠い。

この一連の『男と女』の物語は、愛や愛することについての話ではあっても、愛に恋するような恋愛映画ではない。挙句、女性の定義を問われた主人公はこう答える。「時々泣く男」。

ダイバーシティの中で男女平等を超えてジェンダーレスという考え方、取り組みまでが広がる現在、そしてその一方で、世界のあちこちで分断が深まる現在において、この作品がメインビジュアルに選ばれることは必然であったかもしれない。アンヌとジャン・ルイが、再び出会ったことのように。

”男と女”という古い言葉の中にルルーシュ監督がしのばせた大きな喜びを、真正面から受け取れるようにありたいと思う。

(小川のえ)

イントロダクション

第78回カンヌ国際映画祭の公式ビジュアルを飾った、フランス映画の金字塔『男と女』と関連作品の特集上映。

2025年5月に開催された第78回カンヌ国際映画祭。イメージビジュアルとして発表された二枚組の公式ポスターには、両方ともクロード・ルルーシュ監督の1966年のフランス映画『男と女』の有名なワンシーンが映し出されていた。

ドーヴィルの浜辺での抱擁の場面で、片方はジャン=ルイ・トランティニャン、もう片方はアヌーク・エーメの顔が見える。二種類のポスターが用意されたのはカンヌの歴史上初めてのこと。

第19回カンヌ国際映画祭でグランプリ(現在のパルムドール)を受賞。1967年のアカデミー賞では外国語映画賞とオリジナル脚本賞を獲得し、世界中に大きな影響を与えた『男と女』。今や不朽の名作だが、元々は低予算のインディペンデント映画だった。

当時28歳のルルーシュ監督は共同脚本、製作、撮影を兼ねて自主制作。少数精鋭のチームに制限して約4週間で撮影を敢行。圧倒的に洗練された“映像×音楽”の実験は珠玉の詩的効果を生み、ミュージックビデオの原点のひとつにもなった。

いまこそルルーシュ監督が編み出した華麗な映画の発明に酔い痴れよう。

上映作品

『男と女 <デジタルリマスター>』(1966年/102分)

『ランデヴー <デジタルリマスター>』(1976年/9分) ※『男と女』と併映上映

『男と女の詩 <デジタルリマスター>』(1973年/115分)

『男と女 人生最良の日々 <4K レストア>』(2019年/115分)

ストーリー

『男と女』

フランス的な粋を凝縮した一篇の宝石。描かれるのは互いにパートナーを亡くした男と女の出会いだ。モンテカルロラリーに出場するレーサーの男(ジャン=ルイ・トランティニャン)と、映画業界でスクリプトの仕事を務める女(アヌーク・エーメ)。それぞれ我が子を連れた二人は、ノルマンディ地方の港町ドーヴィルの海岸で逢瀬を重ねる。カラーフィルムの予算不足を逆手に取ったモノクロームとパートカラーの交差。ソフトフォーカスを効かせた画面。美しいビジュアルに溶け合うテーマ曲を歌っている男性は、女の亡き夫を演じるピエール・バルーだ。“映像×音楽”が一体となる表現はアメリカン・ニューシネマのヒントにもなり、MVやCMへと影響が伝播。日本でも高橋幸宏や野宮真貴など本作に心酔する著名人のファンは数多い。

『ランデヴー』

うなる高回転のモーターエンジン音。主観映像による完全ワンショット。早朝のパリの街をフェラーリ275GTBが猛スピードで駆け抜ける。カーマニアとして知られるルルーシュが“男の世界”を凝縮させ、ドライバーが向かう先には――という形で愛のロマンを小粋に表現する。車は凱旋門からシャンゼリゼ通り、コンコルド広場などのランドマークを通り過ぎ、公道をまるでレースサーキットのごとくステアリングを鋭く切っていく。ハリウッド顔負けの臨場感をリアルに体感できる傑作。

『男と女の詩』

冒頭、いきなり『男と女』のラストシーンから始まる。大みそかに刑務所で囚人たちが観ている映画というセルフオマージュだ。そして新年、釈放されたシモン(リノ・ヴァンチュラ)はある女性の行方を追う。宝石店強盗を働いて逮捕された6年前に出会った、カンヌで骨董品店を営んでいたフランソワーズのことを――。現在の場面をモノクロームで描き、回想をカラー。犯罪映画と大人の洒脱な恋物語のルルーシュらしい融合だ。1987年に米国で『恋する大泥棒』としてリメイク。

『男と女 人生最良の日々』

『男と女』から実に50年余り。かつて運命の恋におちた二人が(1986年の『男と女Ⅱ』を挟みつつ)再会を果たす続編。海辺の老人ホームで余生を送る元レーシングドライバーのジャン=ルイ。彼の息子は父が長年追い求めている女性アンヌを捜し出す。『男と女』の名場面を回想として使い、二人の現在を描き出す。主演のトランティニャンとエーメを始め当時のスタッフとキャストが再結集。“愛のシネアスト”としてのルルーシュが成し遂げた人生賛歌であり感動の記念碑だ。

Text by 森直人

クロード・ルルーシュ監督プロフィール

1937年、フランス生まれ。幼い頃から映画に興味を持ち、報道カメラマンとしてキャリアをスタート。『男と女』(1966)が世界的に大ヒットし、カンヌ国際映画祭パルムドールやアカデミー賞 外国語映画賞など数々の映画賞に輝き一躍脚光を浴びる。以後、作曲家のフランシス・レイと組み、『白い恋人たち』(1968)、『愛と哀しみのボレロ』(1981)、『レ・ミゼラブル』(1995)、『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』(2015)など、スタイリッシュな恋愛映画や革新的な野心作を精力的に制作する。2019年には『男と女』のスタッフ・キャストが再集結した52年後の物語『男と女 人生最良の日々』を発表。2024年ヴェネチア国際映画祭では新作『Finalement (Finally)』を披露し、長年に渡り野心的な作品を撮り続けている監督に贈られる「監督・ばんざい!賞」を受賞。今も進化と活躍を続ける世界的巨匠である。

アップリンク京都 ほか全国劇場にて公開

公式サイト

提供:JAIHO
配給:Diggin’