『ミーツ・ザ・ワールド』金原ひとみの原作を、杉咲花・南琴奈、二人のミューズで映画化。
本作の原作は、モード誌『SPUR』で連載され、第35回柴田錬三郎賞を受賞した金原ひとみの『ミーツ・ザ・ワールド』だ。
金原は2003年、綿矢りさの『蹴りたい背中』とともに『蛇にピアス』で第130回芥川賞を受賞。19歳(綿矢)と20歳(金原)という若さでのダブル受賞は、それまでの最年少記録(23歳)を大きく更新し、文学界のみならず社会的な話題を呼んだ。
50万部を超えるベストセラーとなった『蛇にピアス』は、2008年に映画化。ピアスを拡張して舌先を蛇のように二股に裂いた "スプリットタン" を持つ青年との出会いをきっかけに、身体改造の世界にのめり込んでいく19歳の少女を、当時同じ年齢だった吉高由里子が演じた。
「明るい世界への拒絶を描いていることが新鮮だった」と『蛇にピアス』を監督した蜷川幸雄氏は語ったが、本作の松居大悟監督は『ミーツ・ザ・ワールド』の何に惹かれたのだろう。
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『ミーツ・ザ・ワールド』の主人公は、銀行の一般職として働き、稼いだお金を”腐活動”に費やす27歳の由嘉里。
由嘉里は参加した合コンで腐女子であることを暴露され惨敗。歌舞伎町の道端で酔いつぶれていたところを、キャバ嬢・ライに助けられる。その夜を境にライの家に住み始め、ライの友達のホスト・アサヒ、彼らに連れられて行ったゴールデン街のバーのマスター・オシン、そのバーの常連で人が死ぬ話ばかりを書く小説家・ユキなど、これまで関わることなど想像もしなかった人びとと出会っていく。
由嘉里が「あなたみたいになりたかった」と漏らすほど美しい顔立ちのライは、「私にはこの世から消えるための高度な才能が与えられてる」「私のあるべき状態は消えている状態」と淡々と告げる。
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これまでの金原作品を踏まえると、ずば抜けて美しく、夜の街で生き、生そのものに違和感を抱えるライこそが視点人物になりそうなものだが、本作では、”パン職”で、年齢イコール彼氏いない歴のアラサーで、最近婚活を始めたものの上手くいくはずもなく…そんな、ライに比べればはるかに身近な(腐)女子である由嘉里の視点で描かれる。
「元々金原ひとみさんが書かれる言葉がとても好きでしたが、これまでの作品は自分とは遠いところにいる人たちの気がして、読み物として楽しんでいました」と語る松居監督。
ライをはじめ、異なるかたちの欲望を抱える登場人物たちの言動や姿を、自分の偏見から否定してみたり、不器用に擦り合わせたりしながらも受け止めようともがく由嘉里を描くことで、松居監督は、「遠いところにいる人たち」を引き寄せたかったのではないか。
インタビューでの、「由嘉里と出会いたい気持ち」という言葉は、題名の『ミーツ・ザ・ワールド』や、金原ひとみが描いてきた“世界との接触”に呼応する。
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実直さと屈折をあわせ持つ由嘉里を杉咲花が、一際美しいのに空虚をたたえたライを南琴奈が演じる。『蛇にピアス』の吉高由里子に勝るとも劣らないこの二人のミューズの邂逅。
この映画をきっかけに、金原ひとみの読者が一人でも増えることを願っている。
(小川のえ)
イントロダクション
歌舞伎町を舞台に、擬人化焼肉漫画「ミート・イズ・マイン」をこよなく愛するも自分のことは好きになれない27歳の主人公の新たな世界との出会いを描いた『ミーツ・ザ・ワールド』。
原作は、第35回柴田錬三郎賞を受賞した金原ひとみの同名小説。自著の映画化は、第130回芥川賞を受賞したデビュー作「蛇にピアス」以来、17年ぶりとなる。
監督を務めるのは、『くれなずめ』『ちょっと思い出しただけ』などこれまで青春という一瞬の輝きを描き続け、若者から圧倒的な支持を得る松居大悟監督。初めて“生きること”についての映画に挑み、新境地を開いた。
撮影は本作の舞台である歌舞伎町で敢行。この街で生きる人々の居場所をスクリーンに焼き付ける。
ストーリー
擬人化焼肉漫画「ミート・イズ・マイン」に全力で愛を注ぎながらも、自分のことは好きになれない由嘉里。
27歳になって結婚・出産…と違う世界に次々と離脱する腐女子仲間をみて、このまま仕事と趣味だけで生きていくことへの不安と焦りを感じ、婚活を始める。
しかし、参加した合コンで惨敗。歌舞伎町で酔いつぶれていたところ、希死念慮を抱えるキャバ嬢・ライに助けられる。
ライになぜか惹かれた由嘉里は、そのままルームシェアを始めることに。
やがて、既婚のNo.1ホスト・アサヒ、人の死ばかりを題材にする毒舌作家・ユキ、街に寄り添うBARのマスター・オシンと出会い、歌舞伎町での生活に安らぎを覚えていく。
そんな日々の中でもライのことが気がかりな由嘉里は、かつての恋人との確執が解ければ死にたい感情は消えるかもしれないと考え、アサヒやユキ、オシンに相談する。
だが、価値観を押し付けるのはよくないと言われてしまう。
それでもライに生きてほしいと願う由嘉里は、元恋人との再会を試みるが―。
松居 大悟監督インタビュー

――「ミーツ・ザ・ワールド」を合言葉に音楽・演劇・ファッション・お笑い等々、様々な分野で活躍する面々に声をかけたと伺いましたが、松居監督ご自身がテーマにされたものはございますか?
プロットを組んでいくなかで、「水」がキーワードになると感じていました。原作でも由嘉里とライでは息ができる場所が違うというくだりがありますが、作品全体に水のイメージをちりばめています。2人の出会いが雨上がりの歌舞伎町だったり、由嘉里がガラス越しに他者を見つめたり、水槽や灰皿といったアイテムも水に紐づいています。
また、食べることは生きることでもあるため、由嘉里をはじめとする各キャラクターに合わせた食事シーンを設けて「この人ならではの食べ方を意識して演じてほしい」と各キャストに伝えました。由嘉里はもりもりと頬張り、ライはひと口が小さく、ユキは独特な食べ方をします。それぞれの生きることに対してのスタンスが垣間見えるため、そういった部分にも注目いただければと思います。
松居 大悟監督プロフィール
1985年11月2日生まれ、福岡県出身。劇団ゴジゲン主宰。2012年『アフロ田中』で長編初監督。『ワンダフルワールドエンド』(15)でベルリン国際映画祭出品。その後、『私たちのハァハァ』(15)、『アズミ・ハルコは行方不明』(16)、『アイスと雨音』(18)、『くれなずめ』(21)、テレビ東京系列「バイプレイヤーズ」(17~21)シリーズなど。『ちょっと思い出しただけ』(22)で東京国際映画祭にて観客賞・スペシャルメンション受賞。『手』(22)で ロッテルダム国際映画祭に正式出品するなど、枠にとらわれない作風は国内外から評価が高い。6月に公開された監督作『リライト』は、ヌーシャテル国際ファンタスティック映画祭のアジアン・コンペティション部門にて観客賞を受賞。








杉咲花
南琴奈 板垣李光人
くるま(令和ロマン) 加藤千尋 和田光沙 安藤裕子 中山祐一朗 佐藤寛太
渋川清彦 筒井真理子 / 蒼井優
(劇中アニメ「ミート・イズ・マイン」) 村瀬歩 坂田将吾 阿座上洋平 田丸篤志
監督:松居大悟
原作:金原ひとみ『ミーツ・ザ・ワールド』(集英社文庫刊)
脚本:國吉咲貴 松居大悟 音楽:クリープハイプ 主題歌:クリープハイプ「だからなんだって話」(ユニバーサルシグマ)
製作:藤本款 和田佳恵 津嶋敬介 大好誠 プロデューサー:深瀬和美 白石裕菜
撮影:塩谷大樹 照明:藤井勇 録音:西條博介 美術:井上心平 装飾:遠藤善人 編集:瀧田隆一 スタイリスト:山本マナ ヘアメイク:風間啓子
音響効果:渋谷圭介 VFX スーパーバイザー:鎌田康介 助監督:山下久義 制作担当:緒方裕士 アニメーション制作:UWAN Pictures キャラクターデザイン:あおいれびん
製作委員会:クロックワークス テレビ東京 ホリプロ 集英社
制作プロダクション:ホリプロ
製作幹事・配給:クロックワークス
©金原ひとみ/集英社・映画「ミーツ・ザ・ワールド」製作委員会
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(日本映画製作支援事業)|独立行政法人日本芸術文化振興会
2025 年/日本/カラー/アカデミー(1.37:1)/5.1ch/126分/G
