『ムガリッツ』予測不能の反アルゴリズム料理を体験できるガストロノミー
『ムガリッツ』は、スペインのサン・セバスティアンから山側に位置するガストロノミー(食に関する深い知識や技術を用いて食事を芸術作品として提供する)のレストラン。
映画にもなったデンマークの『ノーマ』と比較すると、2025年のミシュランガイドでは、『ノーマ』が、☆三つで、『ムガリッツ』は☆2つが点いている。
公式サイトを開くとこう書いてある。
https://www.mugaritz.com/en/
「心を開こう、口だけでなく。
ムガリッツは、探求と研究のための空間です。
私たちは好奇心に突き動かされ、ガストロノミー(美食)の限界に挑み続けます。
さまざまな分野からインスピレーションを得て、好奇心こそがすべての扉を開く鍵であると理解しています。
そして、目的そのものよりも、その過程こそが常に最も興味深いと確信しています。」
監督のパコ・プラサはこう語る。
「1年の半分の時間、食事が出ず、客を対応せず、そのほとんどが提供されることのない料理のデザインに取り組む集団がいたとする。美食の研究所?あまりに物々しい。料理実験センター?ちょっと違う。「普通」から逃れたアイデアやコンセプトを表現する言葉を見つけるのは簡単ではない。実際、恐れずに断言できるのは、ムガリッツは定義に閉じ込められることに抵抗する場所だということだ」
料理人は、ムガリッツの料理を抽象画のジャクソン・ポロックにたとえ、予測できない体験を提供する反アルゴリズムの料理だという。
さて、そのような固定概念に挑戦してくる料理、味への挑戦ではなく、食の固定概念に挑戦してくる料理が美味しそうかというと、映画を見る限り食べてみないと分からない。食べたい!というよりも体験したい!と思わせる料理であることは間違いないだろう。
一体、いくらで食べられるのだろう。公式サイトからの予約のページ行くとこう書かれている
「ご予約を確定するためには、1名様あたり297€(税込 52,000円)のうち 135€(24,000円) をお支払いいただく必要があります。この金額は最終的なお会計から差し引かれますが、返金不可となります」
食事に合ったワインをペアリングしてもらい、チップを含めると9~10万円くらいの予算はかかりそうだ。
実際に体験した人のレビューを食べログから拾ってみると体験記がこのような体験記が書かれていた。
https://tabelog.com/espana/A6606/A660601/66000002/dtlrvwlst/B360921618/
「一皿ごとにメッセージが込められてるらしいが、食事の最中にそれを解こうとは思わない。
そもそも、メニューから想像できるものと現物が良い意味で違い過ぎて、途中からメニューを追うのもやめたぐらいだった。場所を変えながらの食事だったため時間の長さはさほど気にならない。
また、「これ何?」「これ食べられるの?」の連続だったのでとても楽しい時間だった。
そして何よりもこの雰囲気とサービスは素晴らしかった。ただ、味的には「これが世界3位?」というのが本音。もちろん美味しいものもたくさんあった。でも明らかにビジュアル重視というものも多かった。やはりレストランでは「美味しい」ものが食べたい。まあ「少量多品型おまかせメニュー」では致し方ないことなのか…」
カナダ出身のYoutuberが動画で紹介しているので映画ではほとんど写っていなかった店内の様子と実際提供される食事を見ることが出来ます。
「ムガリッツは、ガストロノミー界でも間違いなく最も賛否両論のあるレストランのひとつです。あまりにも型破りなので、嫌う人もいるくらい。
だって、食べているものが何なのか半分くらい分からないんですよ。メインディッシュが甘かったり、デザートがしょっぱかったりすることも。でもね、だからこそ私は大好きなんです。そのアヴァンギャルドなアプローチはまったく予測不能で、それこそがガストロノミーの冒険の醍醐味。
”予想外を楽しむ”ってことなんです」
映画を観て実際にムガリッツ体験したくなった方は、是非スペイン旅行の予定に加え、感想を食べログに書き込んでみてはいかがでしょうか。
(TA)
イントロダクション
スペイン・バスク地方のガストロノミーの中心。ミシュランガイドに「レストラン以上の存在」と称される名門<ムガリッツ>。その名前は、21世紀に入る頃から、業界で大きな注目を浴び始めた。グラスなどを並べずオブジェだけを載せたテーブル、カトラリーを排して手や舌を直接使って味わう料理…。従来のレストランコードをこともなげに崩し、ゲストの好奇心を誘い、五感を研ぎ澄まさせ、独自の世界観で今までになかった食空間を生み出した。
ムガリッツでは、毎年11~4月の6か月間は休業し、スタッフ総出でメニュー開発に専念する。その年に誕生した料理が翌年以降に提供されることはなく、革新的なメニューはつねに更新され続ける。
ムガリッツの研究開発チームに密着し、メニュー開発の舞台裏を追ったドキュメンタリーが誕生した。
本作で監督をつとめたのは、『REC』シリーズなどのジャンルホラーで知られるパコ・プラサ氏。ムガリッツの大ファンでもある彼が厨房に潜入、その全貌が明らかになる。
ムガリッツとは
ムガリッツは、食通にまったく異質な食体験を提供している、レストラン以上の存在だ。ここでは、あらゆることが問い直され、個人的な嗜好と一般的な嗜好の両方が重視される。シェフの言葉を借りれば、「体験は美食であると同時に遊びでもある」。ルールを破ることほど好きなものはないという、オーナーのアンドニ・ルイス・アドゥリスの意図は、テーブルの上に置かれた小さな用語集にも表れている。この用語集には、シェフ、スタッフ、そして客までもが、食体験に意味を持たせるために協力し合って定義した用語が詳しく書かれている。料理の多くが手で直接食べるもので、古典的な順序には従わず、味わいとテイスティングメニューの流れの両面において、常に国境を越えることを目指している。特に秀逸なのは、「De frente: la piel que habito(前面:私の住む肌)」と呼ばれる料理-サイダーゼラチンの偽の皮を顔に貼り付け、胡椒のエマルジョンを塗った揚げパンを添えたコンセプチュアルな作品である。(Michelin guideより引用)
アンドニ・ルイス・アドゥリス
1971年、サン・セバスチャン生まれ。オーナーシェフとして、1998年からムガリッツを率いる。彼はミシュランで2つ星を獲得しており、ムガリッツは、「世界のベストレストラン50」において14年連続で世界のトップ10にランクインしている唯一のレストランである。2023年、アンドニは世界のガストロノミー部門への貢献とインスピレーションが認められ、同名門のアイコン賞を受賞した。同年、フォーブス誌の「世界で最もクリエイティブな100人」に選出された。
パコ・プラサ監督 コメント(一部抜粋)
ムガリッツは「反アルゴリズム」だ。緊張しながらも期待に満ちた笑顔で、刺激的な、ひょっとするとがっかりしたりいらだったりするけれど、決して予測できない体験がこれから始まることを知りながら訪れてくる人たちに、挑戦状を叩きつける場所である。アドゥリスは、そこでは「単なる食事ではなく、知識が提供される」と述べている。そのリスクは時として、純粋な美食を超えて、論争の領域にまで彼を運んできた。しかし、個人的な嗜好を超えて、それが傲慢さを抜きにしてラディカルな、ユニークな命題であることを疑う者はいない。
監督 プロフィール
1973年、バレンシア生まれ。スペインにおけるジャンル映画を代表する監督の一人。バレンシア大学で情報科学の学位を取得し、マドリッド映画学校(ECAM)で映画制作を学んだ。数々の短編映画を監督し、『Abuelitos(原題)』は国内外の数々の映画祭に出品され、ブリュッセル・ファンタスティック国際映画祭のCanal+賞、サン・セバスチャン・ファンタジー国際映画祭のCanal+短編プロジェクト賞など、数々の賞を受賞。また、『Puzzles(原題)』は、スペイン語版最優秀実験短編映画(TVE)INJUVE賞など、数々の賞を受賞した。
2002年には、ラムジー・キャンベルの小説を原作に、フェルナンド・マリアスと共同脚本を手がけた長編映画『ダーク・チャイルド 血塗られた系譜』を監督した。この作品は、シッチェス映画祭で最優秀ヨーロッパ長編映画賞であるメリエス賞を受賞した。同年、ジャウマ・バラゲロと共にドキュメンタリー映画『O.T. La Película(原題)』を監督した。その後、『ガリシアの獣』(2004年)と『Stories to stay awake(原題)』のエピソード『A Christmas Tale(原題)』を監督した。
彼の名声は、再びジャウマ・バラゲロと共演した『REC/レック』シリーズで確立され、公開当初(2007年)は前例のない国際的な成功を収め、『REC/レック2』(2009年)も監督。また、単独で監督した『REC/レック3 ジェネシス』(2012年)も、フランス、メキシコ、イギリスなど海外で大ヒットを記録した。2017年の映画『エクリプス』はゴヤ賞に7部門ノミネートされ、興行収入と国際的な批評家からの高い評価を獲得した。2019年には『An Eye for an Eye(原題)』をプレミア上映し、スペイン・アカデミー賞に3部門ノミネートされた。2022年には『The Grandmother(英題)』が映画館でプレミア上映され、サン・セバスティアン映画祭の公式部門に出品された。この映画は、劇場公開初登場で興行収入1位を獲得した。現在、『エクリプス』の前編となる最新作『ブラックサン』を制作中。映画以上に好きなことは、食べることだけ。
アップリンク吉祥寺・アップリンク京都ほか全国劇場にて9月19日(金)より公開
監督:パコ・プラサ
脚本:パコ・プラサ、マパ・パストール
原題:MUGARITZ. NO BREAD NO DESSERT(原題)/2024年/スペイン/スペイン語/96分/ビスタ/5.1ch/カラー/字幕翻訳:比嘉世津子
提供:ティー ワイ リミテッド 配給:ギャガ
後援:在日スペイン大使館 インスティトゥト・セルバンテス東京
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