『パトリックとクジラ 6000日の絆』公開記念トークイベント レポート
8月30日、アップリンク吉祥寺にて映画『パトリックとクジラ 6000日の絆』の公開を記念したトークイベントが行われた。ゲストとして来日した主人公パトリック・ダイクストラさんが登壇し、上映直後の観客と語り合う特別な時間となった。
映画はクジラとの親密な交流を描き出すが、その撮影は一筋縄ではいかなかった。動物相手で演出も効かないため、必要な映像が撮れるまでに実に3~4年を要したという。「天候や海の状況、クジラの自由な行動に左右される。だからこそ偶然にしか撮れない奇跡的な瞬間がある」と語った。巨大なクジラを目の前にした時の心境については「こんな大きな生物が息をして生きている。その存在そのものに圧倒された」と振り返った。
後半は観客からの質問タイムが設けられた。「クジラと意識が通じ合っていると感じる瞬間は?」という問いに対し、パトリックさんは「説明できる科学的根拠はまだないが、心と体で感じ取るもの」と答えた。また、かつて弁護士だった自身の経歴について「若い頃は質素に暮らし、投資を続け、8年後に自由を得て情熱を追った」と語り、現実的な選択の積み重ねが今につながっていることを明かした。さらに「クジラの目を見た瞬間、魂を垣間見るような感覚があり、思わずカメラを置いてしまうこともある」と打ち明けた。
映画はドキュメンタリーでありながら、科学的データの提示に留まらず、クジラとの個的な交流を丁寧に映し出す。パトリックさんは「研究チームとも協力しているが、この映画では自分がクジラから受け取った感覚を表現することを大事にした」と説明した。
イベントの最後にパトリックさんは「映画を観たあと、クジラをもっと好きになってくれたらうれしい。クジラには個性や家族があり、その一頭を失うことは大きな悲しみにつながる。だからこそ、彼らと海を守ることの大切さを知ってほしい」とメッセージを送った。
パトリック・ダイクストラさん
(編集部T)
イントロダクション
クジラひとすじ 20 年
異色の水中カメラマン、パトリック・ダイクストラと2頭のクジラの親密な交流を通し
神秘的で美しい海の映像とともにクジラの生態に光をあてる、クジラ愛あふれるドキュメンタリー
ウォール街の弁護士から転身し、水中カメラマンとして活躍するパトリック・ダイクストラ。BBC「ブルー・プラネットⅡ」(2017 年)にて撮影を担当したエピソードで英国アカデミー賞(BAFTA)受賞経験を持つ。少年時代に博物館でシロナガスクジラのレプリカを見て衝撃を受けて以来、クジラのとりことなったパトリックは、水中カメラマンとして世界中を旅し、20 年もの間クジラを追いかけてきた。ある日、パトリックは自分と積極的にコミュニケーションを取ろうとするクジラと出会う。「ドローレス」と名付けたそのクジラこそが、知られざるクジラの生態を教えてくれるはずと信じ、パトリックは再びドミニカの海へと向かうーーー
クジラに魅せられたカメラマンとクジラたちの親密な交流を描くドキュメンタリー『パトリックとクジラ 6000日の絆』。監督を務めるのは、野生動物映像の世界で長年にわたり編集者、脚本家として活躍し、エミー賞だけでも 50 以上の受賞歴を持つマーク・フレッチャー。2022 年トロント国際映画祭でワールドプレミア上映され、その後 20 を超える映画祭で受賞。2025 年には第 46 回 ニュース&ドキュメンタリー・エミー賞 最優秀ネイチャードキュメンタリー賞ノミネートされている。
大きな体を立てて眠るクジラの姿、パトリックに興味津々で近寄ってくるメス、遠くまで伝わる鳴き声や知られざるオスたちの絆―――息を呑むように美しい海の映像とともにマッコウクジラの魅力を映し出す本作は、目にする機会の少ないクジラの知られざる生態をカメラに収め、パトリックとクジラたちとの交遊を映し出す。
ストーリー
アメリカ出身の水中カメラマン、パトリック・ダイクストラ。10 代の頃、博物館で巨大なシロナガスクジラのレプリカを見て衝撃を受け、いつかこの地球史上最大の動物に会おうと心に誓う。大学卒業後は弁護士として活躍していたが、野生動物への情熱を諦めきれずカメラマンに転身。シロナガスクジラに会うために様々な海に出かけ、クジラ全般に関心を持つようになる。
ある日、パトリックがドミニカの海中でクジラを探していると、1頭のメスのマッコウクジラが近づいてくる。クジラは鳴き声を上げながらパトリックと一緒に泳ぎ始め、パトリックが回転すると一緒に回転した。それはパトリックにとってクジラと最も親密に交流した体験だった。「ドローレス」と名付けたそのクジラに1年後に再会すると、ドローレスはまっしぐらにパトリックに近づき、興味津々な様子でスキンシップをとってくるのだった。
ほどなくしてイギリスでオスのマッコウクジラの集団座礁に遭遇したパトリックは、悲惨な出来事を減らすため、マッコウクジラの生態をもっと知りたいと願い、マッコウクジラにカメラを装着して彼らが一生の大半を過ごす深海での様子を撮影しようと試みる。その相手は、ドローレスしかいないと考え、ドローレスを再び探し始める。さらには 10 年来交流を続けてきたメスのマッコウクジラ、キャンオープナーとその赤ちゃん・ホープとも再会する。
パトリック・ダイクストラさん プロフィール
アメリカ・コロラド州デンバー出身。幼い頃からキャンプやハイキング、スキーに親しむ。高校時代は、ディベートとレスリングで活躍。進学したフロリダ州立大学ではコミュニケーション学を専攻し首席で卒業。その後、ニューヨーク大学ロースクールを経てアメリカ最大のローファームの一つに就職し、8年間弁護士として働く。しかし野生動物への思いが捨てきれず、カメラマンに転身。100 か国以上を訪れ、ソマリランドの部族地域や南極の氷山の下でのダイビング映像など、あまり人が好んで行きたがらない過酷な場所での撮影も行う。
2017 年には、世界中で大ヒットした海洋ドキュメンタリー映画『ディープ・ブルー』(2003 年)の基になった BBC の TV シリーズ第2弾「ブルー・プラネットⅡ」に収められた4つのエピソードを担当。シロナガスクジラの授乳シーンやヒートラン、空中からマンタのトルネード摂食シーンを世界で初めて撮影し、英国アカデミー賞(BAFTA)を受賞。その他、スリランカ沖のシロナガスクジラの個体群調査や、アイスランドや北ノルウェーへのシャチの移動調査を最前線で担う。スカイダイビング、スキューバダイビング、ハンググライダー、パラグライダーをたしなみ、あらゆる場所での撮影に情熱を燃やし続けている。
マーク・フレッチャー 監督 コメント
この映画は、マッコウクジラが彼らの人生や人間との関係を通して私たちを導いていく様子を描いています。クジラたちは私たち人間よりも強い家族の絆を持ち、互いのために命を落とすことさえあります。この映画は報われない愛、誤解、そして最後に啓示を得る物語ですが、それはクジラが自分たちの世界へと導いてくれることを許してくれたからこそ実現したものです。その結果、感情のジェットコースターのような展開と、科学的にも重要な、誰もが楽しめる映画が誕生したと思います。
マーク・フレッチャー 監督 プロフィール
イギリス出身。ブリストル大学で動物学と心理学を専攻し、動物認知学の研究を行う。大学卒業後、1985 年から BBC のナチュラル・ヒストリー・ユニットに所属。40 年近く野生動物映画の編集者兼ライターとして活躍している。プロデュース、編集、脚本を手掛けた作品は 200 以上に及び、50 を超えるエミー賞をはじめ、多数の賞を受賞。自然ドキュメンタリーのジャンルを確立した第一人者であるデイビッド・アッテンボローへの脚本提供でも知られる。
監督 :マーク・フレッチャー
出演 :パトリック・ダイクストラ、ドローレス(マッコウクジラ)、キャンオープナーと赤ちゃんホープ(マッコウクジラ)他
2022 年/オーストリア/英語/72 分/カラー/ビスタ/5.1ch/原題:Patrick and the Whale/日本語字幕:金関いな/配給:キングレコード
©Terra Mater Studios GmbH 2023