『六つの顔』スクリーンに残る狂言
映画『国宝』が大ヒットする中、「能」とセットで上演されることの多い「狂言」のドキュメンタリーである『六つの顔』が公開される。夫婦愛を描く「川上」を演じるのは94歳の人間国宝・野村万作と、59歳の息子野村萬斎。
なぜ、映画として「川上」を残したかったかについて万作はこう語る。
「私が大学生の頃の話ですが、六代目菊五郎が義経を、幸四郎が弁慶を演じ、美男子だといわれていた市村羽左衛門という役者が出演した昔の歌舞伎の映像が映画として残されていました。当時、有楽町にあった毎日ホールで研究会主催の「鑑賞する会」を開催しました。歌舞伎を愛好する一般の方々も多くいらっしゃり、画面に映し出されるかつての幸四郎や、その時にはもう亡くなっていた羽左衛門の姿に、スクリーンに向かって屋号を叫んだり、声を掛けて熱狂していました。昔を思い出して嬉しくて仕方がない様子の観客の姿が、私の古い古い記憶の中に残っています。そうしたことも自分が演じる狂言「川上」を映画として残したい、という発想に繋がったのだと思います」
スクリーン鑑賞に際しては注意が必要である。歌舞伎のような掛け声をかける「大向こう」の習慣は狂言には無いので、映画館での鑑賞の際の掛け声はご遠慮ください。
そして吉祥寺に来られる方には朗報があります。その野村万作と萬斎の能「文荷」と宝生和秀の能「小鍛冶」の公演が10月14日に吉祥寺の月窓寺で開催される。まだ8月22日時点でチケットはあるそうなので、映画を観て関心を持たれた方は本物を鑑賞されてはどうでしょうか。
(TA)
公演情報はこちらから
https://musashino-kanko.com/musashino-event/no38_takiginou-2/
イントロダクション
狂言の道を歩んで九十年──
今年 94 歳を迎える現役の狂言師、
人間国宝・野村万作が、人生をかけて到達した芸の境地
650年以上にわたり、生きとし生ける者の喜怒哀楽を笑いとともに表現し、人々の心を魅了し続けてきた「狂言」。 その第一人者であり、今なお現役で舞台に立ち続ける人間国宝の狂言師・野村万作は今年2025年、94歳を迎える。
3歳で初舞台を踏んでから、⻑きにわたり狂言と向き合ってきた万作は、2023年に文化勲章を受章した。映画『六つの顔』では、受章記念公演が行われた特別な1日に寄り添いながら、万作の過去と現在の姿を浮かび上がらせる。万作が公演で演じるのは、近年、ライフワークとして取り組み、磨き上げてきた夫婦愛を描く珠玉の狂言「川上」。映画では、物語の舞台である奈良の川上村・金剛寺の荘厳な原風景も贅沢に収録。万作が⻑年追求してきた世界観をその至芸とともにスクリーンに刻む。
さらには、90年を超える芸歴のなかで先達たちから受け取り繋いできた想いや、今なお高みを目指して芸を追求し続ける万作の言葉を収めたインタビューも交え、息子・野村萬斎や孫・野村裕基をはじめとする次世代の狂言師と共に舞台に立つ模様を臨場感溢れる映像で映し出す。
野村万作さん プロフィール
1931 年 6 月 22 日生まれ。重要無形文化財各個指定保持者(人間国宝)、文化功労者。日本芸術院会員。23 年文化勲章を受章。祖父・故初世野村萬斎及び父・故六世野村万蔵に師事。3 歳で初舞台。早稲田大学文学部卒業。「万作の会」主宰。軽妙洒脱かつ緻密な表現のなかに深い情感を湛える、品格ある芸は、狂言の一つの頂点を感じさせる。国内外で狂言普及に貢献。ハワイ大・ワシントン大では客員教授を務める。狂言の秘曲『釣狐』で芸術祭大賞を受賞のほか、観世寿夫記念法政大学能楽賞、紀伊國屋演劇賞、日本芸術院賞、坪内逍遥大賞、朝日賞、ニューヨーク・ジャパンソサエティ賞、NHK 放送文化賞等受賞多数。早稲田大学芸術功労者、練馬区名誉区⺠。
『月に憑かれたピエロ』『子午線の祀り』『法螺侍』『敦―山月記・名人伝―』『楢山節考』等、狂言師として新たな試みにもしばしば取り組み、現在に至る狂言隆盛の礎を築く。後進の指導にも尽力。著書に『太郎冠者を生きる』(白水社 u ブックス)、『狂言を生きる』(朝日出版社)等。練馬文化センター名誉館⻑。
犬童一心監督 コメント
萬斎さん主演『のぼうの城』を監督した縁で能楽堂に誘われ、気づけばそこは最も好きな場所の一つとなり15年通い続けている。そしてその間最も繰り返し見て、楽しみ、考えさせられた人が「野村万作」だった。
そのどんなに不埒で笑いに満ちた物語でも、常に美しく、一歩引きながらも観客の目線と気持ちを掴み続けるそのあり方、すでに93歳ながら伝わってくるふつふつとした生命力、その謎、核を映像を通して感じてもらえたらと思った。
『川上』へのこだわりについてうかがったとき、今演じるのであれば「仏の教えに、夫婦の愛が克った」そこを伝えたいとおっしゃった。人間を信じることが今こそ必要だという大きなテーマを抱えて挑戦しようとされているのだ。93歳にしてまだまだ続く芸と世界への希求にとても感動した。17歳から作り続けてきた映画、今回万作先生から私の映画を監督してもらえないかという提案は、最高の名誉、ご褒美だった。
犬童一心監督 プロフィール
1960年生まれ。高校時代より自主映画の監督・製作を始める。大学卒業後は、CM演出家として数々の広告賞を受賞。1997年『二人が喋ってる。』で⻑編映画監督デビュー。『眉山 -びざん-』(07)、『ゼロの焦点』(09)、野村萬斎主演『のぼうの城』(12)で、日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞する。主な監督作は、『ジョゼと⻁と魚たち』(03)、『メゾン・ド・ヒミコ』(05)、『グーグーだって猫である』(08)、『猫は抱くもの』(18)、『引っ越し大名!』(19)、『最高の人生の見つけ方』(19)、ドキュメンタリー映画『名付けようのない踊り』(22)など。
アップリンク吉祥寺・アップリンク京都ほか全国劇場にて8月22日(金)より公開
野村万作
野村萬斎 野村裕基
三藤なつ葉 深田博治 高野和憲
ナレーション:オダギリジョー
監督・脚本:犬童一心
題字・アニメーション:山村浩二 音楽:上野耕路
監修:野村万作 野村萬斎
製作:万作の会 企画・制作:野村葉子 小俣美登里 清水薫 小山田智美 プロデューサー:丸山靖博 林季彦
撮影:蔦井孝洋 照明:疋田ヨシタケ 編集:辻󠄀田恵美 サウンドデザイン:志満順一 音響効果:勝亦さくら
制作プロダクション:ROBOT 配給:カルチュア・パブリッシャーズ
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(日本映画製作支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
2025 年/日本/DCP/カラー・モノクロ/4:3/5.1ch/82 分/G
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