高齢化社会日本の近未来を描くカンヌ国際映画祭カメラドール特別表彰受賞『PLAN 75』日本・フランス・フィリピン・カタール国際共同制作作品

高齢化社会日本の近未来を描くカンヌ国際映画祭カメラドール特別表彰受賞『PLAN 75』日本・フランス・フィリピン・カタール国際共同制作作品

2022-06-16 19:33:00

『PLAN 75』は、75歳になると政府から電話通知が来て自らの生死を選択できるという日本の近未来を、どこかに感情を込めるのではなく、それが事実となった社会を静謐に描写する。

高齢化する日本社会が舞台の映画だが、製作費は新人監督ということで、日本からだけの出資は厳しかったという。制作プロダクションのローデッド・フィルムズの水野詠子プロデューサーは製作資金をフランス、フィリピン、カタールから集めた。ポストプロダクションは、全てフランスで行い、フィリピン出身の俳優をキャスティングし、カタールのドーハ・フィルム・インシティチュートから資金を得るというという日本映画の製作委員会方式の国際版という国際共同制作作品だ。

早川千絵監督は、1997年にニューヨークの大学「スクール・オブ・ビジュアル・アーツ」で写真を学び、卒業後現地の日系テレビ局でアシスタント業務を経験。2008年に帰国しWOWOW映画部に業務委託で勤務。その後、ENBUゼミナールの映画監督コースに通い、卒業制作として監督した27分の短編作品『ナイアガラ』が学生映画の短編作品が出品条件の2014年カンヌ国際映画祭シネフォンダシオン部門に入選し、ぴあフィルムフェスティバルでグランプリ受賞。2018年には、是枝裕和監督がエグゼクティブプロデューサーを務めたオムニバス映画『十年 Ten Years JAPAN』の一編である、短編『PLAN75』を監督という経歴だ。

『PLAN 75』はそれを観る観客の年齢によって思うとところはいろいろ違う映画だろう。早川監督は、事前に老人にインタビューした結果、自ら生死を選択できるシステムがあったらいいという意見を多く聞いたという。そのことは監督自身、想像していたことだという。

この世に生まれることは自分の意思で決められないけど、「迷惑はかけたくないのでせめて死ぬことは自分で決めたい」という老人たち。スイスには、自殺幇助を受け入れるシステムがあるが、あくまで本人の意思が主体である。『PLAN 75』では政府が老人に生死の選択を強いるのである。監督は、このシステムが実際に実行されたなら国家はどう老人と接するかと想像し、強制的に選択を強いるのではなく、建前はお役所の担当者はあくまで親切に老人に寄り添うという演出となっている。

淡々と日本の近未来を描く映画だが、早川監督は本作を作るきっかけについては次のように語っている。
「2016年に相模原の障害者施設で連続殺人事件がおきました。不寛容が支配的な価値観となった社会が生んだ出来事だと思いました。この社会的不寛容に対する恐怖と怒りが、この映画を作ることになったのです」。

 

早川千絵監督インタビュー

「75歳になったら生死を選ぶ社会」描いた映画「PLAN 75」早川千絵監督インタビュー【前編】


日本では資金調達できない!? 国際化進む映画制作 カンヌ映画祭ノミネート早川千絵監督インタビュー【後編】

 

ストーリー

夫と死別してひとりで慎ましく暮らす、角谷ミチ(倍賞千恵子)は78歳。ある日、高齢を理由にホテルの客室清掃の仕事を突然解雇される。住む場所をも失いそうになった彼女は<プラン75>の申請を検討し始める。一方、市役所の<プラン75>の申請窓口で働くヒロム、死を選んだお年寄りに“その日”が来る直前までサポートするコールセンタースタッフの瑶子(河合優実)は、このシステムの存在に強い疑問を抱いていく。また、フィリピンから単身来日した介護職のマリア(ステファニー・アリアン)は幼い娘の手術費用を稼ぐため、より高給の<プラン75>関連施設に転職。利用者の遺品処理など、複雑な思いを抱えて作業に勤しむ日々を送る。
果たして、<プラン75>に翻弄される人々が最後に見出した答えとは―――。

予告編

公式サイト

6月17日(金) 新宿ピカデリー、アップリンク吉祥寺ほか全国公開

脚本・監督:早川千絵
撮影:浦田秀穂
照明:常谷良男
録音:臼井勝
美術:塩川節子
出演:倍賞千恵子、磯村勇斗、たかお鷹、河合優実、ステファニー・アリアン、大方斐紗子、串田和美

2022年/日本、フランス、フィリピン、カタール/日本語、タガログ語/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch/112分

配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ

監督ポートレート写真 © Kazuko WAKAYAMA

 

 

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