『KNEECAP/ニーキャップ』イギリスの正式名称「グレート・ブリテン及び北アイルランド連合王国」を知ってから映画を観よう!

『KNEECAP/ニーキャップ』イギリスの正式名称「グレート・ブリテン及び北アイルランド連合王国」を知ってから映画を観よう!

2025-07-31 11:11:00

北アイルランド出身の3人組ヒップホップバンド、NKEECAPの半自伝的物語。
イギリス出身のリッチ・ぺピアット監督は『ザ・コミットメンツ』『ハーダー・ゼイ・カム』の大ファンで、本作を撮るにあたり参考にしたのは『トレインスポッティング』と『アメリ』だという。

本編をご覧になる人に向けて、ごく基本的な北アイルランド事情を予習しておこう。

私たちが現在「イギリス」という国の正式名称は「The United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland:グレート・ブリテン及び北アイルランド連合王国」が正式名称だ。イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドと4つの国からなる連合王国なのだ。

英語でイギリスのことを会話では「UK」ということがあるが、それは「連合王国」と言っている意味。その下のグレート・ブリテン&北アイルランド、特に「北アイルランド」を国名として意識していない日本人が大半ではないだろうか。

イギリスはEUから脱退したので、通貨はユーロではなくポンド。同じ連合王国の北アイルランドもポンドだが、ではアイルランドはというと同じ島であるがユーロ圏なのだ。北アイルランドとアイルランドには物理的国境はなく、行き来は自由。連合王国・北アイルランドは道路表示はマイル。アイルランドはEU同様にキロメートルと違う。

アイルランドの公用語は、日常では圧倒的に英語だが、第一公用語はアイルランド語だ。その一方で、連合王国のひとつ「北アイルランド」では、190万人の人口のうちアイルランド語を話す人がわずか6000人だという。

北アイルランドでは、2022年に「アイルランド語及びスコットランド・ゲール語法」が制定され、駅などの看板など公的な場所でのバイリンガル表記が促進された。これは、ナショナリスト(アイルランド系)とユニオニスト(北アイルランドがイギリスに留まることを支持する層)のバランスをとった制度と言われている。

ということを理解した上で、ニーキャップが放つ言葉「アイルランド語は自由のための弾丸だ」という言葉の意味を噛み締めて映画をご覧になってはどうだろうか。

 

イントロダクション

過激な言動で検閲や警察の捜査対象にも
エルトン・ジョンやノエル・ギャラガーも絶賛のヒップホップ・バンド“KNEECAP”

本作の主人公は実在のヒップホップ・トリオ“KNEECAP”。アイルランド語でラップをし、政治的な風刺の効いたリリックに反抗的なパンク精神を融合したスタイルで注目されている。その過激な言動で政治家にも目をつけられ、“セックス・ピストルズ以来、最も物議を醸すバンド”という名称も。KNEECAP という名前も、ベルファストで北アイルランドのパブリカン民兵組織が行う、膝を撃ち抜く私刑からとっている。彼らのエネルギッシュでパワフルなパフォーマンスは、エルトン・ジョンやノエル・ギャラガー、ベックらアーティストも絶賛。今年、世界最大級の音楽フェス、コーチェラ・フェスティバルとグラストンベリー・フェスティバルに出演。パフォーマンス中にジェノサイドを行うイスラエルを批判したことで、非難が殺到。過去の公演での言動も掘り起こされ、テロ罪で起訴され裁判にまで発展する事態に。タブーを恐れずに、権利や自由のために声を上げる姿勢で支持される KNEECAP の半自伝的物語がここに誕生。

ストーリー

北アイルランド、ベルファストで生まれ育ったドラッグディーラーのニーシャ(MC ネーム:モウグリ・バップ)と幼馴染のリーアム(MC ネーム:モ・カラ)。麻薬取引で警察に捕まったリーアムは、英語を話すことを頑なに拒み、反抗的な態度を貫いていた。そこに通訳者として派遣された音楽教師の JJ(MC ネーム:DJ プロヴィ)が、リーアムの手帳に綴られていたアイルランド語の歌詞を発見。その才能に目をつけ、3人はアイルランド語の権利を取り戻すべく、アイルランド語のヒップホップを始めることに。

 

リッチ・ぺピアット監督インタビュー

このプロジェクトが始まったのは 2019 年 10 月のことでした。子どもの夜泣きから逃れたくて、ビールを飲みに出かけた時に地元のヒップホップグループで人気急上昇中だった KNEECAP のライブの告知ポスターを見かけ、思いつきで見に行ったのがきっかけです。彼らのステージでのエネルギーと存在感、カリスマ性、何にもとらわれてない姿に圧倒されました。そして、イギリスという国で、ほとんど知られていない言語でラップしているにも関わらず、満員だった 1000 人近くの観客が歌詞をすべて覚えていた事実に驚きました。信じられないことに、アイルランド語は北アイルランドの言語であるにもかかわらず、これまで公的に認められていなかったのです。彼らは全く進んでいなかったアイルランド語の認知を推し進める、物議を醸す勢力として立ち上がっていました。フロアにドラッグを投げ込むなど、大暴れしながら行っていた彼らの草の根レベルの活動に、私は興味を持ったのです。

何ヶ月もかけて一緒に飲みに行こうと KNEECAP を誘い続けたものの、失敗続き。ようやく彼らが折れて一緒に飲みに行けた時は、明け方まで飲み明かしました。そこで映画を作ろうと話になりました。彼らのようにアナーキーでパンク、リアルで妥協のない映画です。最初から、映画のほとんどのシーンをアイルランド語で撮影したいと思っていました。アイルランド語はちょっとした趣味ではなく、彼らの生活そのものです。映画でアイルランド語を話さなければ、なぜアイルランド語が彼らと深く繋りのある重要なことなのか伝わりません。なので、アイルランド語を学ぶことは必須でした。アイルランド語教室に参加すると、驚くことに半分以上の生徒が KNEECAP のファンでした。これは単なる音楽の域を超え、彼らが現実の世界に文化的な影響を与えていたのです。

私は昔ながらのヒップホップの大ファンなので、KNEECAP が言語と向き合う姿勢には、かつてアフリカ系アメリカ人のラッパーたちが英語を自らの都市的かつ抑圧された社会的現実に反映する形で再構築した時のムーブメントに通じるものを感じました。そして、彼らが映画制作のあらゆる段階に深く関わってこそ、このプロジェクトはよりリアルになると思いました。物語は毎日彼らとパブでおしゃべりしているうちに、自然と生まれてきたんです。半年ほど経つと、物語が組み立てられるだけの十分な話が集まりました。脚本はすべて英語で書いた後に、彼らとアイルランド語に翻訳したのですが、かなり大変でした。彼らが使うアイルランド語はアイルランド語の教科書とは違って、とても独特な話し方をするんです。その場で単語を勝手に作り出すこともありました(笑)

英語はとても覇権的なもので、それは良いことではありません。また、一度言語や文化が失われてしまうと、二度と取り戻すこともできません。環境破壊と同じです。私たちは植民地時代の過ちを認め、それが今も影響を与えていることを認知すべきだと思います。その時に、国を憎む必要はないのです。KNEECAP も、自分たちはイギリス人を憎んでいるのではなく、イギリスという国家とその象徴を憎んでいるといつも主張しています。もし彼らが本当にイギリス人を憎んでいるなら、私と 5 年間も一緒に働くはずがありません。彼らは私の家の 2 つ隣に住んでいて、子供たちのベビーシッターもしてくれています。いつも一緒に過ごしている大切な友人なのです。彼らはアーティストですが、ある種のムーブメントでもあります。彼らには世界中にファンがいて、うまく説明できない何かが人々を惹きつけています。それは彼らが庶民の味方だからだと思います。彼らはロックスターではありません。ただの普通の若者なのです。本作や KNEECAP を通して、世界中の人がそれぞれ自分たちの経験や文化との共通点を見つけ出しています。自分たちの言語や文化を学び、それを後世に伝えて守っていかなければ、消滅してしまうということに本作が気づかせてくれると願っています。

 

監督プロフィール

1984 年イギリス出身の脚本家兼監督。
ウォーリック大学を卒業後、ジャーナリストとして働いていた。イギリスの電話盗聴スキャンダルで、問題となったタブロイド紙を批判したジャーナリストの 1 人であり、数々のラジオ局の報道番組に出演したり、ガ
ーディアン紙などの大手新聞で論説を掲載していた。その経験を踏まえて制作された長編ドキュメンタリー映画『One Rogue Reporter(原題)』(14)でデビュー。風刺的な作風が評価され、第 61 回英国ナショナル・フィルム・アワード 最優秀インディペンデント映画賞にノミネート。Netflix と契約し、世界的に配信。第 69 回英国アカデミースコットランド賞を受賞した、テレビドラマ「Supershoppers」(16-18)の制作に参加。さらに『Hutching Up』(17)、『Grounded』(18)、『Backseat Driver』(19)などの短編映画での脚本、監督を務める。
2021 年には、KNEECAP の楽曲「Guilty Conscience」のミュージックビデオも手掛ける。本作のプロデューサー、トレバー・バーニーとともに Coup D'Etat(クーデター) という制作会社を設立し、長編映画やテレビのプロジェクトを展開中。本作で、第 78 回英国アカデミー賞では、新人監督として史上最多の6部門にノミネートされ、新人賞を受賞した。

アップリンク吉祥寺アップリンク京都ほか全国劇場にて8月1日(金)より公開

公式サイト

監督・脚本:リッチ・ペピアット
製作:トレバー・バーニー、ジャック・ターリング
撮影:ライアン・カーナハン
音楽:マイケル・“マイキー・J”・アサンテ

2024 年/105 分/イギリス・アイルランド/原題:KNEECAP/カラー/5.1ch/2.35:1/R18+
© Kneecap Films Limited, Screen Market Research Limited t/a Wildcard and The British Film Institute 2024
日本語字幕:松本小夏 後援:アイルランド大使館 配給:アンプラグド unpfilm.com/kneecap