『美しい夏』強い日差しに憧れが濃い影をつくって、少女ジーニアは。1940年代のイタリア文学の名作を映画化。

『美しい夏』強い日差しに憧れが濃い影をつくって、少女ジーニアは。1940年代のイタリア文学の名作を映画化。

2025-07-31 08:00:00

それが恋、愛だとかと気づく前、わたしたちはただ憧れのなかにいた。それは現実の中に突如現れた夢のようで、その不思議な感覚が身体中にせまって、頭のなかはあっという間に充満する。

彼女のあの感情を、わたしたちはどう呼ぶことができるのか。つかめない憧れの影を追うように、美しい夏を希求するように、などと名付けないまま、比喩をつかって言い表わすほかない思いがする。

1938年のトリノ。洋裁店で優秀なお針子として服作りに励むジーニアは、ある夏の日に訪れた友人たちとの河畔でのピクニックで、今まで見たことのないほどの美女、アメーリアに出会う。ジーニアより少し年上で、絵のモデルとしてたくさんの画家たちに親しまれるアメーリア。ジーニアは彼女に誘われるがまま、これまでは行くことのなかった場所、会うことのなかった人々に巡り合っていく。

田舎育ちで飾り気のない彼女と、洗練されていてどこにいても人目を引く彼女。服を作って働く彼女と、服を脱ぐことが仕事の彼女。

彼女たちの境遇の違い、わざと卑しい言い方をすれば住む世界の違いは、ジーニアのアメーリアへの憧れを加速させた。そしてその差を超えさせたのもまた、憧れだった。

やがて現実がジーニアを呼び戻し、それでもまた、夏が巡る。

・・・

下記のインタビューで、ラウラ・ルケッティ監督は、同名の小説を基にした本作について、ジーニアの過ごした夏はすべての少女たちにとっての夏であり、そしてこれは自由と勇気の物語だと語っている。

憧れた美しい夏に飲み込まれそうになっていた少女たちはやがて、勇気から恋を、自由から愛をつかんで行くだろう。

(小川のえ)

イントロダクション

イタリア文学界の巨匠チェーザレ・パヴェーゼの同名小説を、ラウラ・ルケッティ監督が現代的な感性で映画化。青春の輝きと残酷さを描き、第77回ロカルノ国際映画祭や「イタリア映画祭2024」でも上映され、観客を魅了した。

ジーニア役には、『墓泥棒と失われた女神』(24)などアリーチェ・ロルヴァケル作品常連の実力派イーレ・ヴィアネッロ。アメーリア役には、モニカ・ベルッチとヴァンサン・カッセルを両親に持ち、ディオールのアンバサダーも務める世界が注目する新星ディーヴァ・カッセルが抜擢。本作でスクリーンデビューを果たす。

戦争の影が静かに迫る中、対照的な2人を通して、少女が少しずつ大人になっていく過程が、繊細に映し出される。文学、アート、ファッションが交差する不朽の名作がスクリーンに蘇る。

ストーリー

1938年、トリノでお針子として洋裁店で働く16歳の少女ジーニアは、画家のモデルとして生計を立てる3つ年上の美しく自由なアメーリアと出会う。

アメーリアによって芸術家たちが集う新しい世界への扉を開かれ、ジーニアは大人の階段を上り始める。

思春期真っただ中のジーニアと、既に自立した女性としてたくましく生きるアメーリアの2人が、互いの姿に自分の未来/過去を映しながら、徐々に惹かれ合っていくーー。

ラウラ・ルケッティ監督メッセージ

『美しい夏』は、ジーニアという少女の身体についての物語です。

彼女は成長し、欲望を知り、誰かに見られ、愛されたいと願う。それは、いつの時代のどこにでもいる、少女たちの普遍的な通過点でもあります。

パヴェーゼが世界を、欲望を、愛を、男性たちを見つめたその女性的なまなざしが、本作の出発点でした。

私はそのまなざしをもとに、愛と恐れを抱きながら、この映画をかたちにしていきました。およそ85年前に書かれたこの小説は、初めて読んだときから私の胸に語りかけてきました。

その普遍性と、現代にも通じる感覚に、すぐに心を奪われたのです。

ジーニアは、自分自身を探し求める若い女性です。 性的な経験に自信がなく、その世界に踏み出すことを恐れていた彼女は、 アメーリアというもう一人の若い女性と出会い、新しい世界へと誘われます。 それは誘惑と幻想と脆さに満ちた、自由で奔放で偏見の少ない芸術と表現の世界です。

この映画は、「表現」をめぐる物語でもあります。ジーニアが求めるのは、誰かの目に映る自分。 描かれたい、残されたい、存在したい―。その幻想は、1930 年代の彼女にとっては肖像画であり、 現代の少女にとっては SNS で「いいね」を得ることかもしれません。

この作品のなかで私は、ジーニアの目を通して世界を見てみたいと思いました。 自分の身体、自分の自由、そして自身の欲望を模索する、あの揺れる季節を。

ジーニアの「夏」は、人生のある時点で、選択を迫られたすべての少女たちの「夏」です。 これは、誰かを愛するということを、自分で選ぶ―その自由と勇気の物語なのです。

ラウラ・ルケッティ監督プロフィール

1969年、イタリア・ローマ生まれ。1997年、短編映画『In Great Shape(英題)』を初監督。2004年には、第76回アカデミー賞で高い評価を得た映画『コールド マウンテン』(03/アンソニー・ミンゲラ監督) についてのドキュメンタリー『メイキング・オブ「コールド マウンテン」』を共同監督・製作。『Hayfever(英題)』(10)で長編デビューを果たした後、短編アニメ『レアの大好きなこと』(16)が数々の国際映画祭で選出されるなど注目を集める。短編アニメ第2作『Sugarlove(原題)』(18)は第33回ヴェネチア国際批 評家週間の特別招待作品として上映されたほか、ナストロ・ダルジェント賞で最優秀アニメーション賞を受賞。また同年、長編2作目となる『Twin Flower(英題)』(18)が数多くの国際映画祭で上映され、トロント国際映画祭ではFIPRESCI特別賞を受賞。2021年には、10代のリベンジポルノをテーマにしたTVシリーズ『Nudes(原題)』で監督を務め、イタリアでの初回放送で100万回再生超えを記録。長編第3作『美しい夏』(23)は、ロカルノ国際映画祭のピアッツァ・グランデ部門に出品。同作主演ディーヴァ・カッセルが 出演したNetflixリミテッドシリーズ『山猫』(25)でも共同監督を務め、巨匠ルキノ・ヴィスコンティによる名作のドラマ化としても話題になるなど、現在イタリア映画界が注目する映画監督の一人として知られる。

アップリンク吉祥寺 ほか全国劇場にて公開

公式サイト

監督・脚本:ラウラ・ルケッティ 出演:イーレ・ヴィアネッロ、ディーヴァ・カッセル

原作:『美しい夏』チェーザレ・パヴェーゼ作 河島英昭訳(岩波書店)

2023/イタリア/イタリア語・フランス語/111分/カラー/2.39:1/5.1 原題:La Bella Estate 字幕:増子操 字幕監修:関口英子

提供:日本イタリア映画社 配給:ミモザフィルムズ 後援:イタリア大使館 特別協力:イタリア文化会館

©2023 Kino Produzioni, 9.99 Films