『それでも私は Though I’m His Daughter』現在心理カウンセラーの仕事に就く麻原彰晃こと松本智津夫の三女松本麗華(りか)のドキュメンタリー
オウム真理教の麻原彰晃こと松本智津夫の三女松本麗華(りか)を2018年から捉えたドキュメンタリー。
長塚洋監督は、こう語る「この映画が観客に問うのは死刑制度をめぐる主張ではなく、ある加害者家族という“当事者”の存在に思いを致し、考え続けることだ。報復感情に依存しない世界、誰でも生き直せる社会への思いを、巡らせていただけたらと願っている」
恐らく父親が松本智津夫であるという理由で、銀行口座を開設することや、大学に入学することを拒否され、国家は、彼女が海外へ行くことを拒み、父親の逮捕時12歳だった彼女を現在も「教団幹部」の認定を国が取り消さないので、その取消の為訴訟起こすが、裁判所は認めない。
彼女は、弁護士の助けで入学した大学で心理学を学んだことを生かし、現在心理カウンセラーの仕事についている。
2025年の現在42歳になった彼女は映画公開について「私の個人的な頑張りが誰かを勇気づけることになったらとてもうれしい。それで私は勇気をもらっている」と語る。
東京では6月14日公開されたが、7月14日に松本智津夫の元妻と次男が住む越谷市内のマンションを団体規制法違反の疑いで家宅捜査し、数千万円の現金を発見したと報じられた。かつて松本は次男を後継者の一人に指名したとされている。
映画の中では、麗華が街で母親と次男を見かけても声をかけることなく尾行したというエピソードが語られる。
筋トレに励む姿、監督とのZOOMでのプライベートな会話など、ドキュメンタリーの被写体になる覚悟で自身ををさらけ出し映画は公開されたが、ある映画館では彼女の舞台挨拶を行うことはできなかったと聞いている。
映画を観て、彼女の生きる権利に思いを巡らせてほしい。(TA)
イントロダクション
娘なことは、罪ですか?
1995 年 3 月、日本を震撼させた地下鉄サリン事件。その首謀者の娘として生まれた松本麗華(まつもと・りか)は父親が逮捕された当時 12 歳。以来、どこに行っても父の名、事件の記憶、そして「お前はどう償うのか?」という問いがつきまとってきた。
「虫も殺すな」と言っていたはずの教団の信徒たちが起こした数々の凶行に衝撃を受け、父親が裁判途中で言動に異常を来したために、彼がそれら犯罪を命じたこともまだ受け入れ切れない。死刑の前に治療して事実を話させて欲しいとの彼女の願いに識者らも賛同し、真相を求め続けるが、間もなく突然の死刑執行。麗華は社会が父親の死を望んだと感じ、極度の悲しみと絶望のうちに生きることになる。それでも人並みの生活を営もうとするが、定職に就くことや銀行口座を作ることさえ拒まれる。国は麗華に対して教団の「幹部認定」をいまだに取り消さず、裁判所に不当を訴えても棄却されてしまう――。
社会からの絶え間ない差別や排除の中、自らの生き方を模索し続ける 6 年の記録
加害者の家族が背負う罪とは何か。オウム事件を含む犯罪報道に長く身を置いてきた長塚洋監督(『望むのは死刑ですか オウム“大執行“と私』)が考え続けた当事者たちの事件後の人生。松本麗華と出会い、その答えを求めて 6 年間に渡り記録し続けた。社会が被害者の代弁者となり加害者の家族を責める。バッシングに負けずひたむきに自身の人生を築こうともがく麗華の姿は、この世界で苦しみながら生きている人に向けた希望のメッセージとなりうるか。
長塚洋監督コメント
社会で日々起こる事件の何倍もの数、巻き込まれた当事者は存在する。事件後も続いていくその人生を、私たちはどれだけ理解できているだろうか? それはかつてキャリアの何年かを、オウム事件を含む犯罪報道に費やして来た私自身に、向けられた問いでもあった。私たちがほとんど思いを致すことのない、加害者側の家族の生き様を見つめたいとの思いが募る日々のなかで、松本麗華と出会った。当代で最も憎しみを集めたに違いない「加害者」の家族として生きる姿に触れ、6 年に及ぶ取材が始まった。
殺人事件は誰かの愛する者の命を奪うが、その結果としての死刑もまた、誰かの家族を奪うことになる。望んでその身の上に生まれたわけではない彼女は、これからどう生きていけるのか。社会はどう受け入れていくのか、いかないのか。彼女は二つの大きな痛みと向き合い続ける。一つは父親が償いとして命を奪われてもなお社会から続く、排除や差別。もう一つは父を愛することを止められないまま、父の刑死を受け入れねばならい苦しみだ。
この映画が観客に問うのは死刑制度をめぐる主張ではなく、ある加害者家族という“当事者”の存在に思いを致し、考え続けることだ。報復感情に依存しない世界、誰でも生き直せる社会への思いを、巡らせていただけたらと願っている。
監督プロフィール
10 代から小型映画を制作し、早稲田大学文学研究科(大学院修士過程)で映画学を学ぶ。
民放キー局で事件事故報道に従事。後年はテレビや映画、さらに近年は Web などの場で、人間と社会の在り方を問うドキュメンタリーを発表。2005 年からフリーランス。犯罪を繰り返す高齢者の更生を記録した『生き直したい』(大阪 ABC テレビ、2017)で坂田記念ジャーナリズム賞。ここ 10 年ほどは、死刑制度を題材とした映画制作に取り組む。そのうちの一本『望むのは死刑ですか オウム“大執行”と私』(2015) は 2022 年、アメリカの The Awareness Film Festival でMerit Award of Awareness Award(気づきの功労賞)を受賞。
監督・プロデューサー:長塚 洋
撮影 :長塚 洋、木村 浩之
編集 :竹内 由貴
音楽 :上畑 正和
チェロ演奏 :大町 剛
整音 :西島 拓哉
アニメーション :竹原 結
ドローン撮影 :武田 充弘(東京ドローン)
技術編集 :中山 章太郎・丸山 駿
英語字幕 :藤岡 朝子
特別協力 :「それでも私は」上映委員会
配給協力 :きろくびと
制作・配給 :Yo-Pro
2025 年/日本/DCP/119 分
公式 HP:www.iamhisdaughter.net
公式 X:@imhisdaughter
(C) Yo-Pro