『そして、優子Ⅱ』続編ではないけれど、"三部作"に期待!

『そして、優子Ⅱ』続編ではないけれど、"三部作"に期待!

2025-06-05 08:00:00

波打ち際の音とともに、堤防を歩く大人と小さな子どもの人影が遠く映し出される。その画面にゆったりと浮かび上がるタイトル、「そして、優子」の白い文字。その続きを待っていると、描かれたのは「Ⅰ」。

ポスター画像や公式ホームページに「※これはシリーズものの続編ではありません。」との注意書きがあるように、また、英語版のタイトルが『Yuko Side B, and hereafter』であるように、本作『そして、優子Ⅱ』は主人公の女子高校生・優子の成長を、遠くから見守るように描いた作品だ。

キャッチコピーは、「曖昧に、進化する」。ⅠからⅡへの変化は、A面からB面に移っただけのことなのかもしれない。それでも一歩を踏み出した優子の物語。

優子は、自分のことを「普通」だと思っている。どちらかと言えばぼーっとしているタイプで、同級生とつるむことはあまりないにしても。その優子に、同級生・浩也が近づいてくる。浩也は「普通はつまらない」と思っていて、彼からすると優子は「普通ではない」ので、憧れを抱いているのだ。なぜなら、優子の父親の職業がヤクザだから。そんな浩也に優子は言い放つ。「てか、普通ってなに?」。

物語の舞台になったのは、静岡県沼津市。本作では架空の島という設定になっているが、本編の9割近くが我入道の海岸や淡島など、同市内で撮影された。ロケ地に選んだ理由として佐藤憲竜監督は、曖昧な人たちが曖昧に進化していく場所に、暑くも寒くもない気候や、山と海に挟まれた空間がぴったりだった、と話す。また、「沼津の情景を記録した写真集のような映画になった」と監督が言うように、このきれいな街はどこなんだろう、と劇中、終始気になっていた。照明助手として映像業界のキャリアをスタートした佐藤監督ならではの切り取り方、写し方が、沼津市の魅力を引き立てている。鑑賞後はきっとロケ地めぐりをしたくなるだろう。

かの”尾道三部作”のような、”沼津三部作”ないしは”優子三部作”を期待したい。

(小川のえ)

イントロダクション

「子どもは親を選べない」という「親ガチャ」をテーマに、高校3年生の優子と暴力団組員の父親との絆を描くヒューマンドラマ。

今作の主人公は、普通の人々と同様に好き好んでその親から生まれてきた訳ではありません。

親の元に生まれた運命と世間性を照らし合わせ「自分は不幸せ?」と疑問を抱き始めます。

彼女なりに父親との向き合あっていく時間を描く事で、幸福論という普遍的なテーマに触れていきます。

「何が良い事で、何が悪い事なのか?」。善悪の判断を他人や世の中の価値観に任せていないか。

主人公の葛藤やもがくさまを通して、なかなか行動できない若者の肩をそっと押す映画になっています。

ストーリー

とある小さな田舎町の父子家庭で育ってきた女子高生の優子。

彼女は、何か決断をする事が大の苦手。 派手な出来事が起こる事も大の苦手。

何も起こらない時間、つまり「普通」が彼女にとって一番心地良いのだった。

父親は男手ひとつで、一般家庭と同様に優子の事を大事に育ててきた。しかし、父親は「普通」の親とは違う顔があった。

それは、ヤクザを生業にしているという事。

そして父親の取り巻きの組員たち。娘を溺愛していたり、いい歳して大学受験に挑んだり、親の介護に苦しんでいたりと、どこか憎めないヤクザばかり。彼らも優子に対して常に優しかった。

小さな田舎町によるヤクザ稼業は、やがて時代と需要が遠のいてしまった事でシノギが大幅に減少してしまい、組は存続の危機に陥っていた。

クラスメイトや世間に対して若干後ろめたい気持ちがありつつも、それなりに楽しく毎日を過ごしていた優子だったが、ほんの些細な出来事の連鎖によって、少しずつ彼女の「普通」が崩れはじめる。

佐藤竜憲監督プロフィール

北海道釧路市出身。照明助手としてキャリアをスタートさせた後、演出部へ転向し、映画・CF・MVにおいて児玉裕一監督、深川栄洋監督、筧昌也監督など様々な監督の元で作品に携わり経験を積む。監督としては、「絢香」「私立恵比寿中学」「Aimer」などMV、TVドラマ、CFで幅広く活躍し、2014年に映画「惑星ミズサ」で初の劇場公開を果たす。2021年にテレビドラマ「ホメられたい僕の妄想ご飯」が「日本⺠間放送連盟賞」を受賞。2023年にはテレビドラマ「私の夫はあの娘の恋人」TVerにて全番組含む視聴ランキング1位を達成した。

 

アップリンク京都 ほか全国劇場にて公開

公式サイト

監督:佐藤竜憲

脚本:佐藤竜憲、横幕智裕

撮影:小荒井寛達 出演:瀬戸みちる、柳憂怜、武田幸三、森本のぶ、沖正人、品田誠、新宅康弘、豊田崇史、

河野智典、大川航、遠山景織子、大島葉子、和田光沙、藤木由貴、ドロンズ石本、渡辺哲 制作:株式会社ドロワーズナイン

配給:リアリーライクフィルムズ株式会社

製作:株式会社メディックジャパン

2023年/日本/117分/カラー/アメリカンビスタ

©「そして、優子II」なかよし倶楽部