『蝶の眠り』8年越しの再上映、共演者が語る中山美穂さん

『蝶の眠り』8年越しの再上映、共演者が語る中山美穂さん

2025-05-22 17:27:00

2024年、中山美穂さんがこの世を去った。彼女の最後の主演作となったのが、2017年公開の映画『蝶の眠り』。先月22日には一日限定で上映され、同日に東京国際フォーラムにて行われた中山美穂さんのお別れ会への出席のため来日中だった、監督のチョン・ジェウンと共演のキム・ジェウク、プロデューサーのイ・ウンギョンと山上徹二郎が舞台挨拶に登壇。撮影時の中山さんとの思い出を語り、多くの観客の胸を打った。

チョン・ジェウン監督は、「公開から8年ほどが経ちましたが、まさかこういう形でまたこの映画を観ることになるとは想像できませんでした」と語り、「皆さんと一緒に映画を観るということは、本来は楽しいことのはずなのですが…」と続けた。そして、「昨年哀しい知らせを聞き、皆さんと同じ気持ちです。それでも、この映画をきっかけに、皆さんと中山美穂さんについてお話をし、考え、祈る機会をいただけたことの意義を感じています」と、観客との共有の時間を大切にする姿勢を見せた。

キム・ジェウクは、「日本で映画のファンの皆さんの前でご挨拶するのはすごく久しぶりで、楽しい気持ちでここに立ちたかったんですけど、そうじゃないのがとても残念です」と沈痛な面持ちで語った。「先ほどのお別れの式で、中山さんの映像や、僕が知らないお若い頃の活動の映像を見ていたら、僕が知っているよりもすごい人で、美しくて才能ある歌手であり、女優だったと改めて思いました」と回顧し、「一緒に映画という形で作品を遺せて嬉しい反面、悲しい気持ちになりました」と胸の内を明かした。撮影当時を振り返り、「中山さんは楽しくて、安心させてくれた方でした。一緒に楽屋でお弁当を食べたりしながら、作品以外のこともちょこちょこ話をしていた記憶が浮かびますね」と、穏やかな日々の一幕を語った。

韓国側の製作を担当したイ・ウンギョンプロデューサーは、中山が岩井俊二監督作『Love Letter』の大ヒットで韓国でも高い知名度を持っていたことに触れ、「韓国で『知ってる日本の女優さんは誰?』と聞いたら『中山美穂!』というくらい有名」と語った。昨年の訃報を受け、韓国でも多くの劇場から再上映の打診があったというが、「監督も私も時間が必要だった」とし、「本日4月22日のお別れ会と再上映を以て、様子を見ながら韓国でもこの映画で中山さんについて思う時間をつくりたい」と展望を述べた。

『蝶の眠り』は、遺伝性アルツハイマー病を宣告された女流作家が、自らの余命を知りながらも最後に自分の尊厳を守り、残る人たちに美しい記憶を残そうと静かに行動する姿を描いた作品。アップリンク吉祥寺、アップリンク京都でのリバイバル上映は5月23日(金)より始まる。

 

イントロダクション

死を宣告された女性小説家の人生最終章

高齢化社会にあって、アルツハイマー病や認知症といった病気と、どう向き合って人生の最後を終えるのか。これは今、多くの人たちが直面
する人生の課題だ。本作は、遺伝性アルツハイマー病を宣告され、自らの余命を知る女性小説家が、最後に自分の尊厳を守り、そして、残る人
たちに美しい記憶を残そうと静かに行動した究極の人生最終章である。
人気小説家の涼子は、同じく作家の夫と別れたあとも精力的に執筆を続けていたが、母親と同じ遺伝性アルツハイマー病に侵されていることを告知される。病の進行に怯えながらも、最後の小説を書き上げたいと望むが、その一方では初めて大学の教壇に立ち、学生たちに小説を教えていた。
人は死を目前にすると、自分は何をすべきなのか、何を残せるのかを真摯に考えるものだ。50代前半で、まだ美しさを保つ女性小説家は、華やかな日常の裏で、次第に自分をコントロールできなくなっていく恐怖と、一人で死に立ち向かう寂しさを抱えていた。やがて、作家を目指す一人の青年チャネと出会い、自分が何をなすべきか心に決め、記憶を喪失する前に、自分が自分でなくなる前に、自分の最後の小説の執筆と身辺整理をこなしていった。
アルツハイマーが進行する涼子と、彼女を最期まで支え続けたいと願うチャネ。二人の思いはすれ違ったまま年月は過ぎるが、数年後チャネ
は涼子の療養所を訪ねる。今や自分さえ誰か認識できない涼子と再会するチャネに、更なる記憶が蘇る。忘れたくない記憶。忘れようとしても忘れられない記憶。自分にとって特別な記憶は、たとえ相手が全ての記憶を失ったとしても、忘れていない可能性もあるのだ。そして、大切な人とのかけがえのない記憶は生きる糧になる。年の差を超えた究極の愛がテーマの本作は、恋愛を凌ぐ人間愛を考えさせるストーリーでもある。

 

ストーリー

50代でありながらも美しく、若い読者にも根強いファンを持つ、売れっ子の女流小説家・松村涼子(中山美穂)。
作家として成功し、満ち足りた生活を送る涼子だったが、遺伝性のアルツハイマーに侵されていることを知り、人生の終焉に向き合うことを余儀なくされる。
“魂の死”を迎える前に、小説を書く以外に何かをやり遂げようと、大学で講師を務め始めた涼子。ある日、大学近くの居酒屋で、韓国人の留学生チャネ(キム・ジェウク)と出会い、ひょんなことから涼子の執筆活動を手伝うことになる。
作業を進めるうち、現実と小説の世界は混沌として交差して行き、二人も徐々に惹かれあっていくのだった。しかしアルツハイマーは容赦なく進行していく。
愛と不安と苛立ちの中、涼子はチャネとの関係を精算しようと決意するのだが、その思いはチャネには受け入れがたく、二人の気持ちはすれ違っていく…。

 

チョン·ジェウン監督インタビュー(2017年作品公開時)

―― 本作で伝えたかったメッセージを教えてください。

愛の記憶をテーマに、失われていく記憶を美しく留めようとする小説家の物語です。恋愛はいつか終わりますが、自分はまだ想っていても、相手には忘れられているだろうと勝手に決めてしまうことが、皆あるのではないかと思うんです。でも本当は忘れられていないかもしれない。すれ違いも含めて、お互いの愛が詰まった記憶自体がかけがえなく、意味があることを、日韓のカップルを通して描こうと考えました。
さらに主人公は愛し合った記憶とともに、生きてきた形跡をこの世に残し去ろうとする......自らの尊厳を守る女性の生き方にも共感して頂けると思います。

―― 主演に中山美穂さんを起用された理由をお聞かせください。

私たちの世代の韓国人にとって、最も有名な日本人女優が中山さんです。私も映画『Love Letter』を観て映画も中山さんも大好きになりました。恋愛映画を演じきれる女優として、真っ先に思い浮かんだんです。『Love Letter』で記憶を探し求める女性を演じた印象も強く、本作にもぴったりだと!

―― 中山さんの印象はいかがでしたか?

本当にプロフェッショナルな女優さんです。現場でブレや迷いがなく、演じる集中力が素晴らしくて。尊敬もし、さらに好きになりました。タイトな日程でしたが、撮影を始めつつ脚本についてよく話し合ったんです。彼女の生命力や意志の強さといったものが表情と瞳に溢れて、顔をクローズアップすると、映像にパワーがみなぎるのが分かりました。また、泣かない強さを持ちつつ記憶を失いどんどん空っぽになってく表情など、細やかな感情コントロールが見て取れ、ラブストーリーにはまる女優さんだと改めて確信しました。

―― キム・ジェウクさんを起用したポイントは?

留学生の設定で全編日本語を話す役。日本語が流暢なだけでなく、響きが気持ちがいいと、多くの日本の方にも薦められたのが彼です。きれいな日本語への信頼感が決定的な理由と言えますが、清潔でさわやかな容姿もポイントでした。おそらく彼は日本語の台詞を覚えて話すことでせいいっぱいで、芝居からはほどよく力が抜けていたのも功を奏しているのではないでしょうか。苦労している留学生という設定もありましたし、撮影中は一人で日本に滞在してもらいました。スケジュールもタイトだったので大変だったはずです。唯一韓国語で話せる人ということで、撮影中、一番話をしました。頼りになった存在でした。

 

チョン·ジェウン監督プロフィール

1969年生まれ。韓国芸術総合学校・映像院・演出制作科卒業。作家性の高い韓国屈指の女性監督であり、近年は建築ドキュメンタリーの分野で評価されている。2001年、社会生活を始めたばかりの20歳の女性たちの物語『子猫をお願い』で長編デビュー。
2012年、建築ドキュメンタリー『語る建築家』(未)が韓国で観客動員数4万を突破。同年、独立映画における興行1位を記録して底力を見せた。

 

アップリンク吉祥寺 アップリンク京都にて上映

公式サイトはこちら

監督・脚本・原案:チョン・ジェウン
プロデューサー:山上徹二郎、イ・ウンギョン
出演:中山美穂、キム・ジェウク、石橋杏奈、勝村政信、菅田 俊、眞島秀和、澁谷麻美、永瀬正敏
配給:シグロ
配給協力:キングレコード

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