『ふたりの人魚』原題は『蘇洲河』。嘘でも本当でもやがては下流へと流れていく―。
『未完成の映画』公開を記念して、『ロウ・イエ監督特集』が上映中。
特集で上映されるのは、『ふたりの人魚』(00)、『天安門、恋人たち』(06)、『スプリング・フィーバー』(09)、『パリ、ただよう花』(11)、『二重生活』(12)、『ブランド・マッサージ』(14)、『シャドウプレイ【完全版】』(18)、『夢の裏側』(19)、『サタデー・フィクション』(19)の9作品だ。
今回はその中から『ふたりの人魚』を紹介する。製作は新作『未完成の映画』のプロデューサーを務めたドイツ人のフィリップ・ボバー氏。アップリンクは本作の完成前、ロッテルダム映画祭の企画マーケットでボバー氏のプレゼンテーションで撮影済みの映像をみる機会があり、出資を決めた。ロウ・イエ監督とアップリンクが出会ったきっかけの作品でもある。
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本作は『デッドエンド 最後の恋人』(94)、『危情少女 嵐嵐(ランラン)』(95、TV映画)に続いて、ロウ・イエ監督の長編第三作。
自ら立ち上げた中国初のインディーズ映画製作会社「ドリームファクトリー」で製作され、本国中国では上映許可が下りず公開されないながらも、アメリカ、フランス、イギリス、韓国など23か国が上映権を購入。第29回ロッテルダム国際映画祭でグランプリに相当する「タイガー・アワード」を、TOKYO FILMex 2000で最優秀作品賞を受賞するなど、中国インディペンデント映画としてもっとも成功を収めたとされる作品だ。
原題は『蘇洲河』。蘇洲河は上海の主要な水路として利用されてきた河川だ。
女の声が尋ねる。「私がいなくなったら、馬達(マーダー)のように探す?」「探し続ける?」「死ぬまで?」。
そしてカメラが蘇洲河の上から、両岸の街や人々を映し出していく。撮っているのは「僕」。その川によって多くの人が暮らしを成り立たせ、ゴミを生み出し、やがてそこで一生を終える、その様を「僕」はよくビデオに映している。
「僕」はビデオの出張カメラマンで、頼まれればなんでも撮影する。「映像が気に入らなくても文句は言わないこと。カメラは嘘をつかないのだから」と、彼は言う。ある日、とあるバーのオーナーに水中ダンサーの撮影を依頼される。彼はその被写体である人魚に扮したダンサーのメイメイに一目惚れし、二人の交際がはじまる。
酔っ払うとメイメイは必ず、「僕」にある問いかけをする。「私がいなくなったら、馬達(マーダー)のように探す?」。彼女によると、マーダーとはバイクの運び屋で、恋した娘を探し続けた男なのだという。作り話なのか本当の話なのか、とにかく一風変わった彼女の話から空想を膨らませる「僕」だったのだが、やがて現実が物語の中へと飲み込まれるかのようにして、「僕」の前にマーダーが現れる…。
マーダーとその娘の間に起こったことは、映画の冒頭で蘇洲河の上からカメラを回しながら「僕」が語っていたことだった。そして映画の終尾には、再びメイメイが問いかける。「私がいなくなったら、マーダーのように探す?」。
どこが物語のはじまりだったのか、わからなくなる。わからないが、もう戻ってこない一つの物語があることだけは確かだ。嘘も本当も、一緒に川に流れていき、見失う。失われた物語を探しにいくのか、目をつぶって次の物語を待つのか、「私」ならどうするだろうか。
(小川のえ)
ストーリー
”僕”は上海でビデオの出張撮影を生業としていた。
ある日、撮影先のバーで”僕”は水槽の中で泳ぐ美しい人魚に一目惚れする。
人魚に扮した娘は”メイメイ”と名乗った。
付き合い始めた”僕”と”メイメイ”。
しかし彼女はとらえどころがなく、ある日、彼女をかつての自分の恋人”ムーダン”だと言い張る男が現れた。
ミステリアスに錯綜していく二つの恋。
果たして”僕”の恋した女は誰だったのかー。
2000年/中国・ドイツ・日本/83分
監督・脚本:ロウ・イエ
製作・出演:ナイ・アン
出演:ジョウ・シュン、ジア・ホンシュン、ヤオ・アンリェン