『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』モデル、フォトグラファー、そして戦場カメラマンへ。
映画はリー・ミラーが自宅のソファに腰掛け、取材を受けるかのように男性と向き合い、過去を回想しながら進む。この男性はリーの実の息子だ。彼女は生前、戦時中の写真家としての仕事について、息子のアントニーに何も知らさなかったのだそうだ。たくさんの写真の裏にある物語を知りたいと話すアントニーに対して彼女は、「そこにあるのはただの写真よ」、「何が狙いなの?」と言って、映画の中でも何度も話すことを渋る。
リー・ミラーは1907年にアメリカで生まれ、18歳の時フランス・パリに渡った。創刊間もない『VOGUE』の誌面を飾るなど、ファッションモデルとして活躍。その姿は”モダンガール”の象徴のようであったという。その後、マン・レイのアシスタントになり、パブロ・ピカソ、ジャン・コクトー、サルバドール・ダリなど、多くの芸術家たちと親交した。自らも写真を撮り、フォトグラファーとしてもその名を馳せていった。巨匠たちがリーをファッションモデル(ミューズ)として見ていたのか、写真家(ユニークな人間)として見ていたのかは、わからない。
しかし、リーはモデルとしての名誉にも、フォトグラファーとしての名声にもいっさい囚われることなく、第二次世界大戦が始まるとすぐに行動に出る。イギリス人の美術商、ローランド・ペンローズと結婚し、開戦時イギリスに住んでいたリーは昔のよしみで、英国版『VOGUE』の編集部にカメラマンとして雇ってもらうよう直談判しにいく。そして、米軍従軍記者となり、戦場カメラマンのリー・ミラーとして活動していく。
なぜそんなことをするんだろう。どうしてそんな並大抵ではないことを、いつも迷うことなく選び、やり続けることができるんだろう。彼女のことをもっと知りたいと思うとともに、わたしは説明を求めることをやめた。
リーは語ろうとしないし、だからこの映画もその原動力の理由を教えてくれることはない。しかし、説明がつかないままだからこそ、彼女の存在が印象ではなく、事実として記憶に残る。彼女の撮った写真、映した光景のように。
(小川のえ)
イントロダクション
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』主人公のモデルとなった実在した人物 リー・ミラー
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『タイタニック』ケイト・ウィンスレット(主演)
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『エターナル・サンシャイン』エレン・クラス(監督)
リー・ミラーが写し出す写真には、人間が持つ脆さと残酷さの両方が刻みこまれ、今もなお人々を惹きつける重要な歴史的記録として真実を伝えている。
「VOGUE」誌をはじめトップモデルとして華やかで自由な生活を謳歌し、マン・レイ、パブロ・ピカソ、ココ・シャネル、ジャン・コクトー、コンデ・ナストら時の天才たちを魅了。類稀なる輝きは報道写真家に転身してからも光りを放ち、第二次世界大戦が始まるとその情熱とエネルギーは戦場へ向けられる。彼女はいかにして従軍記者になったのか、戦争の前線で目撃した真実、人生をかけて遺したものとは──。
彼女の生き方に大きく感銘したケイト・ウィンスレットが製作総指揮・主演で贈る、リー・ミラーの偉大で情熱的で数奇な運命が遂に映画化!
ストーリー
真実を伝えたい 撮られるのではなくて──
彼女が映した戦争、屋根裏部屋にしまった歴史的記録が伝える事実。
1938年フランス、リー・ミラーは、芸術家や詩人の親友たち──ソランジュ・ダヤンやヌーシュ・エリュアールらと休暇を過ごしている時に芸術家でアートディーラーのローランド・ペンローズ出会い、瞬く間に恋に落ちる。
しかし、ほどなく第二次世界大戦の脅威が迫り、一夜にして日常生活のすべてが一変する。
写真家としての仕事を得たリーは、アメリカ「LIFE」誌のフォトジャーナリスト兼編集者のデイヴィッド・シャーマンと出会い、チームを組む。
1945年従軍記者兼写真家としてブーヘンヴァルト強制収容所やダッハウ強制収容所など次々とスクープを掴み、ヒトラーが自死した日、ミュンヘンにあるヒトラーのアパートの浴室で戦争の終わりを伝える。
だが、それらの光景は、リー自身の心にも深く焼きつき、戦後も長きに渡り彼女を苦しめることとなる。
---- リー・ミラー (Lee Miller) ---
英国版『VOGUE』誌の記者として第二次世界大戦中のヨーロッパを取材した、アメリカの先駆的な従軍記者兼写真家。
彼女は歳を重ねるごとに、自分のことをモデルや男性アーティストたちのミューズとして覚えてほしくないと思った。そして、当時の女性に対する期待やルールに逆らい、戦争の最前線から事実を報じるため、ヨーロッパへ渡る。
リーはナチス政権の残虐な行いを世に伝えるべく、ローライフレックスカメラで写真を撮った。ダッハウ強制収容所を始め、ヨーロッパ各地で衝撃的で恐ろしい光景をフィルムに収めた。戦争とその犠牲者や影響を捉えた彼女の写真は、第二次世界大戦において最も意義深く、歴史的にも重要なものとして残り続けている。
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エレン・クラス監督プロフィール
エレン・クライス監督ポートレート
1959年生まれ、アメリカ・ニュージャージー出身。ブラウン大学、ロード・アイランド・スクール・オブ・デザインなどで学び、サンダンス映画祭最優秀撮影賞を受賞した『恍惚』(92)をはじめ、『サマー・オブ・サム』(99)、『ブロウ』(01)、『コーヒー&シガレッツ』(03)、『アメリカン・ユートピア』(20)などの撮影を手掛ける。ケイト・ウィンスレットとは『エターナル・サンシャイン』(04)、『ヴェルサイユの宮廷庭師』(14)で組む。監督としてはドキュメンタリー作品を多く手掛けており、『The Betrayal ‒Nerakhoon(原題)』(08)ではアカデミー賞®ドキュメンタリー長編賞にノミネート。劇映画としては本作が初監督となる。
アップリンク吉祥寺 ほか全国劇場にて公開
2023年/116分/G/イギリス/英語・フランス語
監督:エレン・クラス
出演:ケイト・ウィンスレット、アンディ・サムバーグ、アレクサンダー・スカルスガルド、マリオン・コティヤール、ジョシュ・オコナー、アンドレア・ライズボロー、ノエミ・メルラン
配給:カルチュア・パブリッシャー
© BROUHAHA LEE LIMITED 2023