『ロザリー』男らしさ、女らしさ、という美しさ。
わたしは『ロザリー』の物語を、ロザリーのモデルとなった女性、クレマンティーヌ・デレの物語を、多様性やルッキズム、ジェンダーレスといった言葉を使わずに紹介したいと思う。彼女が生きた1870年代には、世界のほとんどすべてが、女と男とそれ以外、という役割に分けられていただろうから。
美しいものに、わたしたちは惹かれる。瞬間的に何かを美しいと思ったとしても、そこには社会から刷り込まれてきたものが介入している可能性が孕んでいる、と認めた上で、それでも、美しいと思うことは、止めるべきことではない。
男らしさ、女らしさ、という美しさ。それは煮つめていくと、あなたらしさ、私らしさに他ならない、ということをロザリーは人生をかけて示す。身体を張る、というよりも、謳歌する、という表現がしっくりとくる、気高く美しい仕方で。
当初、彼女は生えてくる毛をひた隠しにしていたが、あるときから毛を剃ることをやめ、「髭のある女性」として生きることを選ぶ。一方で、彼女は洋服を仕立て刺繍を施し、頭髪にはいつも素敵な花を挿すことを欠かさない。髭によって、ボーイッシュやマスキュリニティへ傾倒するのでもなく、両性具有のように見立てるでもなく、女性として飾り立てる可憐さや官能さも含めて、まさに自分の身体を、生を謳歌する。その姿は、「美しい」という言葉では終わらない、強く、魅力ある状態だ。
わたしも彼女のように、自分を生き抜くことができるだろうか。
(小川のえ)
イントロダクション
第76回カンヌ国際映画祭で「ある視点」部門に出品、クィア・パルム賞にノミネートされ、「魅力的なエンパワーメント物語」(The Guardian)として話題を呼んだ本作は、フランスに実在したヒゲを生やした女性、クレマンティーヌ・デレに着想を得て生まれた。
監督・脚本は、前作『ザ・ダンサー』(16)が第69回カンヌ国際映画祭同部門への出品・ノミネートを果たし、鮮烈なデビューを飾ったステファニー・ディ・ジューストが勤め、コンプレックスを抱えながらも愛を信じる女性を描く。
ロザリー役には、フランソワ・オゾン監督作『私がやりました』(23)で脚光を浴びた新進女優・ナディア・テレスキウィッツ。ロザリーの夫・アベル役には、フランス映画界を代表する名俳優・ブノワ・マジメル(『ピアニスト』(01)、『ポトフ 美食家と料理人』(23))が出演。ヒゲを隠すことをやめ、ありのままに生きた一人の女性の勇気ある物語が誕生した。
ストーリー
天が彼女に与えたのは柔らかくてしなやかな...
生まれた時から多毛症に悩まされるロザリーは、その特別な秘密を隠して生きてきた。
田舎町でカフェを営むアベルと結婚し、店を手伝うことになった彼女はある考えがひらめく。
「ヒゲを伸ばした姿を見せることで、客が集まるかもしれない」
始めは彼女の行動に反対し嫌悪感を示したアベルだったが、その純粋で真摯な愛に次第に惹かれていく。
果たして、ロザリーは本当の自分を愛される幸せと真の自由を見つけられるだろうかー。
ステファニー・ディ・ジュースト監督コメント
父が亡くなり、虚無感と焦燥感を抱える中、「髭の生えた女性」として有名だったクレマンティーヌ・デレという女性が私の心を掴みました。
見せ物となるのを拒絶し、一人の女性として人生を歩む欲求を誰よりも持っていたことを知り、時代の偏見に抗い女性らしさを貫く主人公・ロザリーが誕生しました。
他人と自分を愛することが彼女の闘いです。ロザリーは恋をしますが、ありふれたロマンスには興味がなく、それを手にする権利もないと考えています。どれだけ女性的で繊細でも、愛は当たり前のものではありません。一方で普仏戦争の傷から愛を忘れ、何事も信じられなくなったアベルは怒りをコントロールできません。
ありのままの姿を愛して欲しいロザリーがアベルの感情を揺さぶる瞬間を収めようとしました。本作を通して無条件の愛、自己受容・自己創造の自由を描くために、髭が不可欠な要素となっています。
ステファニー・ディ・ジュースト監督プロフィール
フランス出身の映画監督、写真家、アートディレクター。パリの国立装飾芸術高等学校と ESAG Penninghen で学んだ後、広告やテレビ局のデザイナーとしてキャリアをスタート。エルザ・ランギーニや NYPC、ブリジット・フォンテーヌなどの MV を監督した後、2016年『ザ・ダンサー』で長編デビュー。第 69 回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品され、カメラ・ドール、クィア・パルム賞にノミネートされた。本作が長編第二作目となる。
アップリンク京都 ほか全国劇場にて公開
監督・脚本:ステファニー・ディ・ジュースト
脚本協力:サンドリーヌ・ル・クストゥメル
出演:ナディア・テレスキウィッツ、ブノワ・マジメル、バンジャマン・ビオレ、ギヨーム・グイ、ギュスタヴ・ケルヴェン、アンナ・ビオレ
2023 年|フランス・ベルギー|フランス語|115 分|シネマスコープ|5.1ch|原題:Rosalie|字幕翻訳:大城哲郎|PG12
配給:クロックワークス
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