『フーリッシュ・バード』逃げたくても逃げられない、少女という季節から。女という身体から。
監督は、中国のインディーズ映画界から世界各地の映画祭で注目を集めるホアン・ジーと、日本のドキュメンタリーの番組制作に従事したのち2005年から中国で活動する大塚竜治。公私ともにパートナーである二人は、2012年に『卵と石』(監督・脚本:ホアン・ジー、撮影・編集:大塚竜治)を発表。その約5年後に本作『フーリッシュ・バード』を製作した。そしてこのたび、共作第三作目となる『石門』(22年製作)の公開に合わせ、特集上映が組まれている。
『卵と石』、『フーリッシュ・バード』、『石門』はいずれも少女が主人公となっているが、すベて一人の俳優、ヤオ・ホングイが演じている。彼女のすがたや心の変化に合わせるように、3つの物語が連なっているかのようだ。
子どもから大人へと成長していく過程で、それは起こってしまった。避けられたかもしれない、でも逃げるのに充分な力や知恵が、まだ彼女にはなかった。そんな「彼女」である「わたし」が、観客の中にも大勢いるだろう。
左脚を手で支えながら大きくあげ、血のような赤い液体が入ったビニール袋を胸のあたりにぶら下げる。口をつぐみ、睨むかのようにそれを凝視する。長い髪が無造作に、無抵抗に垂れている。
『フーリッシュ・バード』のポスターだ。作品から痛いほど伝わってくる青春の閉塞感、思春期の無力感と、それらを細い身体でかかえる少女の感情のあり様が、ポスタービジュアルにも見事に表現されている
(小川のえ)
イントロダクション
第67回ベルリン国際映画祭のジェネレーション14+部門に出品され、スペシャルメンション賞を受賞した本作。
ホアン・ジーと大塚竜治が共同で監督を務める第一作目である。脚本はホアンと大塚、撮影は大塚。また、ホウ・シャオシェン監督、エドワード・ヤン監督作品で編集を務めるリャオ・チンソンが編集で(『石門』でも編集を担当)、音楽では同じくホウ・シャオシェン監督、ジャ・ジャンクー監督作品のリン・チアンが参加していることも特筆すべき点だ。
本作は、女性の性にまつわる題材の中でも、思春期の少女が経験する「初体験」に焦点が当てられている。親と離れて暮らす「留守児童」の子どもが抱える孤独や、携帯電話やSNSの利用拡大が少女たちの生活にもたらす負の側面を浮き彫りにする。
ストーリー
中国湖南省の地方都市。
16歳の高校生リンは、出稼ぎに出ている母親と離れ、祖父母の家で暮らしていた。
学校ではいじめに遭い、家にも居場所がなかったリン。
親友と共に高校で盗んだスマートフォンを転売して小遣いを稼ぐようになるが、
それをきっかけに街の怪しげな人たちと関わりを持ち始め...... 。
ホアン・ジー監督&大塚竜治監督メッセージ
私の母は、『卵と石』と『フーリッシュ・バード』を鑑賞した時に、彼女は初めて私が中学と高校でどんな困難に直面していたのかを知りました。
そして、母は尋ねました。「どうして私に言わなかったの?」
あなたにも家族や友達に言えない困難がありますか?
もしかしたら『卵と石』や『フーリッシュ・バード』が、あなたと彼らの間にある『石門』を開くかもしれません。
―ホアン・ジー
今回『石門』の公開を機に、前作の『卵と石』および『フーリッシュ・バード』が同時公開されることとなり、とても嬉しく思います。
映画『卵と石』の制作時に初めてヤオ・ホングイを起用したとき、彼女はまだ13歳でした。
第一印象は、彼女の眼差しでした。彼女は、中国の現代社会の波に流されることなく、何か先を見据えた強い意志を持っていました。
その眼差しは私たちを惹きつけ、三作品に渡り10年間撮り続けることになりました。
今から12年前の『卵と石』、8年前の『フーリッシュ・バード』の時、彼女の視線の先には何が見えていたのだろうか?
―大塚竜治
ホアン・ジー監督プロフィール
1984年、中国湖南省生まれ。北京電影学院の文学科で脚本を学ぶ。大学時代、生まれ故郷である湖南省で撮影したドキュメンタリー『Underground』で監督デビュー。2010年に、短編『The Warmth of Orange Peel』の脚本・監督を務め、ベルリン国際映画祭に出品する。2012年、初長編『卵と石』でロッテルダム国際映画祭でグランプリを受賞し、2013年にはアンドレイ・タルコフスキー国際映画祭グランプリを受賞した。2017年、大塚竜治と共同監督した長編第2作『フーリッシュ・バード』が、ベルリン国際映画祭でジェネレーション14+部門で、国際審査員のスペシャルメンション(準グランプリ)を獲得。2022年の最新長編第3作『石門』はベネチア国際映画祭ベニス・デイズ部門でワールドプレミアを行った。近年では、若手の映像作家を育成のためにワークショップの開設や脚本指導などを行なっており、2023年の山形ドキュメンタリー道場5にメンターとして参加した。
大塚竜治監督プロフィール
1972年、東京生まれ。 日本のテレビ番組でドキュメンタリー制作に従事した後、2005年に中国に移住。社会問題をテーマにしたインディペンデント映画を制作する。ホアン・ジー監督の全作品、リウ・ジエ監督『再生の朝に-ある裁判官の選択-』(2009)、イン・リャン監督『自由行(A Family Tour)』(2018)などの撮影監督も務めた。2013年、ホアン・ジーと共同監督したドキュメンタリー作品『Trace』が香港国際映画祭でプレミア上映された。翌年には、初の単独監督作品『Beijing Ants』(2014)がHot Docsで発表される。2015年、ベルリン国際映画祭(Berlinale Talents)に参加し、本作と2022年の『石門』を共同監督とプロデュースした。アジア5カ国からスタッフを集め、国境を超えた映画づくりを目指している。
アップリンク吉祥寺 ほか全国劇場にて公開
主演:ヤオ・ホングイ
監督・脚本:ホアン・ジー 大塚竜治
編集:リャオ・チンソン(『悲情城市』、『黒衣の刺客』)、大塚竜治
音楽:リン・チアン(『憂鬱な楽園』、『長江哀歌』)
2017|中国|中国語|スクリーンサイズ:シネスコ|1時間57分
©YELLOW-GREEN PI・COOLIE FILMS