『ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男』操作戦略に対する疑念を抱かせ誘惑に対抗する映画

『ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男』操作戦略に対する疑念を抱かせ誘惑に対抗する映画

2025-04-11 20:00:00

『ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男』本作はドキュメンタリーではなくフィクションとしての体制をとっているが、1933年ヒトラーのドイツの首相就任から1945年に亡くなるまでの、ゲッベルスとヒトラー、二人をとても近い距離感で描く作品だ。

徹底的にヒトラーとゲッベルスの残された映像を研究し、公での演説や発言は残された記録を忠実に再現し、映像が残されていない二人の緊密な距離感での会話は、残された資料からプライベートな会話ではこう喋っていただろうと再現される。

監督のヨアヒム・A・ラングはこう言う「私は常に、何がフィクションで、何が歴史映画のドキュメントなのかを明確にします。いくつかの映画と違って、ニュース映画は現実としてではなく、演出として見せる」。
本作品で挟み込まれる実写の映像は、ゲッベルスが作り出したプロパガンダ=演出として表現されるのだ。

そして演じる俳優は、「私たちの映画の俳優たちは模倣するのではなく、解釈します。表面を描くのではなく、本質を捉えようとするのです」。

その本質を捉えた俳優によって演じられたゲッベルスは驚くほど人間くさく、企業で言えば最初は中間管理職でのちに幹部に抜擢されるが、あくまで本作の邦題のように「ヒトラーをプロデュースする男」ではなく、ヒトラーに仕え、彼が望むことを忖度して仕事を忠実にこなす男として描かれる。

さて、レニ・リーフェンシュタールの映画や、ゲッベルスが演出するラジオ、そしてマスゲームのような大袈裟なイベントなどにより人々を洗脳していく様は、当然現在のSNSやテレビにより世論を形成していくこととなぞらえて批評的に見えてくる。

そして怖いのは、現在のゲッベルス=世論を操作するものは、一人ではなく、何人もいることだろう。
しかも厄介なことにヒトラーのような大きな悪という主義主張や思想がなくとも、バズらせるのが面白い、さらにアクセスを稼げば収益化につながるという金儲けのためにゲッベルスになる人間が出現しているところだ。そのうえ、テクノロジーが進み、ディープフェイクにより、事実と違うイメージを作り出すことができる時代になった。

SNS時代では、誰もがゲッベルスになれるのだ。

本作のプロダクションノートにはこう書かれている。
「この映画は、見る者にイメージの力に対する根本的な警戒心を強めさせ、操作戦略に対する疑念を抱かせる。誘惑に対抗する映画なのだ」(TA)

 

イントロダクション

ヒトラーの腹心として、プロパガンダ政策を担ったゲッベルスは、演説、ラジオ、映画などメディアを通して国民感情を煽り、操り、ヒトラー政権を拡大させた。本作は、入念なリサーチに基づきゲッベルスの驚きの発言や行動、ヒトラーやナチ幹部たちの恐るべき会話など、裏側の実態を描き出し、その半生と戦略を暴き出す。
本作が2024年ミュンヘン映画祭で観客賞を受賞し評価されたのは、ゲッベルスの手法が現在も広がり続けているからに他ならない。ウクライナやガザにおける戦争、ポピュリズムや極右台頭の背後で喧伝される言葉や映像、量産されるフェイクニュース。インターネット全盛の現代社会で我々がどのようにウソを見抜き、真実を見極めることができるのか。これは現代社会への警告である。

ストーリー

1933年のヒトラー首相就任から1945年にヒトラーが亡くなるまでの間、プロパガンダを主導する宣伝大臣として、国民を扇動してきたヨーゼフ・ゲッベルス。当初は平和を強調していたが、ユダヤ人の一掃と侵略戦争へと突き進むヒトラーから激しく批判され、ゲッベルスは信頼を失う。愛人との関係も断ち切られ、自身の地位を回復させるため、ヒトラーが望む反ユダヤ映画の製作、大衆を扇動する演説、綿密に計画された戦勝パレードを次々と企画し、国民の熱狂とヒトラーからの信頼を再び勝ち取るゲッベルス。独ソ戦でヒトラーの戦争は本格化し、ユダヤ人大量虐殺はピークに達する。スターリングラード敗戦後、ゲッベルスは国民の戦争参加をあおる“総力戦演説”を行う。しかし、状況がますます絶望的になっていく中、ゲッベルスはヒトラーとともに第三帝国のイメージを後世に残す最も過激なプロパガンダを仕掛ける。

 

ヨアヒム・A・ラング監督プロフィール

1959年、ドイツ生まれ。作家、映画監督。ハイデルベルクとシュトゥットガルトの大学でドイツ語と歴史を学ぶ。初期にはドキュメンタリーや長編映画を制作し、テレビ番組やショー、映画の監督を務めた。2013年にドイツテレビ賞受賞作『GEORGE』、2018年には、その年の最も重要なドイツ語映画のひとつである『MACK THE KNIFE - BRECHT'S THREEPENNY FILM』を監督。作品は、独仏ジャーナリズム賞、バイエルンテレビ賞、ユーロヴィジョニ、ドイツテレビ賞、ニューヨーク映画祭世界金賞、ゴールデン・プラハ特別賞など、最も重要な映画賞やテレビ賞を受賞している。

 

 

アップリンク吉祥寺 アップリンク京都 ほか全国劇場にて公開

公式サイト

監督・脚本:ヨアヒム・A・ラング

撮影:クラウス・フックスイェーガー

出演:ロベルト・シュタットローバー(『ある一生』『パリよ、永遠に』『スターリングラード』)、
フリッツ・カール(『モニタリング』『サイレント・マウンテン』)、フランツィスカ・ワイズ

日本語字幕:廣川 芙由美

配給:アットエンタテインメント

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