大塚竜治監督インタビュー:ホアン・ジー監督は『卵と石』で個人の問題から始まり、映画監督として、中国社会の問題を描いてく

大塚竜治監督インタビュー:ホアン・ジー監督は『卵と石』で個人の問題から始まり、映画監督として、中国社会の問題を描いてく

2025-04-13 08:00:00

大塚竜治監督 インタビュー

──『卵と石』『フーリッシュ・バード』『石門』と大塚さんはホアン・ジー監督と中国で映画を作ってこられました。

大塚:『卵と石』は、ホアン・ジー本人は公にしていることですが自身の性被害がの経験を元に監督した作品で、2作目からは、脚本、共同監督として制作してきました。

── 2012年に製作した『卵と石』から5年ごとに、ヤオ・ホングイが主演で撮影するという彼女の成長と同時に、映画も中国の片田舎から、舞台が都会へと移り、家族や個人的な問題が作品ごとに社会的な問題が絡んでくる物語になっていますね。『卵と石』の女性の目線で下着を写すアングル、あれは男性の自分としては見た経験のないアングルでした。

大塚:カメラアングルは基本は自分が決めているのですが、あのショットは、彼女が小さいカメラで撮った写真が元になっていて、そのショットが映画の基本になると思いました。ホアン・ジーにとって『卵と石』はとても個人的な作品ではありますが、映画が公開され、映画を見た女性の観客が上映後、ホアン・ジーの元に来て、「私も同じような経験をした」と打ち明けました。そして、「映画を通して語ってくれてありがとう」と、ホアン・ジーの勇気に感謝の言葉を伝える人が多くいました。こうした声は、ホアン・ジーにとって、社会に向けて映画を作り続ける大きな励みになったと思います。

──次の『フーリッシュ・バード』では、大塚さんはホアン・ジー監督と共同脚本・監督で女性の初体験の物語を同じくヤオ・ホングイさんと映画を作り、さらに『石門』では代理出産をテーマにと作り続けますね。

大塚:これは、取材を重ねて生まれてきたものです。『フーリッシュ・バード』では、撮影の舞台となる場所の同年代の女の子たちに質問して取材をして行きました。彼女たちにインタビューを行う際、僕は同席せず、ホアン・ジーが一対一で話を聞く形を取っていました。すると、多くの女性たちが初体験にまつわるつらい思い出や失敗談を語り始める場面がありました。普段は親や友人にも相談できずに抱えている思いを、ホアン・ジーに聞いてほしいとの思いがあったのかもしれません。その様子は、映画『卵と石』の上映後に寄せられた反応と似ています。身近に、こうした苦しい性体験を心の中に秘めて生きている女性たちが、想像以上に多く存在していることを改めて実感しました。『石門』では、妊娠をテーマに話を聞いていると卵子提供という情報があるし、さらに取材すると代理出産の話が出てきて、個人的なことから社会に結びついていくのです。

──どの作品も中国の映画の検閲機関、電影局の審査を通してませんよね。

大塚:実際に検閲を通す場合、事前に脚本の提出を求められるのですが、我々の撮影方法は、その場その場で演者と話しながら作っていくので申請できないのです。

──ところで、映画ではパトカーが出てきますよね。あれは本当の公用車なのですか。
大塚:本物です。地方の撮影では、一応その地域の町役所のお偉いさんのところには挨拶には行き撮影許可を取りました。その際にお願いしてパトカーと制服を借りました。

──中国国内で公開されない映画に国内で協力してくれる機材屋さんとかいるのですね。

大塚:はい、国内の機材屋さんは、世界にもアピールしたい気持ちがある。個人の出資者も中国にいます.自分たちの映画は、予算もそんなに大きくないので。

──次回作の制作費は数千万円単位ですか。

大塚:もう少し大きいかな、億に届くかなというところです。

──えっ、それは日本だと、自主制作のインディーズではないですね。出資者はリターンを望まないのですか。

大塚:機材屋さんはキャッシュというより現物支給ですね。出資者は、もちろんリターンは望みます。ただ商業映画と同じようなリターンは望めません。よって、こうした作品を応援したいとかもっと世に出るサポートをしたいと支持してくださる方が多いです。

──キャストは。

大塚:一人プロの方でベテランの域に入る30代後半の女優さんで、個人事務所で次のステップとして海外に出たいという気持ちがありました。俳優たちもわかっていて、中国の娯楽作品に出るばかりでなく、芸術性の高い映画に出たい気持ちがある。それに国内では競争が激しいので海外で評価されたいという気持ちがある人もいます。

──『石門』は、2023年の台湾での金馬奨最優秀作品賞を受賞しました。2024年の金馬奨がロウ・イエ監督の『未完成の映画』でした。『未完成の映画』の国籍はシンガポールとドイツ、『石門』は日本が国籍なのですよね。なので、2作品とも中国を舞台にしているけど、国籍は中国ではないですね。

大塚:金馬奨ににノミネートするのは、出品者が決めるのです。中国の作品では自粛している出品していない作品も多くあります。『石門』は、作品賞、監督賞にはノミネートしましたが、主演女優賞にはノミネートしませんでした。

── 次回作もヤオ・ホングイが出演するのですか。

大塚:彼女は出演しません。『卵と石』の舞台となった村が、ダム建設によって水没してしまうという背景をもとに、物語を準備しています。

 

『卵と石』上映後トークショー

大塚竜治監督による上映後トークショーの様子をご紹介します。

『卵と石』2025年4月6日(日)@アップリンク吉祥寺

 

『フーリッシュ・バード』2025年4月12日(土)@アップリンク吉祥寺

 

ホアン・ジー監督コメント

私の母は、『卵と石』と『フーリッシュ・バード』を鑑賞した時に、彼女は初めて私が中学と高校でどんな困難に直面していたのかを知りました。

そして、母は尋ねました。「どうして私に言わなかったの?」

あなたにも家族や友達に言えない困難がありますか?

もしかしたら『卵と石』や『フーリッシュ・バード』が、あなたと彼らの間にある『石門』を開くかもしれません。

ホアン・ジー監督プロフィール

(脚本、監督)
1984年、中国湖南省生まれ。北京電影学院(2003-2007)の文学科で脚本を学ぶ。大学時代、生まれ故郷である湖南省で撮影したドキュメンタリー『Underground』で監督デビュー。2010年に、短編『The Warmth of Orange Peel』の 脚本・監督を務め、ベルリン国際映画祭に出品する。2022年の最新長編第3作『石門』はベネチア国際映画祭ベニス・デイズ部門でワールドプレミアを行った。近年では、若手の映像作家を育成のためにワークショップの開設や、脚本指導などを行なっており、2023年の山形ドキュメンタリー道場5にメンターとして参加した。 

 

大塚竜治監督プロフィール

(脚本、監督、プロデューサー、撮影監督、編集)
1972年、東京生まれ。 
日本のテレビ番組でドキュメンタリー制作に従事した後、2005年に中国に移住。社会問題をテーマにしたインディペンデント映画を制作する。
ホアン・ジー監督の全作品、リウ・ジエ監督『再生の朝に-ある裁判官の選択-』(2009)、イン・リャン監督『自由行(A Family Tour)』(2018)、ガオ・ミン監督『回南天(Damp Season)』などの撮影監督も務めた。
2013年、ホアン・ジーと共同監督したドキュメンタリー作品『Trace』が香港国際映画祭でプレミア上映された。翌年には、初の単独監督作品『Beijing Ants』(2014)が Hot Docsで発表される。2015年、ベルリン国際映画祭(Berlinale Talents)に参加し、2017年の『フーリッシュ・バード』と2022年の『石門』を共同監督とプロデュースした。アジア5カ国からスタッフを集め、国境を超えた映画づくりを目指している。
2023年の山形ドキュメンタリー道場5にメンターとして参加した。 

アップリンク吉祥寺 ほか全国劇場にて公開

公式サイト 

『卵と石』『フーリッシュ・バード』『石門』

出演:ヤオ・ホングイ

配給:ラビットハウス