『終わりの鳥』〈生〉と〈死〉をめぐる、新たなフェアリーテール。
「怖い」、「死にたくない」、「殺さないで」…。
人の死に際に訪れる、地球のような青い瞳を持った鳥。その〈死〉を司どる鳥が、病気を患い、自宅で看護師や母からつきっきりの看病を受ける15歳の少女、チューズデーの元にやってくる。
得体の知れないその鳥の出現に彼女は、自分に〈死〉が訪れたことを直観する。「殺す前に、せめてお母さんに電話をかけさせて。」と、落ち着いた様子で〈鳥〉に言う。死を前に、そんなそぶりができる人は〈鳥〉にとって珍しいことだった。「言葉を喋ったのは久しぶりだ」。〈鳥〉とチューズデーとのあいだに、不思議な交流が生まれていく。
やがて母が帰宅し、〈死〉を告げる〈鳥〉の存在を知る。母に向かって〈鳥〉が言う。「あの子は死ぬ必要がある」。その言葉に母は激情に駆られ、〈鳥〉をまる焦げにし、バリバリと食べてしまう…。
娘を死なせたくない母と〈鳥〉、チューズデー、そして〈死〉。奇想天外なストーリーの中で、いつか〈死〉と結びつくとは到底思えない燃えるような緑と、可憐な花々が、チューズデーの〈生〉と〈死〉を縁どる。
『個人的な経験』(大江健三郎)や『いやしい鳥』(藤野可織)など鳥が登場する小説や、『かいじゅうたちのいるところ』(ジャスパー・ジョーンズ)や『シェイプ・オブ・ウォーター』(ギロルモ・デル・トロ)など恐ろしくも愛おしいクリーチャーとのフェアリーテールがあった。
思いがけない設定の、可笑しく悲しく、暗くて明るい、新たな、そして唯一の物語にまた出会えた。生き物がうごめき、桜は舞い、新緑がきらめきを増すこの時期に、うってつけの作品ではないだろうか(MO)
イントロダクション
アリ・アスターやロバート・エガースといった次世代を牽引する新たな才能を発掘してきたA24が手掛けた『終わりの鳥』。
必ず訪れる自然の摂理でありながら、誰もが見たくないと遠ざけてしまう“死”を、おしゃべりするポップな鳥の姿に視覚化したのは、脚本も担当し、本作が長編監督作品デビューとなる、クロアチア出身のダイナ・O・プスィッチ。
タバコをふかし、ギャングスタ・ラップのリズムを刻むチャーミングなキャラクターを造形する一方で、“死”という観念を奇想天外に創出、その苦悩にも触れるなど奥行きのあるストーリーに仕立てた。
ストーリー
余命わずかな15歳の少女・チューズデーは、自分の身体がそう長く持たないことに気づいていた。
一方、母・ゾラは、看護師ビリーの到着とともに家を出て、カフェや公園で1日を過ごしていた。
そんなある日、チューズデーのもとに、ひとと同寸の大きさになったり、手の中に収まるほど小さくなったりする、変幻自在で言葉をあやつる奇妙な鳥がやってくる。
それは、死期が間近に迫っているものに“終わり”をもたらすため地球を周回する鳥、その名も〈DEATH(デス)〉だった…。
ダイナ・O・プスィッチ監督プロダクションノート
本作のアイデアは、シングルマザーに育てられ、変性疾患で亡くなった友人の死という、10代前半のプスィッチ監督のパーソナルな経験がインスピレーションとなっている。
コメディやファンタジーの軽やかさで“死”を受容していった彼女の体験から生まれたまなざしは、旧ユーゴスラビアでクロアチア人として育った、バルカン半島的な感受性も影響しているという。
「不安定な歴史を持つ地域で育ったので、心の闇に対するユーモアを持ち合わせているんです。悲しみや死に対するカウンターのような、生き残るために生まれたカルチャーのようなものですね」と監督は言う。「映画を作るのも、子どもを持つのも同様に、人間が努力する大きなモチベーションのひとつは、死後の世界に自身を投影することだと思う。だからこそ、人間は死んだ後に何が起こるのかというアイデアに囚われているんです。死は大きな不安を生み出すものですから」と彼女は続ける。
本作で、「不安がることはない」と〈デス〉は私たちに語りかけている。監督はこう締めくくる。「生と死は明るさと暗さと同じで、どちらか一方がなければもう一方が存在することができない関係。限りのあることによって、生命には価値が与えられています。人生で一度きりの特別な瞬間は、憂鬱で悲劇的だけれど、同時に、美しさ、力強さ、価値を与えてくれるものなのです」。
ダイナ・O・プスィッチ監督プロフィール
1985年生まれ。クロアチア出身の脚本家、監督。ザグレブ演劇芸術アカデミーで映画、およびテレビの監督術を学び、イギリスに移りロンドン映画学校で学ぶ。2013年、30歳以下のクロアチア人の最優秀映画 監督に贈られるエレナ・ライコヴィッチ賞を受賞し、これがきっかけで初めてプロとして短編映画『Zvjerka (英題:The Beast)』を制作。この作品は2014年にNISI MASA European Short Pitch(ヨーロッパ短編映画祭)に選出され、受賞した。また2015年にテルライド映画祭でプレミア上映された。彼女の次の プロジェクトであるコメディ短編『Rhonna & Donna(原題)』(16)は、300を超える応募作品の中からクリエイティヴ・イングランドに選ばれ、Big TalkおよびBaby Cowと共同で“ファニーガール・イニシアチブ”の一環として制作された。この映画はフリッカーズのロードアイランド映画祭で世界初公開され、その後、テルライドやエステティカ短編映画祭を含む複数の映画祭で上映、第1回アステティカ短編映画祭最優秀脚本賞を受賞した。A24とBBCフィルムが製作・出資した本編が長編デビュー作となる。
監督・脚本:ダイナ・O・プスィッチ(初長編監督作品)
出演:ジュリア・ルイス=ドレイファス(「VEEP/ヴィープ」)、ローラ・ペティクルー(『恋人はアンバー』) 原題:TUESDAY/2024 年/英=米/110 分/シネマスコープ/5.1ch/字幕翻訳:佐藤恵子
配給:ハピネットファントム・スタジオ
映倫区分:G
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