『ベイビーガール』この関係を、あなたなら何と名づけるか。
ニコール・キッドマン演じる主人公・ロミーは、物流ロボットの業界でトップを走る企業のCEO。そこへインターン生として来たサミュエルに誘惑され、危うい関係から抜け出せなくなり、みるみると立場が逆転していく・・。
会社のPR動画の撮影で、カメラに向かってロミーが話す。「我々の失敗を待つ者は多いけれど 顔をあげほほ笑み 弱みを見せないこと」。するとすかさず、ロミーのスピーチトレーナーが、「”弱み”とは言わないように 繊細さは美点であり欠点ではない」と指導する。
これは、企業の印象のための指摘だが、つねに強さが求められるCEOとしてのロミーと、ただひとりの女性であるロミーの二つで乖離しているように見える彼女に対しての、何か啓示のようにも聞こえてくる。
二面性というのは表と裏のように異なる次元にある二つのことではなく、相反する二つが同じ表面に同時に存在することだと捉えたい。ロミーは社会的権力者である反面、支配されたいという欲望を抱いている、ということでも、強がっているけれど本当は弱い、ということでもない、と。そうすれば、どちらが本当の自分なのだろうかという苦しみから解き放たれるのではないか。
また、この映画が美しく賢いのは、だれも、彼ら自身も、ロミーとサミュエルの関係を定義しないことだ。”浮気”や”不倫”、”愛”や”恋”という言葉を使わない。「わたしとあなたの関係」や「あなたとわたしがしている事」と、そのままを告げる。
サミュエルはロミーとの関係と同時に若いべつの女性社員ともデートを重ねているが、それを「君のことも好きだし、彼女のことも好きだ」ではなく、「君といる時の僕も好きだし、彼女といる時の自分も好きだ」、という言い方で表現する。
確かにロミーとサミュエルがしていたことは、夫が言うように「裏切り」である。しかし、ロミーが自分を裏切らなかったからこそ、偽り通さなかったからこそ、もしくは通せなかったその先にしか、この自己統一性を求められるこの社会では、”解放”への扉を開くことはできない、ということかもしれない。(MO)
イントロダクション
映画界の最前線を駆け抜けるスタジオA24とオスカー俳優がまさかの企画で手を組んだ。完璧なCEOが若きインターンに欲望を嗅ぎ分けられ、力関係が逆転、次第に深みにはまっていく様をスリリングに描いた “最高に挑発的!”(TIME)な1本が、日本を熱く高ぶらせる。
愛する夫と子供、キャリアと名声、すべてを兼ね備えながらも、満たされない渇きを抱える主人公のロミーを演じるのはニコール・キッドマン。「役者として、人として、すべてをさらけ出した」と告白する圧巻の演技を披露し、ヴェネチア国際映画祭で最優秀女優賞を獲得した。共演は、インターンの立場からCEOを誘惑するサミュエルに、『逆転のトライアングル』のハリス・ディキンソン。
戸惑いと葛藤に激しく揺さぶられながらも、いつしかサミュエルとの刺激的な駆け引きに溺れていくロミー。
ユーモアとロマンティックが交錯する綱渡りの果てに、ロミーは自身のすべてを肯定し、解き放つことができるのか?
ストーリー
ニューヨークでCEOとして、大成功を収めるロミー。
舞台演出家の優しい夫ジェイコブと子供たちと、誰もが憧れる暮らしを送っていた。
ある時、ロミーは一人のインターンから目が離せなくなる。
彼の名はサミュエル、ロミーの中に眠る欲望を見抜き、きわどい挑発を仕掛けてくるのだ。
行き過ぎた駆け引きをやめさせるためにサミュエルに会いに行くが、逆に主導権を握られてしまい…
ハリナ・ライン監督インタビュー
――とても大胆で、勇気があり、オリジナルな映画です。 今のところ、どのような反響、感想を得ていますか?
驚いたことに、かなり温かく受け入れられています。これは意外でした。論議を呼ぶかと思っていたので。とくに、男性には反感を持つ人もいるのではないかと。この物語は男性もちゃんと描いているのですけれどね。
これは女性らしさについてだけではなく、男性らしさについての話でもあるのです。
とにかく、みんな、セクシーで、娯楽性があって、緊張感のある映画として気に入ってくれているようです。もちろん、メッセージもあります。これは会話のきっかけを作る映画です。
――もともとのインスピレーションはどこから来たのでしょうか?
若い頃、私は90年代のセクシーなスリラーが好きだったんです。『危険な情事』とか、『幸福の条件』とか、『ナインハーフ』 とか。私の中には隠された性的なファンタジーがありましたが、若い女性だった私は、そういうものを持つべきではないと思っていました。処女のようであるべきなのだと信じ、性的な妄想を抱くことを恥じていました。ですが、あれらのセクシーなスリラーを見て、別にいけないことではないのだと思い直したのです。ハリウッドが堂々とあのような映画を作っているのだから、良いのだと。私は、自分のような存在が認められているように感じました。
ですが、あれらの映画の結末を、私は決して好きになれませんでした。女性差別的だからです。ファムファタールは罰せられます。あるいは誰かが死ぬ。そういう結末は退屈です。
だから、自分のバージョンで作るにあたり、私は、女性を解放するメタファーのようなものにしようと決めました。女性に 選挙権が与えたのは、最近のこと。私たちはまだ自分たちを見つけようとしています。女性はまだ他人に気に入られなけ ればならないと教え込まれています。女性は、処女、母親、ファムファタールのような型にはめられがちです。私たちの本当の姿は何なのでしょう?
私は、男性の視点で描かれてきた分野に、女性の視点から挑んでみたいと思いました。90年代の作品群は、全部男性の視点で作られたものです。それらの映画も私は好きですが、「はい、これが私のバージョンよ」というのをやってみたかった のです。私のバージョンには、もっと人間らしさがあります。ユーモアもあります。すべてのキャラクターは複雑で、野心的で、ダークです。私はそういうことをやろうとしたのです。
ハリナ・ライン監督プロフィール
1975年、オランダ生まれ。ヴィジョナリーな監督、プロデューサー、俳優、脚本家であり、限界を押し広げる破壊的で挑発的な物語を創り出す才能で知られている。監督デビュー作『Instinct(原題)』(19)は、ロカルノ国際映画祭でプレミア上映され、ヨーロッパ映画賞最優秀新人賞にノミネートされ、アカデミー賞®最優秀国際長編映画賞へのオランダ代表作品となる。続くA24製作の『BODIES BODIES BODIES/ボディーズ・ボディーズ・ボディーズ』(22)はSXSWでワールドプレミア上映され、フィルム・インディペンデント・スピリット賞最優秀監督賞にノミネートされる。俳優としては、ポール・ヴァーホーヴェン監督の『ブラックブック』(06)、トム・クルーズと共演した『ワルキューレ』(08)に出演している。
アップリンク吉祥寺 ほか全国劇場にて公開
監督/脚本:ハリナ・ライン
キャスト:ニコール・キッドマン、ハリス・ディキンソン、アントニオ・バンデラス、ソフィー・ワイルド
配給:ハピネットファントム・スタジオ
原題:Babygirl
2024年|アメリカ|ビスタ|5.1ch|114分|PG12|字幕翻訳:松浦美奈
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