『初級演技レッスン』あの過去をもう一度経験するための"演技レッスン"―。

『初級演技レッスン』あの過去をもう一度経験するための"演技レッスン"―。

2025-03-17 08:00:00

『初級演技レッスン』というタイトルからも、そして全身黒ずくめで長髪という主人公の変わった風貌からも、まさかこんなにも切なく、やわらかな時間に包まれたような気持ちになるとは、少しも予想できなかった。

厳しい演出家の父をもち、俳優を目指していた主人公・澄島誠が、ある日から蝶野穂積と名乗り、とある川沿いの街にある空き倉庫を借り演技指導の教室を開く、というあらすじだ。

主人公が自分につけた偽名、蝶野は、中国生まれの思想家である荘子の「胡蝶の夢」に由来している。「胡蝶の夢」は、チョウとしてひらひらと飛んでいる夢から目が覚めたが、自分がチョウになった夢をみていたのか、それとも夢でみたチョウこそが本当の自分の姿であって、今の自分はチョウが見ている夢なのか判らなくなる、という有名な説話である。

蝶野の教室に出会った高校教師と男子生徒はそれぞれ、怪しげな場所だと思いつつも、演技教室「初級演技レッスン」に足を踏み入れ、指導を受けていく。そして次第に、演技を超えた何かとても大切なものを体験していく。

夢の時間と同じように、演技をしている時間も、きっとただのフェイクではない。それは現実と密接に関係していて、ときに現実よりも信じられる瞬間がある。

”演技レッスン”とは、過ぎ去った出来事、そして叶うことのなかった出来事を、もう一度経験するための手法なのだ。今ここでの現実を、より良く越えていくために。(MO)

イントロダクション

初長編映画『写真の女』(20)で世界の国際映画祭で40冠を達成し、鮮烈なデビューを果たした串田壮史監督の最新作、『初級演技レッスン』。

主演は、『ケンとカズ』(11)で観る者に激烈な印象を植え付け、以降、話題作への出演が続き、2023年、24年と2年連続で大河ドラマに出演した毎熊克哉。

明解な物語展開をする中で、独創的な映像美と自由で大胆な映像表現が織り交ぜられた本作は、観る者をめくるめく不思議な作品世界へと引き込み、邦画・洋画問わず、これまで感じたことのない映画体験を誘発する。

“若手映像クリエイターの登竜門”SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024のオープニング作品として上映され、大きな反響を呼んだ。

ストーリー

父を亡くした子役俳優の一晟(いっせい)は、ある日学校の帰り道に「初級演技レッスン」と書かれた看板を掲げられた古工場を目にする。

恐る恐る中に入ると全身黒ずくめのミステリアスな演技講師・蝶野と出会う。一晟は蝶野の導くままに、その場で即興演技を実演すると、不思議な体験をするのだった。

一方、一晟が通う学校の担任教師・千歌子は、学校で「演劇教育の必須科目化」の是非を迫られていた中、いざなわれるように「初級演技レッスン」の門戸をたたく。

千歌子もまた蝶野との出会いによって、想像だにしていなかった奇妙な体験をするのだった。

串田壮史監督メッセージ

100年前、小説家プルーストは、自分が何者かを知るために見るべきものは、写真ではなく記憶であると言った。

ネットワークが張り巡らされた今、記憶は個人的なものから集合的なものへと変わりつつある。現代人が見る記憶は、果たしてどこまでが自分を知る手掛かりとなるのだろうか?

「初級演技レッスン」は、即興演劇を通じて互いの記憶に侵入する人々が、リアルとフェイクの境界を彷徨いながら、《奇跡》に出会う物語です。

串田壮史監督プロフィール

1982年、大阪生まれ。ピラミッドフィルム所属。長編デビュー作『写真の女』(20)は、世界中の映画祭で40冠を達成し、7カ国でのリリースが決定。同作でSKIPシティアワードを受賞して製作された『マイマザーズアイズ』(23)は、イギリス最大のホラー映画祭・ロンドン フライトフェストで《Jホラー第3波の幕開け》と評され、世界に向けて配給が行われている。

アップリンク京都 ほか全国劇場にて公開

公式サイト

監督・脚本・編集:串田壮史

出演:毎熊克哉、大西礼芳、岩田奏、鯉沼トキ、森啓一朗、柾賢志、永井秀樹、石井そら、中村天音、大滝樹、村田凪、高見澤咲

制作プロダクション:Ippo、デジタルSKIPステーション

製作:埼玉県、SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ 

配給:インターフィルム

2024年/日本/90分/カラー/5.1ch/ビスタサイズ/G