『犬と戦争ウクライナで私が見たこと』公開記念トークイベント 山田あかね監督、上野千鶴子さん
2022年2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻。戦争による惨劇が日々報道される中、ドキュメンタリー映像作家の山田あかねは、その現実を自分の目で確かめるため、侵攻から約1ヶ月後にウクライナへと向かった。
2月23日(日) 13:40の回上映後@アップリンク吉祥寺で上映後トークイベントが行われた。
登壇者:山田あかね監督、上野千鶴子さん
上野
今日は、大画面でもう一度見たいと思ってここに来ました。見終わった後、拍手しようと思ったので、もう一度、山田監督に拍手を送りましょう。周囲には泣いている人もいました。よくこの映画を作ってくださいました。ウクライナでもガザでも戦争が続いていますし、見終わった後は本当に切なくなりますね。
山田
今日が2月23日ですが、ちょうど明日2月24日で3年が経ちます。2022年の4月に行ったときには、ウクライナの人たちはこんなに続くと思っていない感じで、みんな勝てると思っていたんです。それが、あっという間に3年が経ちました。毎年行く度に、皆さんが疲れていって気力がなくなっていくのを感じました。
上野
あっという間の3年だけど、その場にいる人にとっては本当に耐えられない長さでしょうね。
山田
最初の頃に行くと「勝てる」と思っていた元気のいい人たちが、会うたびに口数が少なくなっていきました。ウクライナでは、基本的に18歳から60歳までの男性は国外に出られないことになっていますが、3年も経つと、例えば、社会的に力がある人や経済力のある人、外国語を話せる人たちは徴兵を逃れて海外に出ていくんですよね。
上野
600 万人が徴兵を忌避していると聞きました。
山田
だから、残っている方や徴兵されてしまう人は、どうしてもお金がないとか英語ができないとか、社会的弱者が軍隊に入ることになっているので、そういう時こそ如実に格差というものを間近に見た気がしました。
上野
そもそも戦争ってジェンダー格差をものすごくクリアにしますから。国外に出られるのは、女性と子どもだけ。そして男たちは戦場へ送られ、戦場から帰ってきた兵士たちもPTSDになって苦しみます。本編を観た方は気になっていると思いますが、(元イギリス兵でPTSDに苦しんだ)トムさんはその後どうなってますか?
山田
最後に連絡を取った時はガザにいたんです。だいたい1週間に1回くらい連絡を取っているんですが、突然連絡がこなくなることがあるので、そうなるとどこにいるかわからなくなるんです。だから今は本当にどこにいるかわからないです。まだガザにいるか、もしかしたら、ガザの和平が少し進んだので出られたのかもしれないですが。彼は元々軍人なので、そのような情報はあまり広まってしまうとトラブルにもなるので、終わってからではないと教えてくれないんです。
上野
どこにいるかは機密情報なのね。
山田
元イギリス軍なので、アメリカ軍やウクライナ軍と近しいところにいらっしゃるから自由に動けるということでもあると思うんですけど。なので、安全がわからない限り教えてもらえないんです。
上野
トムさんのように戦場から帰ってPTSDになった兵士が救われたのは犬なんですね。今は犬を救うことが彼の生きる理由になった。なんか本当にグッときて、彼の気持ちがわかります。
山田
私も、トムからその話を聞いた時に「絶対この人をもっと撮ろう」と思ったんです。最初に彼を知ったのは2023年6月のウクライナでした。本編にも出てきますが、犬たちが大変な目に遭っているボロディアンカのシェルターで、彼が助けに来てくれたと聞きました。その時は名前と所属しかわからなかったので、日本に戻ってから調べました。そして、「この人に絶対に会いたい」と思って、9月に別の仕事でイギリスに行くことがあったので、無理やり探して、時間取ってもらって会いました。そこで「次にウクライナに行くときは、必ずあなたを訪ねて、あなたが前線で動物を救うところを撮らせて欲しい」と交渉しました。そしたら、「いいけど、死ぬかもよ」と言われたけど、「大丈夫です」と答えました。その後、ヘルメットなどを用意して会いに行ったんですけど、結果は映画のようになりました。
上野
山田さんが何度も現地に行っていることは知っていましたが、3回行って、そのつど想定外の信じられない出会いがあって。(犬のシェルターで放置されて犬が大量死した)ボロディアンカも行くまで知らなかったんですよね。イギリスの犬のレスキュー団体にトムさんという人がいることも行くまで知らなかったんですよね。危険な取材だから、行く前に遺書を書いてから行ったと。本編にチラリと出てきましたけど、同行したカメラマンの方のご遺族に全財産を渡す、と書いてありました。
山田
それはもちろん、一緒に行っていただいて、何かあった時のためです。保険制度では、戦争で被害に遭った者に対してはフォローされないんですよね。日本にいる時に何度も保険会社に聞いた時は、どこの会社も「何を冗談のようなことを言っているんですか」という感じで返されましたけど。
上野
わざわざ自分で好き好んで危険なところに行くんですものね。たしかに、保険の約款には載ってないです。
山田
そうなんです。でもやっぱり自分が撮影をしたいという思いに応えてくれる人に対して責任があるので、私ができる最大限のことはそれぐらいしかないと。何かあった時にそんなことで償えるとは思ってないですが、一応作りました。
上野
そこまでの覚悟で行ってこられたということがわかりました。
トムさんの団体の名前が「Braking the Chains」だと聞いて、犬って鎖に繋がれている生き物なんだと改めて気づきました。猫は繋がれていないですもんね。
山田
被災地とか、戦争とかがあった時に、比較的猫の方が生き延びやすいんですよね。自由に走り回って野生化が早いんです。犬は人間を待ってしまうんです。愛されていた犬ほど、飼い主を待つんです。
上野
本当にそう思いました。これが「犬と戦争」ではなく「猫と戦争」だったらどうなるかなと。“忠犬ハチ公”はいるけど、“忠猫ニャン公”っていないじゃないですか。
山田
猫の方がわりと早く見切りをつけるんですよね。2011年東日本大震災で20km圏内に入って取材した時に、猫の方が人間と離れた後も生き延びる確率が高いと感じました。野良猫ももちろん大変ではありますが、比較的強いです。飼われていた、愛されていた犬ほど、人を信じて待つんです。
上野
引っ越した元の住所に置いてきても、遠く離れた先まで追いかけてきたりね。
今日会場に来たみなさんは、犬派ですか?猫派ですか?
山田
犬、少ないですね。
上野
東京だもんね。犬を飼いたくても飼えないですよ。飼おうと思っても猫くらいだよね。
山田
不動産が厳しいところが多いので、東京で犬はなかなか飼えないですよね。
上野
私も犬を飼いたいと思いながら、この歳になったら、保護犬を扱っている団体からも許可が下りないです。後期高齢者なので。
山田
イギリスとか台湾などの動物保護の進んだ国では、何歳であっても保護犬・保護猫をもらえるという仕組みが整ってますが、日本は年齢で切られてしまうんですよね。
上野
それは、飼い主が死んだ後、残された犬や猫のお世話をする保証ができているからなんですか?
山田
動物の保護団体からの寄付などが集まっているので、たとえ90歳のおばあちゃんが今日猫を飼いたいと言った時に、条件が合えば許可が下ります。その代わり、団体のスタッフが飼い主のところに定期的にケアをしに行きます。動物病院に連れて行かなくてはいけない時は、一緒について行ったりします。そういった仕組みがものすごく整っているんですよね。
上野
なんでそれは日本でできないの?資金力とか人材の問題ですか?
山田
一つは資金力だと思います。ただ、今そういうことをやろうとしている団体も少し増えてきています。高齢者にとって動物と暮らすことって良いことですよね。
上野
動物は人間を差別しないですから。収入や職業や美醜や体型や障害などで、いっさい差別しません。
山田
本当に、人と話すのちょっと嫌だなと思っても、猫をひと触りすれば落ち着くということもあると思うので、本当は一人暮らしの高齢者ほど、身近に小さな動物がいることは良いことだと、しみじみ思っているんですけど。今の日本の体制だとなかなか厳しいですね。
上野
私は、引きこもりの子どもを持っている親には、「動物を飼いなさい」と勧めています。私は引きこもりではなかったけど、お友達のいない孤独な少女時代を過ごした自身の経験からすると、私を外に連れ出したのは犬の散歩でした。犬のおかげでどんなに色んな所に行ったか。藪の中も林の中もためらわずに。
山田
上野さんも犬好きですもんね。
上野
そうなんです、犬が大好きで。でも時々思うんです。「犬が欲しいな」と思うことってエゴイズムじゃないかと。
山田
うーん…ちゃんと世話をできて責任を持てるのであれば良いのでは。でも、自分がやりたいことって、どんなことでも言ってしまえばエゴイズムですから。
上野
そう言ってしまえばね。自分に全幅の信頼を置いてくれる生き物をそばに置いておきたいって、やっぱり人間のエゴイズムですよね。
山田
元旭山動物園の初代園長で、獣医師さんでもある小菅正夫さんがおっしゃるには、犬や猫は国家とかができる前、大体1万5000年前頃から人間のそばにいたと。
上野
コンパニオンアニマルですね。
山田
そうです。たとえば、馬とかは移動に使うし、牛や豚は食べたかもしれない。犬は、番犬や羊を集めることなどで役に立つとはいえ、全員が羊飼いではないし番犬が必要ではないにもかかわらず、世界中のあらゆる地域で飼われていますよね。猫も、ネズミを獲ると言われていますが、ほぼ役には立たないですよね。
上野
そうね、猫の手って、何の役にも立たないですよね。“猫の手も借りたい”とは、役に立たない手でも欲しいくらい大変だという意味ですから。
山田
そうですよね。これほど、“コスパ”とか“タイパ”とか役に立つことが好きな人間が、なんでこれほど役立たない犬や猫を何万年もそばに置いてきたのか。その小菅さんがおっしゃるには、小さな動物をそばに置くことは人類の精神を安定させたと。もしその小さな生き物がいなければ、人類は精神的な破綻を迎えて、もっと早く滅んでいたに違いないとまで言っているんです。でも確かに、ウクライナに行って、戦争なのに犬や猫をもらうのって大変になるんじゃないかと思っていたんですが、みんなが逆に犬猫愛が上がっているんですよ。
上野
それは映画を見てわかりました。水害にあったお婆さんに生きる理由を与えたのは犬や猫でした。犬猫って役に立たないしお礼や感謝も返ってこない、そういう小さい命に対する無償の愛です。そして、その無償の愛に対して、向こうからも無償の愛が返されるんです。そういうのって、人間の世界にはなかなかないですよね。親子の愛だって条件付きだもの。
山田
戦争みたいな心が荒みやすい時ほど、何も役に立たない、ご飯があって太陽の光があったらそれだけで幸せだと言って走り回るようなものがそばにいることが、実は人の支えになるということを、現地に行ってすごく感じました。
上野
ほんとにそうですね。犬のシェルターのボロディアンカについて少し聞きたいんですが、所長さんが解雇されたとか。雇っていたのは誰なんですか。
山田
あれは公営シェルターなので、ウクライナの環境省とかそういうところですね。公務員なんです。
上野
国がお金を出して、400ヘクタールのシェルターを設置して、500匹近くの犬を世話してたんですか。日本にそんな公営シェルターはありますか?
山田
日本の場合は、動物愛護センターという名前の施設が各都道府県にあります。それは、最初の動物愛護法によって、狂犬病が広まらないために殺すために始められたものです。今は、処分から譲渡へと目的が変わってきているとは言えます。それをシェルターのようだと言えば公営のものはありますが、助けることを専門にした公営の施設は、特にないです。
上野
各地で一生懸命頑張っているのは民間の人たちですよね。それで、山田さんは飼い主のいない犬や猫の医療費を支援する基金を作られたそうですね。
山田
はい。3年ほど前から「ハナコプロジェクト」という基金をやっております。
上野
活動と表現が一致しています。
山田
犬猫の取材で撮影していると、そこで困っている犬や猫や、お金がなくて困っている人を見るんです。それを撮影させてもらって番組にしたら、私は仕事なのでお金をもらえるんですよ。でも彼らは、番組で名前が出て寄付が増えることもあるかもしれないですが、私は彼らからなにか取っている気がして。なにか返さなきゃといつも思っていたんです。
上野
この映画を見ると、日本の被災地のことを思い出します。ペットって家族じゃないですか。私は、自分の研究で「ファミリーアイデンティティ」という調査をしたことがあります。ペットを家族だと考えている人がいるということを実証研究で明らかにして論文に書きました。山田昌弘さんたちがペットも家族だと書いた教科書を執筆したら、その教科書が検定不合格になりました。文科省はペットを家族だとは認めないんです。ひどいと思いませんか?
山田
そうなんですね。だから、避難所などに動物を入れることがすごく難しいのはそういうこともあるんですね。
上野
当事者の気持ちにしてみれば、ペットは家族同然です。私は鳥とか犬とか色々飼いましたが、ペットを亡くした時は親が死んだ時よりも泣きました。親が死んだ時は一晩くらいでしたけど、ペットの時は三日三晩泣き続けましたよ。泣きはらした顔で外に出られないので、どうしてペットの死には忌引きがないんだろうと思いました。
山田
こういう作品を作っているときに思うのが、もし自分だったらどうなるかって考えるんです。例えば東京が何らかの形で被災地になり、避難バスがやってきて、「避難をしてもらわないと困るのでバスに乗ってください。でもあなたの犬は大きいのでバスに乗せられません」と言われたとします。でも、置いていけるかと言ったら、置いていけないです。「私は乗らないです」と言うことになります。それって、私も辛いですが、バスの方にとっても、その理由で私が死ぬかもしれないということを突きつけることになりますよね。人間に、そのような過酷な選択を迫ることがあっていいわけないじゃないですか。もちろんアレルギーとか色んな問題はあると思いますが、動物と離れられない人がそのせいで痛ましい思いになり、行政の方でも、それができないせいで申し訳ないと言って傷ついている人たちもいるんです。そんな過酷な選択を人間に迫るようなことがあってはならないと私は常々思います。
上野
そうですよね。子どもが障害児だと避難所に連れて行けないから半壊の家に残ったとか、ペットの世話をしたいから残ったという人がいるみたいです。動かせない家族がいたら、それはそうなりますよね。この映画を見て一番強く思ったのが、「どうして日本ではペットを連れて避難ができないんだろう」ということです。
山田
ヨーロッパでは、避難民の方々が大型犬を連れているのが当たり前なんですよね。「こんな大きな犬も一緒に逃げてきたんですね」と聞くと、「はい。何でそんなこと聞くんですか」という感じで不思議がられるんです。ポーランドまで逃げてくるのに電車で30時間くらいかかったりするんですけど、電車の中に女性と子供だけでみんな気持ちが荒んだりしているとき、犬や猫がいる車両は人気で、子供たちはそこへ行って犬や猫と遊ぶそうです。だから電車に犬猫が乗ってる方が人気だったって言うんです。人間が荒んでいるときってどんよりしちゃうじゃないですか。でも犬猫ってそうでもないから、それが支えになるんです。それは、被災地でも同じだろうと思うので、改善できたら良いなと思います。
上野
ペットも家族ですからね。映画を見ると、「ここではできるのに、どうして私たちのところではできないの?」と強く感じます。
山田
私は最初にこういう犬猫の取材を始めてから12〜3年ほど経ちますが、あの頃から比べたら、殺処分はおよそ18万匹から今は1万匹くらいまで減ったので、そういう意味ではすごく日本も頑張ってるとは思うんです。ただ、被災地とか避難所に関しては、少しずつ良くなっているとはいえ、まだ進んでいないと思います。声を上げていくしかないのかなと思っています。
上野
避難所の状況を見ると、なんでもっと人もお金も投入しないのだろうと思うくらい悲惨ですよね。人間にも物資が回らない中で、ましてやペットにという状況です。ガザがまさにそういう状況ですが。ガザでは動物が人間の死体を食べているということは、ショックでした。この映画以外にどんなメディアも報道してくれませんでした。
山田
どうしても、戦争を扱うとなると爆弾が落ちたとかいわゆる派手なところが報道されがちで、シェルターで動物がたくさん死んだとか、実は人間の遺体を動物が食べているみたいな細部は、あまり誰も目を向けてくれないですよね。
上野
統制や忖度があるんでしょうね。最後は、「戦争ってやっぱりやっちゃダメ」というメッセージになっています。
山田
もちろん、戦争反対なのは明らかなんですけど。なんというか、人間にとって野良犬とか野良猫を助けることってほとんど得しないというか、何も褒められないかもしれないしお金ももらえないかもしれないけど、それでもそういうことに命をかける人がいて、その人たちのことを伝えるだけでも、それがある種のレジスタンスではないかと。そういう形での抵抗の仕方もあるのではと思って、映画の最後にもナレーションで入れました。
上野
戦争は弱者が一番被害を受けると言われていますが、私は弱者を人間の間でしか考えてなかった。人間以外にもっと弱者がいて、それはペットだって改めてわかりました。
山田
大きな歴史の中では、ロシアがウクライナに侵攻したということは絶対に残ると思うんですけど、小さな都市で動物が犠牲になったという事はいずれ忘れ去られることだと思うので、せめて私は伝えていこうかなと思いました。
上野
人間のドキュメンタリーはあるけど、動物のドキュメンタリーってなかなかないですよね。
山田
上野さんの最後の授業で、「フェミニズムってなんですか」と質問した時のお答えを、私はずっと覚えているんです。フェミニズムは女性が男のように強くなって軍隊に入って人を殺せるようになることを目指すのではなくて、女性が女性のまま、弱者のまま、そのまま生きやすい社会を作ることだと。弱者というのは、女性とか高齢者とか子供とか障害者のことで、そういう人たちが強くなろうとしなくてもやっていける社会を作ることを目指すんだとおっしゃっていました。動物って、一番の社会的弱者だと思っていて、戦争みたいな時は真っ先に犠牲になってしまう。
上野
なるほど、動物って社会の一員だから、コンパニオンアニマルだもんね。家族の一員でもあるしね。
山田
コンパニオンアニマルじゃなかったとしても、人間が生きていくなかで、牛や豚を食べさせてもらっているし、医療の研究で動物実験もあるだろうし、服も羊からウールもらったりして、すごいお世話になってるじゃないですか。だけど何かあったときには最初に切り捨てる。
上野
そのなかでも人間はコンパニオンとして擬人化した動物は、牛や豚のようには食べないです。犬を食べる文化もあるそうですが、やはりタブーがある。死んだ馬を食べても、死んだ犬は食べません。人間の仲間だと思っているということです。これからは「社内的弱者」の中にペットも入れましょう。
山田
私は、どのような国であってもどのような被害であっても、最初の被害に遭う動物たちがどうなっているのかということを知りたくて撮りました。彼らの死、無念の死を伝えたいと思いました。どんな場所に行っても、現地の方々に「どんどん撮って、どんどん伝えてくれ」と言われました。日本の被災地だと、人間が大変なときに犬猫を撮ってる場合じゃないと言われたことが何度もあります。でも、ウクライナではそんなことを言われたことは一度もありませんでした。こんな遠くまで、たかが犬猫のために来てくれたあなたたちを歓迎すると言って、いつもハグをしてくれてご飯も食べさせてもらいました。私は、彼らは本当に大変だったということを伝えたいと思ってこの映画を作りました。
INTRODUCTION
2022年2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻。これまでに数々の作品で犬や猫の命をテーマに福島や能登などの被災地への取材を重ねてきたドキュメンタリー映像作家・山田あかねは、〈戦場にいる犬たちの現実を伝えなければ〉という覚悟のもと、侵攻から約1ヶ月後、戦禍のウクライナでカメラを回す。そして、ある衝撃的な事件を知ることになる。「戦場にいる犬たちに、何が起きたのか?」─ その真相を探るため、3年にわたりウクライナへ通うことになった。ナレーションは俳優の東出昌大。猟師として日々命の現場に立つ東出の言葉は、私たちに現実を突きつける。
犬たちを取材する中で見えてきたのは、戦争に翻弄される人々の姿、そして様々な立場から語られる平和への願いだった。本作は、戦禍のウクライナで《戦うこと》ではなく、《救うこと》を選んだ人々による希望の物語である。
『犬と戦争 ウクライナで私が見たこと』(2025年/109分/G/日本)
アップリンク吉祥寺 ほか全国劇場にて公開
監督・プロデューサー:山田あかね
ナレーション:東出昌大
配給:スターサンズ