『わたし達はおとな』は限りなくリアルな日常を「劇団た組」を主宰する加藤拓哉が描くデビュー作
『わたし達はおとな』は、「劇団た組」を主宰する加藤拓哉がオリジナル脚本で挑んだ初監督作。
名古屋のテレビ局「メ〜テレ」と制作会社「ダブ」が手を組み制作する(not) HEROINE moviesの1本。
ノットヒロインムービーズとは、“へたくそだけど私らしく生きる”、等身大の女性のリアルをつむぐ映画シリーズであり、次世代を担う映画監督と俳優たちを組み合わせ、それぞれの感覚と才能を思う存分発揮できる場を生み出し、輩出するプロジェクトで、何ドンもされない。胸キュンもしない。恋とか愛とか生きるとか自意識とか、考えすぎてこんがらがって。それでももがいて生きている“ヒロイン”になりきれない“ヒロイン”たちの物語だという。
かつて自身の演劇について次のように語っていた加藤監督。
「創作活動を通じて表現したいテーマは毎回違うんですけど、結局絡んでくるのは男女のことが多いのかなあ。恋愛を含む、いろんな男と女についてですね。と言うのも、自分の中でコンプレックスなんですよ。男と女についていい想い出がない。ただ、僕は男も女も嫌いなんですけど、人間が好きで」ローチケ演劇宣言
「劇団た組」の演劇は青年団に代表される現代口語演劇の系譜と言われている。加藤監督においては、(not) HEROINE moviesのコンセプトは自身の劇団の演出法と通底するものを感じ、リアルな男女の日常を映画いた作品となったのだろう。
カメラの視点は、二人のアパート生活を覗き見するように演出したという『わたし達はおとな』、映画館で、演出されたリアルな現代の男女の生活を覗き見してはどうだろう。
ストーリー
デザイン学科に通う大学生の優実(木竜麻生)は、臼井(菅野莉央)、池田(清水くるみ)、絵梨(森田想)ら友人たちと旅行をしていた。恋人ができたことはあるがセックスの経験が無い優実と絵梨は、経験談を語る臼井と池田に「いい人、早く見つけたい」と話すと、同じ大学に通う将人(桜田通)とヨリを戻さないのかと尋ねられる。自身も両親に家賃を払ってもらっているくせに優実は、将人のことを親に家賃を払ってもらっている男としてしか認識しておらず、別れたあとにかけてくるアプローチを鬱陶しく思っていた。
ある日、大学の講義を受けていた優実は、別の大学の演劇サークルに入っている知人から公演のチラシを作って欲しいと頼まれ、そのサークルの演出を手掛ける直哉(藤原季節)と出会う。初めはサークル活動との関わりだけだったが、やがて直哉からデートへと誘われる優実。初めて会った時から異性として意識をしていた優実は直哉とのデートを繰り返し、やがて直哉が優実の家へ頻繁に出入りするようになる。
半同棲状態となり、言えないことがつもりつもったある日、優実が具合を悪そうにしていると「学校休めば?」と直哉は心配する。優実は体調の原因に心当たりがありつつも、直哉には言えず、学校へ向かった。一方、直哉はサークルの稽古ではやる気を失っているのか、心ここにあらずで稽古をしていた。稽古後のバイトを終えて帰ってきた直哉に、「怒らないで欲しい」と言いながら使用済みの妊娠検査薬を渡す優実。直哉は表面上の祝福をするが、優実には直哉の祝福が本心であるかどうかは、気にも留めなかった。
「話し合いたい」と口を開く優実。
そしてふたりのクライマックスが、ここから始まるー。
加藤拓也監督 インタビュー
━━演劇と映画の演出の違いは。
私達の生活を非日常で俯瞰して体験する、そんなことがテーマの映画です。演劇は見えているものと観客の脳みそを使って物語を体験していきますが、映画は画に映ってるものがある意味での空間になります。映画の場合は画に映っているものが全てなんです。その空間に普段演劇で使うセリフ感覚を映画に落とし込めないか試行錯誤しています。若い男女の生活を観客がスクリーンを通して覗き見たことで、今度は自分達の生活が省みるということをテーマに撮っていきました。
━━ ロケーションについて
優実の部屋のロケ場所を探している時に、同じ間取りで螺旋階段じゃない部屋もあったのですが、それだと綺麗に撮れてしまうからつまらないなと思って。それで螺旋階段のある部屋にしました。 “覗き見している感”が出せるカメラアングルを色々と試行錯誤し、カメラの役割を覗き見に第三者に寄せて撮ることにもこだわりました。それはつまり、観客がカメラの存在を感じないワークではなく、カメラがある”という意識を持たせた上で第三者の視点を作ったということです。通常は観客にカメラを意識させないように配置しますが、今回は演劇の視点で寄ったり引いたりできるようなイメージです。カメラレンズをどのサイズで撮るかがとても重要になってくる。今回は、あえて詰めたサイズにして、“覗いている感”を出しつつも、優実の心象もしっかりと捉えられるレンズを選びました。
━━脚本とキャスティングについて
人間の一面だけをピックアップするのではなく、毎回いかにグラデーション豊かにキャラクターを描くか”ということを大事にしています。なので台詞に関しても“この人のこういう気持ちを伝えよう”みたいなことは捨てて台本を書いています。時系列においては“優実が幸せなとき”と“優実が苦しいとき”という風に大きく分けたものを交互に繋げて、緊張感を持ったまま観ていただけるような構成にしました。
優実は、彼氏に対しても家族に対しても言いたいことを一回我慢して飲み込んで、自分の中で変換して伝えるようなところがあるんです。そこが木竜さんの気の遣い方と重なりました。ただ、彼女はこれまで感情を出すお芝居が必要とされるフィールドでやっている方と思っていたので、演技の目的設定が僕と違うような気がしていたんです。それで木竜さんと話したら、やはり最初は全く違う解釈をされていました。特に僕は演劇も映像も割と写実的な世界線を大事に作っているところがあるので、彼女にはリハーサルを通してその世界線を理解してもらう必要がありました。きっと木竜さんはすごく不安だったと思いますが、求められていることをキャッチする能力が非常に高い方でした。
彼(藤原季節)には、脚本ができた段階で“どう?”と彼を誘ってみました。季節とは2017年から一緒に演劇をやっているので、僕の現場や作品におけるトーン&マナーみたいなことを十分理解してくれているんです。彼が出演してくれたことで、良い意味で将人のヤバさが際立ったので良かったです。台本では、将人は登場人物の中で最もピュアな存在だったのですが、通くんが演じることによってナルシズムが入ったストーカーみたいなところが補強されました。
季節と、現場ではよくくだらない遊びをしていて、最初は僕らにつられて木竜さんも和やかだったのですが、撮影後半になるにつれて食事が喉を通らなくなりました。
━━演劇をやってきたからこそ生かせたこと
演劇の場合、俳優と観客の間に流れている時間が一緒なので、物語が展開していく中で過去や未来に時間を飛ばしたり、いわゆる見立てだったり、物語と空間をリーディングしていく要素に観客の脳みそがあるのですが、映画やドラマは視聴者との間に流れる時間が全く違うのでそこを考えて作らなければいけない。でも、演劇でセリフが持っている時間をそのまま映画に持ち込むことにしたんです。その結果、写実的な部分は嘘過ぎず、リアル過ぎでもないちょうと良いラインで作れたんじゃないかなと思います。
━━タイトルに込められた思いは
優実と直哉の年齢って、いわゆるヤングアダルトの時期で、大人だけど大人じゃない、その“ヤングアダルトの時期”が『わたし達はおとな』というタイトルになりました。
劇団た組ティザームービー#1
映画『わたし達はおとな』 誰もが共感できる元カレとの嫌な思い出を詰め込んだようなキャラ・直哉。 藤原季節が日本中の元カレを代表した役柄に挑戦![本編映像]
予告編
木竜麻生×藤原季節×桜田通 映画『わたし達はおとな』公開記念舞台挨拶【トークノーカット】6月11日@新宿武蔵野館
6月10日(金)より新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺、6月17日(金)よりアップリンク京都ほか全国順次公開
監督・脚本:加藤拓也
出演:木竜麻生、藤原季節、菅野莉央、清水くるみ、森田想、桜田通、山崎紘菜、片岡礼子、石田ひかり、佐戸井けん太
2022/日本/カラー/109分/ヨーロッパビスタ一部スタンダード/5.1ch
配給:ラビットハウス
©2022「わたし達はおとな」製作委員会