『TATAMI』知っておくと3倍楽しめる本作のバックグラウンド

『TATAMI』知っておくと3倍楽しめる本作のバックグラウンド

2025-02-24 08:00:00

日本の配給会社がつけた『TATAMI』のキャッチコピーは"ポリティカル・スポーツ・エンターテインメント"。

モノクロ作品、イランとイランの出身の監督。バックグラウンドを知らないと難しいのではと思いがちかもしれないが、実際観てみると全くそんなことはなく、何の予備知識もなく観にいっても楽しめる手に汗握るエンタメ作品だ。

とはいえ、知っておくと3倍楽しめる本作のバックグラウンドを箇条書きであげておきます。

映画『TATAMI』は、イランの女子柔道選手とそのコーチが直面する政治的圧力と個人の自由の葛藤を描いた作品です。
この映画がイスラム法に反するとされイランでは上映禁止の作品です。主な要素を以下に説明します。

政府の命令への不服従:
イラン政府は、敵対国イスラエルの選手との対戦を避けるため、コーチに電話で試合の棄権を命じます。これは、イスラム法学者である最高指導者の命令に従うべきというイランの政教一致体制に反する行為として描かれています。主人公のレイラとコーチのマルヤムがこの命令に従わないことは、イスラム法に基づく国家体制への挑戦として解釈されます。

女性の権利と自由の主張:
映画は、イランの女性柔道選手レイラが自由と尊厳のために戦う姿を描いています。これは、イスラム法下での女性の従順さという概念に反します。レイラが国際大会で競技することを望む姿勢自体が、イランの現体制が解釈するイスラム法と対立しています。

女性の競技参加:
厳格なイスラム法の解釈では、女性が公の場でスポーツをすることを制限しています。『TATAMI』では、国際大会での女子柔道の描写自体が問題視される可能性があります。特に、レイラがヒジャブや黒いフードを脱ぎ捨てる場面は、イスラム法に基づく女性の服装規制に反するものとして描かれています。

イスラエルとの対戦:
イランがイスラエルを国家として認めていない状況で、イスラエル選手との対戦を望むことは、イスラム法に基づく国家方針に反します。この対立は、スポーツの場における政治的・宗教的制約を浮き彫りにしています。国外での行動の自由イラン人選手が国外で政府の意向に反する行動をとることは、イスラム法に基づく国家の管理から逸脱する行為とみなされます。映画では、レイラとマルヤムが最終的に故国への「否」を言明する場面があり、これは体制からの解放を希求する女性たちの戦いを象徴しています。

これらの要素は、イランの現体制が解釈するイスラム法と鋭く対立しており、映画全体を通して政治的圧力と個人の自由の葛藤が描かれています。『TATAMI』は、スポーツを通じて国際政治と宗教的抑圧の問題を浮き彫りにし、女性の権利と自由を主張する強力なメッセージを発信しています。

イントロダクション

映画史上初となる、イスラエル出身監督×イラン出身監督による合作。

「スポーツと政治」の問題を鋭く深く問う、ポリティカルスポーツエンターテインメント!

2019年、日本武道館での世界柔道選手権で実際に起こった事件をベースに映画化。

監督は、『SKIN 短編』(18)で第91回アカデミー賞短編実写映画賞を受賞したイスラエル出身のガイ・ナッティヴと、『聖地には蜘蛛が巣を張る』(22/アリ・アッバシ監督)で第75回カンヌ国際映画祭女優賞を受賞し、本作で監督役を演じたザーラ・アミール。

映画史上初めて、イスラエルとイランをルーツに持つ二人が映画で協働し、大きな話題を集めた。撮影は全て秘匿状態で行われ、映画に参加したイラン出身者は全員亡命。当然ながらイランでは、上映不可のままとなっている。

個人と権力の関係を問いかけ、悲惨な争いが続く世界の中で平和への祈りが込められた注目作が、第36回東京国際映画祭での大絶賛を受け、満を持して公開となる。

ストーリー

ジョージアの首都トビリシで開催中の女子世界柔道選手権。

イラン代表のレイラ・ホセイニとコーチのマルヤム・ガンバリは、順調に勝ち進んでいくが、金メダルを目前に、政府から敵対国であるイスラエルとの対戦を避けるため棄権を命じられる。

自分自身と人質に取られた家族にも危険が及ぶ中、怪我を装ってイラン政府に従うか、それとも自由と尊厳のために戦い続けるか。

人生最大の決断を迫られる……。

ガイ・ナッティヴ監督&ザーラ・アミール監督メッセージ

ここ数十年、人々が実際に感じていることとは無関係に、イラン政府は国際的なイベントでイラン人とイスラエル人が対面しないようにあらゆる手段を講じてきた。それでも、私たちは道を見つけた。

イスラエルのテルアビブや、イランのテヘランから二時間の距離にあるジョージアのトビリシで、自由を求めて命をかける勇敢なイラン人アスリートたちの物語を伝えるために、私たちは力を合わせた。イスラエルとイランのアーティストたちは、お互いに兄弟姉妹関係を見出し、芸術、美学、映画を共有する中で、多くの共通点があり、実はとても近い存在であったことに気づいていった。

私たちは、芸術こそが雑音を切り裂く正義の声であると信じている。この映画で語ると決めたのは、システムや政府間の対立によって夢を諦めざるを得なかったり、時には祖国や愛する人の元を去らなければならなかったりした多くのアスリートやアーティストたちの物語だ。最終的には、人々の思いやりや協力が勝利するのだということを世界に示す映画を作ることができたと信じている。

この芸術的で映画的な合作が、盲目的な憎しみや相互破壊の狂乱を超えて、未来を共に築こうとする、アーティストやアスリート、そしてすべての人々への尊敬の印を込めた贈り物となりますように。

――ガイ・ナッティヴ(中央右)&ザーラ・アミール(同左)

ガイ・ナッティヴ監督プロフィール

1973年、イスラエル・テルアビブ生まれ。映画監督、脚本家、プロデューサー。有名企業のコマーシャル作品を手掛けた後、初の長編映画『Strangers(原題)』でエレズ・タドモーと共同監督を務め、世界中の20以上の映画祭で賞を受賞。長編第2作『The Flood(英題)』(10)は、第61回ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門でスペシャル・メンションを授与されるなど、高く評価される。2019年には、アメリカで制作した『SKIN短編』(18)が、第91回アカデミー賞で短編実写賞を受賞し、世界中の300以上の映画祭で上映。アカデミー賞を受賞した2人目のイスラエル人監督として脚光を浴びた。2023年には、ヘレン・ミレンがイスラエル初の女性首相となった政治家のゴルダ・メイアを演じた『Golda(原題)』(23) が、第96回アカデミー賞でメイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされた。本作は、『聖地には蜘蛛が巣を張る』(22)で第75回カンヌ国際映画祭最優秀女優賞を受賞したザーラ・アミールとの共同監督作。現在はロサンゼルスで、パートナーと共に、社会的に意義のあるコンテンツを制作することに焦点を当てた制作会社「ニュー・ネイティヴ・ピクチャーズ」を運営している。

ザーラ・アミール監督プロフィール

1981年、イラン・テヘラン生まれ。女優、映画監督、プロデューサー。大学で演劇芸術を専攻後、人気TVシリーズ『Narges(英題)』(06-07)などで活躍し、国民的女優として成功を収めていたが、第三者による私的なセックステープの流出によってスキャンダルの被害者となり、2008年にイランからフランスへ亡命する。2017年、ロトスコープアニメ映画『TehranTaboo(英題)』が 第70回カンヌ国際映画祭でプレミア上映され、国際的な注目を集める。2018年には『Bride Price vs. Democracy(原題)』の演技で、第6回ニース国際映画祭の最優秀女優賞を受賞。さらに世界49以上の映画祭で上映された鬼才アリ・アッバシ監督の『聖地には蜘蛛が巣を張る』 で主役のジャーナリスト役を演じ、第75回カンヌ国際映画祭女優賞に輝いた。本作では、監督のマルヤム・ガンバリ役を演じながら、共同監督、キャスティング・ディレクターを兼任。2019年には自身の制作会社「アランビック・プロダクション」を設立した。またイギリスの公共放送局BBCのプロデューサー兼監督としても活躍している。2022年にはBBCの「100人の女性」に選ばれた。

アップリンク吉祥寺 ほか全国劇場にて公開

公式サイト

監督:ガイ・ナッティヴ、ザーラ・アミール 

脚本:ガイ・ナッティヴ、エルハム・エルファニ 

出演:アリエンヌ・マンディ、ザーラ・アミール、ジェイミー・レイ・ニューマン、ナディーン・マーシャル

2023年/アメリカ、ジョージア/英語、ペルシア語/103分/モノクロ/1.78:1/5.1CH 

原題:TATAMI 

字幕:間渕康子 

配給:ミモザフィルムズ

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