『ミマン』3つの短編からなる、ソウルの新しいラブストーリー
甘さも、ほろ苦さも、甘酸っぱさもないはずなのに、あたたかい切なさの残る、ソウルの新しいラブストーリー。
かつて恋人同士だったのだろう男女が、またはこれから恋人同士になるのかも知れない二人が、街角で鉢合わせ、それぞれの行き先の途中まで、もしくは少し遠回りをして、歩きながら会話する。雨が降りはじめ、やがて雨が上がる。
3つの短編からなる本作は、制作費の調達のために、1本分の資金が集まったら1つ目を、それを撮り終えたらまた1本分の資金を集めて2つ目を、という形で制作が進められた。しかし2本目の撮影を始めようとした矢先、パンデミックが起こり、野外での撮影許可が下りず、制作は一旦中止になった。そのため、3つの短編すべてが『ミマン』という一つの長編作品として完成するのに約4年かかったという。
結果、4年という月日は、この作品に不可欠だったと思う。街や、役作りではなく絶妙に変化している(昔の恋人に久しぶりに会ったときのような。何かが以前と違うけれど、取り立ててどこが、とは言えない、というような。)俳優たちがなければ、観客であるわたしたちが、ほとんど説明がないままであっても共感できるものになることはなかったのではないだろうか。
「ミマン」という韓国語の同音異義語とその意味が、各パートの冒頭に出てくる。ロメールの“喜劇と格言劇“シリーズのように。「迷妄」、「未忘」、「弥望」...。それぞれの詳しい意味合いは、ぜひ作品を見て知ってほしい。(MO)
イントロダクション
2023年の第24回東京フィルメックスのコンペティション部門に出品され、学生審査員賞を受賞した韓国映画『ミマン』(英題:「MIMANG」)。
映画は3篇によって構成されており、異なる季節と時間軸で、変わりゆく韓国・ソウルの街を散歩したりドライブしたりしながら、3組の男女の移り変わる運命と人生の節目を捉えた作品。
映画のタイトルにもなっている「ミマン」という言葉には複数の意味があり、本作で描かれる3篇の物語は、「ミマン」が持つ異なる意味合いをそれぞれテーマにして紡がれる。
監督は、本作が長編デビューとなる新鋭キム・テヤン監督。第48回トロント国際映画祭ディスカバリー部門でプレミア上映されたことを皮切りに、12もの海外映画祭に出品され好評を得ている。
ストーリー
物語の舞台は現代のソウル。
開発が進み、移り変わる街並みを男女が横断歩道や路地を肩を並べて歩いたり、時には車に乗りながら日常的でありふれた会話を繰り広げる。
最近、自分の身に起こったこと。仕事での出来事。家族のこと。結婚や恋のこと。
本作は、日常の普遍的な尊さと、3組の男女を通じて街と同様に緩やかだが日々変わり続けてしまうことと、決して変わることのないものを、人肌の温かさと共に優しく教えてくれる。
キム・テヤン監督インタビュー
――本作のタイトル「ミマン」という言葉には3つの意味があるということが映画を観るとわかりますが、タイトルの着想や込められた想いについてお聞かせいただけますでしょうか?
最初から「ミマン」というタイトルを考えていたわけではありませんでした。2つ目のパートを撮影していた時にタイトルが決まりました。2つ目のパートの中に古典映画が登場するのですが、そのタイトルが「未亡人」なんですね。
未亡人というのは「夫を失った女性」という意味だと思っていたのですが、辞書でこの言葉を調べていたら、「夫を失ったにも関わらず、夫の後を追って死なずに生きている女性」と書かれていたんですね。
それを見た時に、これはとても主観的な解釈なのではないか、ある意味、不快な思いをする人がいたり、少し暴力的な解釈とも言えるのではないかという風に私自身思いまして、この「未亡人」という言葉に非常に興味を持ちました。
その後、気になって色々と資料を調べるうちに、この言葉には、同じ発音でありながらも3つの意味があるということを知りました。すごい偶然なのですが、この3つの意味が、私が表現したいと思っている映画の内容がうまく噛み合っていたので、結果的に、2つ目のパートを撮っている時に、この映画のタイトルは「ミマン」にしようと決めました。
――この作品は、2023年に東京フィルメックスで上映された後、約1年半後に劇場公開されることになりますが、日本のお客さんへのメッセージをお願いできますか?
私は2023年に日本で上映していただいた時の様子が未だに忘れられません。
私は、映画の上映が終わってから会場の外にいたんですけれども、そこでも日本の観客の皆さんが、私や私と一緒に舞台挨拶をした俳優たちを暖かく迎えてくださいました。
直接、会話もしたのですが、この映画に対して、私なりの演出のニュアンスも汲み取ってくれたりとか、一つの物事に対していくつかの意味が含まれていたような部分までしっかりとキャッチして、それを理解してくださっていたんですね。
もう一度日本の観客の皆さんにお会いして、一緒にお話ができることを本当に心待ちにしています。
キム・テヤン監督プロフィール
1988年、韓国生まれ。建国大学校にて映画について学ぶ。短編監督作『Actors』(2015)でDMC短編映画祭のDMCコルネット賞を受賞。短編監督作『Snail』(2020)が釜山国際短編映画祭でスペシャル・メンション、清州短編映画祭で最優秀監督賞、大邱短編映画祭で優秀賞を受賞。また、短編監督作『Seoul Cinema』(2022)がソウルインディペンデント映画祭で観客賞を受賞した。
アップリンク吉祥寺 ほか全国劇場にて公開
監督・脚本: キム・テヤン
出演:イ・ミョンハ ハ・ソングク パク・ボンジュン ペク・ソンジン チョン・スジ
2023年/韓国/カラー/ビスタ/5.1ch/92分/韓国語/原題:미망/日本語字幕:根本理恵/配給:ライツキューブ
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