『ハイパーボリア人』難しく考えるのを止めて映画をただ見れば面白いという映画
大ヒットしたチリのアニメーション『オオカミの家』のレオン&コシーニャ監督待望の新作が『ハイパーボリア人』だ。
『オオカミの家』が制作に5年を要し大変だったので、実写の方が早くできるだろうと企画を進めるが脚本を書き始めてから6年も経ち、こりゃまずいということで制作に入ろうとしたが、いやまてよ、この企画じゃダメだということで一から書き直し作った映画が本作だという。
できあがった『ハイパーボリア人』は2024年のカンヌ国際映画祭監督週間に出品され世界の映画祭で大きな話題となった。
日本の配給会社がつけたキャッチコピーが「『オオカミの家』より難しく『オオカミの家』より面白い」だ。確かに、地下に住むハイパーボリア人って誰やねんとなる。ギリシア神話や H.P.ラヴクラフトらの創作による『クトゥルフ神話』に登場する架空の民族らしい。
チリの外交官にして詩人、そしてヒトラーの信奉者ミゲル・セラーノ。で、そのセラーノは、ヒトラーが南極の大陸に生きていると確信していた。キーワードは"メタルヘッド”と聞くと、確かに面白そうだけど、難しい!
チリといえば、アレハンドロ・ホドロフスキー監督がいて、社会的ドキュメンタリーを撮り続けているパトリシオ・グスマン監督がいる。そしてレオン&コシーニャ監督。チリのアーティストたちの自由な表現方法、詩的な表現方法にはそれぞれ作風は違えどチリ的なものを感じずにはいられない。それは歴史、自然、社会、政治を融合させたマジック・リアリズムともいう手法だ。
『ハイパーボリア人』は難しく考えるのやめて観るといい。実写とアニメーション、時空を自由に移動する構成。なんと自由なのだろう。もしあなたが映像を作る人ならば、こんな自由な語り口、こんな自由な手法で作られた映画がカンヌで上映されるのだと思えばいいだろう。
監督はこう語っている。「僕らは映画が誕生した時のテクノロジーに特に興味があります。テクノロジーが生まれた瞬間はまだルールがありません。新しいものが出てきて、その道のプロが新しい技術を使って、やり方が確立される前段階がとても面白いと思っています。新しい技術とか方法が出てきた瞬間は全員が実験しないといけません」
そうでない人は、頭の中で考える世界と目で見えている世界、二つの世界に大きな違いはないということ、そしてそれらが融合したものがリアルということを知る映画とも言える。
監督は、こう言っている。「私たちは、あらゆるものが物質的であり、それゆえに変容しうるものであると想像することを試みる。これには政治、歴史、無意識も含まれる。本作で紹介する物語では、絵画と他の素材が混ざり合うだけでなく、政治的ビジョン、公的な歴史、夢も混ざり合っていく」
難しく考えるのを止めて映画をただ見れば面白いという映画が『ハイパーボリア人』だ。 (TA)
イントロダクション
昨年の『オオカミの家』の大ヒットが記憶に新しく、今夏に行われたひろしまアニメーションシーズン2024でオープニング作品としてジャパンプレミアされ大きな話題となった、チリの鬼才アーティスト・デュオ《レオン&コシーニャ》の待望の長編第二作。
監督たちは、初の長編アニメーション『オオカミの家』の制作に5年もの歳月を費やした反動から、次はスピーディーに実写映画を作ろうと本作の制作をスタート。
実在した親ナチ文化人ミゲル・セラーノやチリの政治家ハイメ・グスマンを登場させ、チリの現代史やナチス・ドイツをモチーフにする一方、主演俳優のアントーニア・ギーセンや、監督のレオン&コシーニャが実名で登場することで、現実と虚構、過去と現在の境界を巧妙に見失わせる。
また、20世紀初頭にトリック撮影を駆使して摩訶不思議な映像世界を生み出したフランスのジョルジュ・メリエスやスペインのセグンド・デ・チョーモンをリスペクトする二人だけあって、実写、影絵、アニメ、人形、16㎜フィルム、ビデオ、デジタル・・・と最初から最後まで何が飛び出すかわからない“闇鍋”映画を生み出した。
ストーリー
女優で臨床心理学者でもあるアントーニア(アント)・ギーセンは、謎の幻聴に悩まされる患者の訪問を受ける。
彼の話を友人の映画監督レオン&コシーニャにすると、2人はその幻聴は実在したチリの外交官にして詩人、そしてヒトラーの信奉者でもあったミゲル・セラーノの言葉であることに気づき、これを元にアントの主演映画を撮ろうと提案する。
2人とセラーノの人生を振り返る映画の撮影を始めるアントだったが、いつしか謎の階層に迷い込み、チリの政治家ハイメ・グスマンから、国を揺るがすほどの脅威が記録された映画フィルムを探す指令を受けとる。
カギとなる名前は”メタルヘッド”。
探索を始めるアントだったが、やがて絶対の危機が彼女を待ち受ける……!
レオン&コシーニャ監督メッセージ
(写真左:クリスバル・レオン、同右:ホアキン・コシーニャ)
私たちは2007年からデュオとして、主に映画制作を中心としたプロジェクトに取り組んでいる。
映画プロジェクトを中心に、インスタレーション、絵画、ドローイング、彫刻といった他のタイプの作品も増えてきた。私たちの作品は基本的に複数の分野が組み合わさってできており、ビジュアル・アートと映画やアニメーションの世界の両方からリソースを得ている。
『ハイパーボリア人』では、政治的な恐怖とファンタジー、有機的な儀式主義と乱雑な物質変化の間の 対話を創り出すことを目指している。『ハイパーボリア人』は、私たちの最初の短編『Lucía』から始まり、私たちのすべての作品に通底するアイデアを引き継いでいる。
私たちはプロセスについての作品を作りたい。私たちは、正確で、管理され、定義されたものとは対照的に、有機的で、偶発的で、不安定で、未完成で、常に成長し続けるものを受け入れ、その骨格を示すような作品に興味がある。
私たちは、あらゆるものが物質的であり、それゆえに変容しうるものであると想像することを試みる。これには政治、歴史、無意識も含まれる。本作で紹介する物語では、絵画と他の素材が混ざり合うだけでなく、政治的ビジョン、公的な歴史、夢も混ざり合っていく。
レオン&コシーニャ監督プロフィール
2007年から活動をはじめた二人組のビジュアル・アーティスト。ともにチリ・カトリック大学を卒業。レオンはベルリン芸術大学とアムステルダムのDe Ateliersでも学んだ。
彼らは各所で受賞歴があり、また、彼らの映画はロッテルダムやロカルノなど世界中の国際映画祭で頻繁に取り上げられている。展覧会も、ラテンアメリカの美術館やビエンナーレのほかに、ロンドンのホワイトチャペル・ギャラリー、ニューヨークのグッゲンハイム美術館、ベルリンのクンストヴェルケ現代美術センター、ヴェネチア・ビエンナーレ(2013)、スイスのアート・バーゼル(2012)などで開催されている。
初の長編映画『オオカミの家』は、美術館、文化センター、アートギャラリーなど、さまざまな公共の場所でのノマドワーク・イン・プロセスのインスタレーション作品として制作された。2018年の第68回ベルリン国際映画祭でプレミア上映されカリガリ映画賞を受賞、アヌシー国際アニメーション映画祭で審査員賞を受賞するなど、各国で多くの賞を受賞。『オオカミの家』に惚れ込んだ映画監督のアリ・アスターが製作総指揮を務めた短編『骨』は、第78回ヴェネチア国際映画祭でオリゾンティ部門最優秀短編映画賞を受賞。その後、トム・ヨークの新バンドThe Smileの2022年リリースのシングル「Thin Thing」のミュージックビデオを監督したことも話題に。現在は、長編劇映画『LA PLAGA/THE PLAGUE』と、童話「ヘンゼルとグレーテル」から着想を得た長編アニメーション映画『HANSEL & GRETEL』のプリプロダクション中である。
アップリンク京都 ほか全国劇場にて公開
監督:クリストバル・レオン、ホアキン・コシーニャ
脚本:クリストバル・レオン、ホアキン・コシーニャ、アレハンドラ・モファット
出演:アントーニア・ギーセン
2024年 / チリ / スペイン語・ドイツ語 / 71分 / カラー / 1.85:1 / 5.1ch
原題:Los Hiperbóreos 字幕翻訳:草刈かおり
提供:ザジフィルムズ、WOWOWプラス
配給:ザジフィルムズ
字幕協力:ひろしまアニメーションシーズン
© Leon & Cociña Films, Globo Rojo Films