『映画を愛する君へ』本作を楽しむ秘訣の第一はまず「自身のシネフィル度をチェックするのはやめよう」

『映画を愛する君へ』本作を楽しむ秘訣の第一はまず「自身のシネフィル度をチェックするのはやめよう」

2025-02-06 11:11:00

この映画の企画は、グザヴィエ・ドラン監督の『わたしはロランス』『トム・アット・ザ・ファーム』、レオス・カラックス監督の『アネット』をプロデュースしたシャルル・ジリベールからアルノー・デプレシャンにオファーされ監督は「ドキュメンタリーの作り方はよくわからないが、ハイブリッド形式の映画なら」という返事で引き受けたという。

映画は、​ポールという、デプレシャンの分身が少年時代から、映画監督までを4人の俳優が演じ、引用される映画は50本以上。フランス製作映画なので、アメリカの法律フェアユースという概念で無料で引用映像を使用できるという方法を取らず、すべての引用映画に許可を取ったという。

トリフォーの​『大人は判ってくれない』、ヒティロヴァの『ひなぎく』、黒沢の『乱』、マクディアナンの『ダイ・ハード』、チミノの『ディア・ハンター』、キャメロンの『ターミネーター2』など、映画ファンなら、聞き覚えのある作品から、観たことも聞いたこともない作品まで紹介される。

​これから本作を観る方へのアドバイスとして、本作を楽しむ秘訣の第一はまず「自身のシネフィル度をチェックするのはやめよう」だ。「​自分は映画館のどの位置の座席で映画を観るのが好きかな」という気持ち​でご覧いただきたい。

映画で紹介される映画と、​映画館、デプレシャンは、デプレシャン、さて、自分は、と考えることが楽しむ秘訣だろう。
ウォーリー​を探せではないけど、日本の商業映画館が1館出てくるので、どこに映されるかを見つけてください。(TA)

 

イントロダクション

19世紀末に誕生してから現在に至るまでの映画の魅力と魔法を語り尽くす、映画への深い愛と映画館への賛美に満ち溢れたシネマ・エッセイ。デプレシャン監督は、『キングス&クイーン』(04)や『クリスマス・ストーリー』(08)などで、数々の映画賞にノミネートされ、日本の映画ファンからも人気高い名匠。

本作も、第77回カンヌ国際映画祭で特別上映され、最優秀ドキュメンタリー賞にあたるゴールデン・アイ賞にノミネートされた。映画ファンから絶賛の声が上がった話題作。デプレシャン監督の過去作『そして僕は恋をする』(96)や『あの頃エッフェル塔の下で』(15)でマチュー・アマルリックが演じる主人公ポール・デュダリスに、監督自身を投影した自伝的映画になっている。
初めて映画館を訪れた幼少期、映画部で上映会を企画した学生時代、評論家から映画監督への転身を決意した成人期を、映画史と共に描く。マチュー・アマルリックは本人役として出演。祖母役をジャン・ユスターシュ監督の傑作『ママと娼婦』(73)で知られるフランソワーズ・ルブランが、14歳のポール役を『落下の解剖学』(23)の視覚障害のある息子役で注目を浴びたミロ・マシャド・グラネールが演じている。

本編には、映画史に功績を残した50本以上の名作が登場。リュミエール兄弟による映画の発明から、アベル・ガンスの『ナポレオン』(27)、フランク・キャプラ『或る夜の出来事』(34)、アルフレッド・ヒッチコック『北北西に進路を取れ』(59)、黒澤明『乱』(85)、クロード・ランズマン『SHOAHショア』(85)、ジェームズ・キャメロン『ターミネーター2』(91)、『ノッティングヒルの恋人』(99)など、世界中の様々なジャンルの映画が洪水のようにスクリーンを駆け巡る。そのほか、フランソワ・トリュフォー、ジャン=リュック・ゴダール、イングマール・ベルイマンらの映画も登場。デプレシャン監督が尊敬するアメリカの哲学者スタンリー・カヴェルやフランスの批評家アンドレ・バザンの言葉も借りながら、“映画とは何か”に迫る。

さらに、ドラマとドキュメンタリーを融合したハイブリッドな構成で綴られる。フィクションのシーンには、一般の観客が映画体験エピソードを語るインタビューシーンが挟まれる。「本作の主題は“私たち”映画の観客」と監督が語るように、観客の視点で映画愛が描かれる。シネ・ヌーヴォ(大阪)やアンスティチュ・フランセ(東京)など、日本の映画館の登場も見逃せない。映画は私たちの人生にどれほどの影響をもたらすのか——。デプレシャン監督が贈る映画と映画館へのラブレターを、ぜひ映画館で受け取って欲しい。

ストーリー

6歳のポールは、祖母に連れられ初めて映画館を訪れる。リュミエール兄弟が19世紀末に発明した映画に魅了された彼は、学生時代、映画部に所属して上映会を企画するようになる。成人後も映画を愛し続ける彼は、評論家から映画監督に転身することを決意する。

 

アルノー・デプレシャン監督インタビュー

―この作品のきっかけは?

哲学者スタンリー・カヴェルが、私にとってどれほど大切な存在であるかを知っていたプロデューサーのシャルル・ジリベ
ールとアソシエイト・プロデューサーのロマン・ブロンドーが、私に映画上映についてのドキュメンタリーを作らないかと
声をかけてくれました。私は、ドキュメンタリーの作り方は分からないが、ハイブリッドな形式なら考えるかもしれないと
伝えました。いくつかのアイデアを紙に書き出すと、少しずつ映画が形になっていったのです。書くのは簡単でした。20 年
以上にわたり、頭の中にある映画についての自分の考えに何度も立ち戻っていましたから、文章が溢れ出てきたのです。こ
の映画は、シャルルとロマンからの依頼であると同時に、限りなく個人的なエッセイでもあります。単純なドキュメンタリ
ープロジェクトとして始まったものが、大々的で多層的な映画になりました。

―このスペクタクルは、あなたが「家」にたとえた空間で展開します。『映画を愛する君へ』には、現実の世界と映画の比較
がなされていると同時に、映画館が、人を安心させ、世界を受け入れる場所であるという概念が流れていますね。

セルジュ・ダネーはかつて、子供の頃に遊び場で過ごした頃から、社会に対して警戒心を抱いたと言っていました。社会が
私たちに提示するのは、善意だけではないですからね。しかし彼は、世界に対しては、強く惹かれるものがあったのです。
ダネーやデダリュスのように、人生や社会は過大評価されていると感じている子供たちがいます。警戒心が強い彼らは、映
画館の暗闇の中に入ると、安全だと感じるのです。また映画館は同時に、全世界を発見できる場所でもあります。
ケント・ジョーンズに、ある時こう言われました。「君は、いわゆる家の映画を何作か作ったね」と。『二十歳の死』(91)
も、『クリスマス・ストーリー』(08)も、『愛された人』(07)も、家のような構造になっています。そして、『映画を愛する
君へ』も同じなのです。

アルノー・デプレシャン監督プロフィール

1960年、フランス北部の街ルーペ生まれ。パリ第3大学で映画を学んだのち国立映画学校ラ・フェミスで演出を学ぶ。卒業後の1991年、『二十歳の死』でアンジェの第3回プレミエ・ブラン映画祭に出品され、ジャン・ヴィゴ賞を受賞したことで、一気にその名前が注目されることとなる。1992年、『魂を救え!』では、第13回セザール賞 監督賞と最優秀脚本賞、第45回カンヌ国際映画祭 パルムドールにノミネート。1996年に、『そして僕は恋をする』で世界的な人気を獲得し、マチュー・アマルリックが第22回セザール賞 有望若手男優賞に輝いた。2004年、『キングス&クイーン』で第61回ヴェネチア映画祭 コンペティション部門にノミネート。主役を演じたマチュー・アマルリックに第30回セザール賞 最優秀男優賞をもたらした。2008年、『クリスマス・ストーリー』で第61回カンヌ映画祭に正式出品。第35回セザール賞で監督賞を含む9部門にノミネート。2022年、『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』で第75回カンヌ国際映画祭 パルムドールにノミネート。現在もフランス映画界を代表する映画監督として活躍中。

アップリンク吉祥寺ほか全国劇場にて公開

公式サイト

監督・脚本:アルノー・デプレシャン
出演:ルイ・バーマン、クレマン・エルヴュー=レジェ、フランソワーズ・ルブラン、ミロ・マシャド・グラネール(『落下の解剖学』)、サム・シェムール、ミシャ・レスコー、ショシャナ・フェルマン、ケント・ジョーンズ

2024年|88分|フランス|原題:Spectateurs!

© 2024 CG Cinéma / Scala Films / Arte France Cinéma / Hill Valle