『アンデッド/愛しき者の不在』どうしたら、悲嘆に暮れることの意味にたどり着けるのか―
『アンデッド/愛しき者の不在』は一見、近年その重要性が高まっている「グリーフケア」(身近な人との死別から不安定な状態となり苦しんでいる人に寄り添い、自立した生活に戻れるようにサポートすること)の話のようにも思えるのだが、本作が示し、もたらすものは、癒しでも回復でもなかった。であるのに、もしくはであるからこそなのか、悲嘆に暮れることの意味に、たどり着けるような気がしてくる。
「生」と「死」というような絶対的な差を、乗り越えたいと強く思えること、乗り越えられると理由なしに信じられることが愛。
死んでいる、と言い切ってしまいたくない。消えたのではなく、今ただここにいないだけ。というタイトルの言葉そのままに、声にならない叫びがこだまし続ける。
また、本作は35ミリフィルムで撮影されている。長年フィルムカメラを愛用しているテア・ヴィスタンダル監督は、腐敗や死を題材とするこの映画には有機的な素材の使用が必要だと考えたという。
生きているものには光と質量がある。しかしその光も質量も、一度きりで二度と再現することはできない。生きていることと死んでいることについて、何重にも考えるヒントがたたずんでいる。
ヴィスタンダル監督は現在35歳。知的さと詩的さを持ち合わせたまだ若い彼女が作り出す、映像で語られる言葉にならない物語を見ることを楽しみにしている(MO)
イントロダクション
世界の映画祭で8受賞14ノミネート、目利きのNEONが英国北米配給権を獲得!
北欧の鬼才と新星監督、期待の若手実力派女優によるアンサンブル。
A24、ブラムハウスに続く独立系映画スタジオ【NEON】が英国と北米の配給権を獲得し、北欧アートホラー『テルマ』(17)、『イノセンツ』(21)に続く新たな傑作の誕生を讃えた。
脚本を監督と共同で手掛けたのは、大ヒット映画『ぼくのエリ 200歳の少女』(08)、『ボーダー 二つの世界』(18)で知られるスウェーデンの鬼才ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト。本作は2005年に発表した同名小説の映画化である。
MVや短編映画を手がけてきた1989年生まれのテア・ヴィスタンダル監督の長編デビュー作で、ヌーシャテル国際ファンタスティック映画祭、ヨーテボリ映画祭、リビエラ国際映画祭などで監督賞を受賞。『テルマ』(17)『わたしは最悪。』(21)のヨアキム・トリアー監督、『イノセンツ』(21)のエスキル・フォクト監督につづく、ノルウェーの新星監督として期待されている。
主演は、第74回カンヌ国際映画祭で主演女優賞を獲得した『わたしは最悪。』のレナーテ・レインスヴェ。ヴィスタンダル監督とは旧知の中で、プライベートでも母でありながら、息子を亡くして鬱状態という難役を熱演した。
ストーリー
現代のオスロ。
息子を亡くしたばかりのアナ(レナーテ・レインスヴェ)とその父マーラー(ビヨーン・スンクェスト)は悲しみに暮れていた。
墓地で微かな音を聞いたマーラーは墓を掘り起こし、埋められていた孫の身体を家に連れて帰る。
一方、別の場所でも不思議な現象が起きていた。
交通事故に遭った女性が奇跡的に蘇生したり、教会で葬儀を終えたはずの死者が家に戻ってきたり…。
愛する人の生還に喜ぶ家族だが、彼らは明らかに生前とは違っていた…。
テア・ヴィスタンダル監督インタビュー
――この作品ではセリフが少く観客の想像力が掻き立てられますが、セリフを抑えることには、そのような意図がありましたか?
観客自身が、キャラクターの立場に自分を置いて考える余地や余白を残しておきたかったのです。キャラクターが話せば話すほど、浮かび上がった問題から注意が逸れてしまい、起きている出来事の神秘性が薄れてしまうことに気付きました。
そもそも辛さや痛み、誰かを亡くした喪失感を経験している方は、自分の想いを伝える言葉が見つからないし、言葉を発するエネルギーさえ無いというのが現実ではないでしょうか。そういった意味で、セリフというものが、この作品ではあまり使われていないのです。
だからこそ、視覚的にどこまで語れるかを自分に問いながら、小さなヒントを観客が理解してくれることを信じて作っていました。
言葉に出来ないことを語るのは難しい。もしそうしてしまうと、マジックが失われてしまうのです。「死者が蘇った」みたいな、ありきたりで平凡な表現になってしまうのだけは避けたいという気持ちがありました。
――次回作の予定は?
新しい長編映画の企画を何本か温めています。脚色もあれば、オリジナルもあります。
キャラクターが物語をひっぱり、その心理を掘り下げつつ更にホラー要素も加わるという、『アンデッド/愛しき者の不在』と近いジャンルの作品になると思います。
テア・ヴィスタンダル監督プロフィール
1989年生まれ。ノルウェー出身。短編映画やミュージックビデオで多数の賞を受賞し、SWSWで上映された短編映画『Virgins4Lyfe』(18)や、シッチェス国際映画祭でメリエス・ダルジャン賞を受賞した短編映画『Children Of Satan』(19)、そして2017年にノルウェーの映画館でプレミア上映され、高い評価を受けたハイブリッド映画『The Monkey and the Mouth』(17)(ヨーテボリ国際映画祭出品)などが含まれる。本作は彼女の長編デビュー作となる。
原作・共同脚本:ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト
監督・共同脚本:テア・ヴィスタンダル
出演:レナーテ・レインスヴェ、アンデルシュ・ダニエルセン・リー、ビヨーン・スンクェスト、ベンテ・ボシュン、バハール・パルス
2024年/ノルウェー・スウェーデン・ギリシャ/カラー/シネスコ/DCP/ノルウェー語・スウェーデン語・フランス語・ペルシャ語/98min/G
原題:Håndtering av udøde 英題:Handling The Undead
提供:東北新社
配給:東京テアトル
©MortenBrun
© 2024 Einar Film, Film i Väst, Zentropa Sweden, Filmiki Athens, E.R.T. S.A.