『太陽と桃の歌』牧歌的な田舎の大家族の物語は、大きな社会の中で歯車の先端の物語であることがわかる
2022年のベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した、カルラ・シモン監督の作品。スペインのカタルーニャ地方出身のシモン監督自身の家族に起きた出来事を、カタルーニャ語を喋る現地の人をオーディションし、それぞれ大家族の一人一人のキャラクターにキャスティングしフィクションの物語を圧倒的な再現力で作り上げた。
代々営んできた桃農園を舞台に、ソーラーパネル設置業者による土地買収、大麻栽培、農民がソーラーパネルの管理者に、といった急激な時代の変化に翻弄されながらも、家族の絆を深めていく姿を描き出す。
シモン監督は本作について「この映画は、家族の物語であり、同時に、私たちの未来についての物語です。私たちは、自然との共存をどのように考え、次の世代に何を残していくべきなのか、この映画を通して問いかけたいと思っています」と語る。
東京都では、2025年4月から新築の家にはソーラーパネル設置が義務付けられる。カタルーニャ地方のソーラーパネルは、樹木を薙ぎ倒し、長方形のパネルが大地に敷き詰められていく。映画の中で作られる「桃」の栽培コストより、低い買取価格で買い取る業者に桃栽培農家が抗議をするシーンがある。カタルーニャ地方で栽培される桃は、都市部に住む多数の消費者に経済的に支えられている。ソーラーパネルも東京都の自宅利用とは違い、スペイン都市部の生活者へ送電する装置だ。
自然の中にソーラーパネルが並ぶ姿は、決して美しくない。桃の木が整列して栽培される風景とは大きく異なる。
果たして、ソーラーパネル自体を管理する仕事が未来の姿なのだろうか。そして未来の姿といえば、自家消費クラブの会員や個人使用には大麻栽培が認められているスペインは未来の姿の一つなのだろうか。日本では、2024年12月12日に大麻所持ではなく使用を禁じる法律が制定された。
都市部に住んでいる人間たちが、ソーラーパネルと果物がなる樹木自体に、ましてそのメンテナンスと栽培、収穫、輸送まで想いを馳せることは少ないだろう。
牧歌的な田舎の大家族の物語は、ぐーっと引いてみると大きな社会の中で歯車の先端の物語であることがわかる。
なので、都会に住む人たちこそが観て自分ごととして考えるべき映画だろう。(TA)
イントロダクション
第72回ベルリン国際映画祭コンペティション部門金熊賞受賞!
少女の特別な夏を描いた初の長編監督作『悲しみに、こんにちは』がベルリン国際映画祭で最優秀新人作品賞とジェネレーション部門グランプリを受賞したカルラ・シモン。眩いばかりの新しい才能の登場に映画界は歓喜した。
長編2作目となる『太陽と桃の歌』はスペインのカタルーニャを舞台に、伝統的な家族経営の桃農園が、ソーラーパネルに取って代わられるという世界中で起こっている自然と人間の問題を描き、ベルリン国際映画祭に凱旋するや見事金熊賞に輝いた。世界各地で56の映画祭やアワードに受賞&ノミネートされた話題作が、遂に日本公開となる。
カタルーニャの広大な大地と豊かな実り、煌めく夏の空と吹き抜ける風が余すところなく映し出され、リアルな家族のやり取りに時に笑わされ時に目頭が熱くなる心揺さぶるヒューマンドラマ。
ストーリー
スペインのカタルーニャ地方の奥地にある小さな村アルカラスで、3代にわたって桃農園を営むソレ家。
例年通り夏の収穫を迎えようとしていたその時、地主から夏の終わりに土地を明 け渡すようにと迫られる。桃の木を伐採して、ソーラーパネルを設置するというのだ。ソレ家の父親と祖父から拒絶された地主は、ソーラーパネルの管理を任せると持ち掛ける。
その提案に父は激怒するが、「楽に稼げる」という囁きに妻や妹夫婦は心を動かされていく。祖父は賭け事で一発逆転を狙い、長男は資金稼ぎに畑の片隅で大麻栽培を始めるなど、てんでバラバラに桃園の危機を何とかしようとするが、大げんかが勃発。そんな大人たちの争いに、子供たちも不安と不満を募らせ、ずっと仲良く生きてきたはずの大家族に初めての亀裂が生まれる。
果たして、美しく豊かな桃の木々の行方は?そして、家族は最大の危機を乗り越え、固い絆を取り戻すことができるのか?
カルラ・シモン監督インタビュー
――作品の内容を簡単に教えてください。
この作品は、予告された死の記録です。カタルーニャの奥地にあるアルカラスで3世代にわ たって農業を営んできたソレ家の人々は、夏が終わるとその土地を離れなければならないことを知ります。土地の所有者が桃の木を伐採し、ソーラーパネルを設置しようとしていたからです。最後の収穫のために集った一家は、先の見えない未来をどう生きるかで意見が食い違い、一家の結束が脅かされていきます。危機に直面し、共通のアイデンティティが失われようとしたとき、それぞれが自分の居場所を見つけようともがく家族の物語です。
――作品のアイデアはどのようにして生まれましたか?
私の父の兄弟たちがアルカラスで桃農家を営んでいます。数年前に、中心となっていた祖父が亡くなりました。私たちはクリスマスや夏休みになるといつも一緒に過ごし、家族にとって、そこで経験したことや分かち合ったことはとても大きな意味を持ちます。そして祖父の死をきっかけに、突然この地を描く必要性を感じました。光、木々、畑、人々、人々の表情、 仕事の過酷さ、灼熱の夏...。そこには大きな映画的価値があります。作品の中で一家が直面 する最後の収穫は、終わりゆく世界を描くにはぴったりの舞台でした。
カルラ・シモン監督プロフィール
1986年、スペイン・カタルーニャのアルカラス生まれ。バルセロナとカリフォルニアでオーディオビジュアル・コミュニケーションを学ぶ。2011年には、カイシャバンクによる奨学金を得てロンドン・フィルム・スクールの博士課程に入学。在学中に短編4本を製作する。2017年に自身の体験を基にした『悲しみに、こんにちは』で長編デビュー。ベルリン国際映画祭で最優秀新人作品賞、およびジェネレーション部門(Kplus)グランプリを受賞。ゴヤ賞では最優秀新人監督賞を含む3部門で受賞し、世界各地で30以上の賞を獲得する。さらには2018年のアカデミー賞外国語映賞スペイン代表に選ばれ、ヨーロッパ映画賞ではディスカバリー賞を受賞。また同年、カルラは第71回カンヌ国際映画祭で映画界における女性の知名度と地位向上を目指したケリングの「ウーマン・イン・モーション」でヤングタレントアワードを受賞した。「太陽と桃の歌(原題 ALCARRÀS)」は長編2作目。
2022年/スペイン・イタリア/カタルーニャ語/カラー/ヴィスタ/5.1ch/121 分/原題:ALCARRÀS
日本語字幕:草刈かおり
配給:東京テアトル
後援:スペイン大使館 Embajada de España
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