『クラブゼロ』“意識的に食事せよ“ 教師が生徒を洗脳するサイコスリラー
『クラブゼロ』のジェシカ・ハウスナー監督は、この企画の出発点は「生徒たちを操る教師」というコンセプトだったという。
どう操るのか。それは最終的には「クラブゼロ」という”意識的に食事をする”集団に勧誘することである。
意識的に食事をすることを突き詰めると、”生産者が作った食べ物を口にするまでの過程の資本主義的なシステムに抗う”姿勢をとることになる。
さらにその考えを突き詰めると、”食べない”という道を選ぶことになる。
健康を考える時、短期的な絶食(ファスティング)は、免疫機能の活性化、腸内機能の改善など良いとされる要素が多いが、長期の絶食となると栄養不足に陥ることは間違いない。ましてや映画に出てくるのは高校生で、まだ育ち盛りである。
ハウスナー監督は、「この映画は、信じることへの問いと関わっています。私たちは集約的に、つまりグループとしていろんなものを概念として信じるようになります。最終的には、観る方に自分で決めて欲しい。自分だったらどの瞬間で止めたり、手を引くか、自分で決めてほしいんです」と観客に現代社会で問題となっている、大きく言えば”洗脳”というテーマを投げかける。
また美術、衣装、音楽のアンサンブルも見どころの一つだ。
舞台となる学校は、建築家のアルネ・ヤコブセンがデザインしたセント・キャサリンズ・カレッジ(オックスフォード大学)を起用し、現代的でユニバーサルな環境を表現。衣装デザイナーのターニャ・ハウスナーは、イギリスの伝統的な制服とは真逆の、カジュアルで明るい配色を基調とした制服を提案した。
マーカス・ビンダーによる反復で構成される音楽は没入感を生み、身体に精神的な影響を与える。楽器はモロッコやベトナム、シベリアなど世界各地から集められ、普遍性的かつ多層的なサウンドが生み出された。
同時期にアップリンク吉祥寺・京都で公開されている『フード・インク ポスト・コロナ』を観てみると、「クラブゼロ」の意識して食事をするという考えは現在においては正しいかも、と思わせるところもあるので、ぜひ二作品をあわせてご覧になることをお勧めしたい。(TA)
イントロダクション
第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、『アリス・イン・ワンダーランド』のミア・ワシコウスカを主演に迎えた本作。
監督は、ミヒャエル・ハネケに師事し世界中の観客を魅了し続けている気鋭ジェシカ・ハウスナー。
栄養学の教師が指導する”意識的な食事”とは?
世界を不安にさせるイニシエーション・スリラーが誕生した。
ストーリー
名門校に赴任してきた栄養学の教師、ノヴァク。
彼女は【意識的な食事/conscious eating】という、「少食は健康的であり、社会の束縛から自分を解放することができる」という食事法を生徒たちに教える。
無垢な生徒たちは彼女の教えにのめり込んでいき、事態は次第にエスカレート。両親たちが異変に気づきはじめた頃には時すでに遅く、遂に生徒たちはノヴァクとともに「クラブゼロ」と呼ばれる謎のクラブに参加することになる――。
生徒たちが最後に選択する、究極の健康法とは?そしてノヴァクの目的とは?
プロダクション・ノート
━━━おとぎ話×社会課題━━━
本作の出発点は、村人が十分な報酬を払わなかったため、子供たちが誘拐されたという伝承「ハーメルンの笛吹き男」である。インスピレーションとしておとぎ話を引用することについてジェシカ・ハウスナー監督(写真右)は、「より距離を置いたアプローチと普遍的な視点を可能にしてくれます。人間の行動を俯瞰した時に見える不条理を考察することが、映画の目的です」と説明する。また、生きる上で誰もが切り離せない「食」と「親はいかにして子供を守れるのか」という疑問を監督ならではの視点で提示する。
食の管理は常に宗教の一部であることを指摘し「食事はとても個人的かつ社交的なことで、特に責任感と帰属欲求の高い若者が拒食に陥れば、究極の抵抗の形が完成してしまうのです」と警鐘を鳴らす。
また、膨大な責任を抱える教師について、「本来は尊敬されるべき仕事であり、それに見合った報酬を得るべきです。誰がどのように責任を全うし、信頼を作り上げるのか、社会がどう考えているかに興味があります」とあらゆる人の困難に耳を傾ける必要があることを強調した。
ジェシカ・ハウスナー監督プロフィール
1972年10月6日生まれ、オーストリア・ウィーン出身。フィルムアカデミー・ウィーンで監督業を学び、ミヒャエル・ハネケに師事し、映画『ファニーゲーム』にアシスタントとしても参加。卒業後の1999年、プロデューサーのバーバラ・アルバートや撮影監督のマルティン・ゲシュラハトらと映画製作会社「coop99」を設立する。2001年の長編デビュー作『Lovely Rita ラブリー・リタ』は第54回カンヌ国際映画祭ある視点部門で国際的な注目を集め、2004年、長編2作目となる『Hotel ホテル』で再び同部門に選出。2009 年、『ルルドの泉で』は第66回ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に選出され、国際批評家連盟賞ほか5部門を受賞した。『Amour fou(原題)』(14)は第67回カンヌ国際映画祭ある視点部門でプレミア上映された。そして、長編5作目にして英語デビュー作となる『リトル・ジョー』(19)は、第72回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、エミリー・ビーチャムが最優秀女優賞に輝いた。
出演:ミア・ワシコウスカ
脚本・監督:ジェシカ・ハウスナー
撮影:マルティン・ゲシュラハト
2023年|オーストリア・イギリス・ドイツ・フランス・デンマーク・カタール|5.1ch|アメリカンビスタ|英語|110分|原題:CLUB ZERO|字幕翻訳:髙橋彩|配給:クロックワークス
© COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINÉMA 2023