『チネチッタで会いましょう』 映画制作は簡単じゃない資金ショートの救世主はNetflix?
ナンニ・モレッティ監督は現在71歳、撮影時70歳の作品が『チネチッタで会いましょう』。
フェリーニを敬愛するモレッティの『81/2』とも言える、映画制作を映画にした作品。
精神科医の和田秀樹氏は、老人の入り口に立つモレッティ監督が自己を投影した劇中の監督・ジョヴァンニが取る行動は「老害の世界をものの見事に描いている」と評する。
妻・パオラがプロデューサーとなりジョヴァンニ監督が撮影しようとしているのは、1950年代のイタリア共産党の映画。パオラは並行してジョヴァンニより若い監督の映画もプロデュースしている。
ジョヴァンニの映画撮影は資金繰りがショートし中断となる。そこで救世主と現れたのが、1番目はNetflix。世界190カ国に配信するプラットフォーマーの要求は、シンプルなものだが受け入れ難い。
2番目は意外な救世主がアジアから現れる。
映画への限りない愛が満ち溢れる映画だが、『ニューシネマ・パラダイス』のような心暖まるストーリー展開ではなく、物語は”老害監督”の行動を追いかけ、これぞモレッティ流コメディ映画としてクネクネ、ツイストして進んでいく。
モレッティ監督自身Netflixに加入し、マイケル・ダグラス主演の『コミンスキー・メソッド』『メディア王~華麗なる一族』が好きで楽しんでいるというが、「映画を作るときは、暗い部屋で、自分よりずっと大きな映像を見ている見知らぬ観客を想像する」という。
『チネチッタで会いましょう』をぜひ暗闇の中のスクリーンで楽しんでほしい。(TA)
イントロダクション
『監督ミケーレ黄金の夢』でヴェネツィア、『ジュリオの当惑(とまどい)』でベルリン『親愛なる日記』でカンヌ、40歳にして3大映画祭を制覇した早熟の天才ナンニ・モレッティ監督。
「映画には、私たちに明るさと幸せになりたいという気持ちを再発見させる魔法の力がある。どんなことがあっても」とメッセージを寄せるモレッティ監督の最新作は、時代の変化についていけずに痛い目にあった映画監督が失意の後に大切なことに気づくヒューマンドラマ。
フェリーニやキェシロフスキ、スコセッシなど映画へのオマージュ交えならところどころに自身の過去作品を引用して、変化の激しい世界に適応することの難しさをユーモラスに描きながらも、より良い未来を夢見ることを忘れないという温かなメッセージが込められている。作家性と娯楽性とを見事に両立し、独特のユーモアとやさしい眼差しが相互に観客をつかむ、モレッティ作品の魅力が満喫できる作品に仕上がっている。ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞では、作品賞、監督賞、脚本賞を含む主要7部門でノミネートされた。
ストーリー
キャリアおおよそ40年のベテラン映画監督ジョヴァンニ。ローマのチネチッタ撮影所での新作撮影を控え、全ては順調に進んでいるかのように思えた。
頭の中には5年に1本では追いつかないほど新作の構想がいくつもある。作品を理解してくれているフランス人プロデューサー、傍にはずっと一緒に映画を製作してきた妻がいる。順風満帆な人生だ。
ところが何かがおかしい。
ジョヴァンニは自分がちょっとズレてしまっていることに気づいてしまう出来事に直面していく。そして不運も重なる。妻には別れを切り出され、女優は自分の演出に意見してくる。妻が製作している別の監督の暴力映画に至っては無茶苦茶だ。フランス人プロデューサーはもしかしたら信用できないかも。映画に必要な象が用意できない。
映画を愛し家族を愛し、懸命に生きてきたはずのジョヴァンニ。どう切り抜けるのか!
【チネチッタとは…】ヴィスコンティ「ベリッシマ」フェリーニ「甘い生活」ウィリアム・ワイラー「ベン・ハー」「ローマの休日」など数々の名作が生まれたローマの映画撮影所。現在までに3000作以上が撮影され90以上の作品がアカデミー賞にノミネートされている。
ナンニ・モレッティ監督インタビュー
──『チネチッタで会いましょう』では、あなたは粘り強い孤独な映画監督を演じています。スピノザが言うように、彼は「自分の存在に耐える」のでしょうか?
彼は荒削りで、気性が荒く、疑念が多い。1950年代のイタリア共産党という身近な題材の映画を準備中だが、誰も興味を示さないことに気づく。しかし彼の困難は、最終的には映画の魔法とエネルギーによって救済される。観客として、また映画作家として、私は50年前、初めてスーパー8で短編映画を撮ったときの自分とよく似ていると思う。映画は自分の問題に 正面から取り組む手助けをしてくれるという漠然とした、しかし強い予感があった。それは、物語を語ることで、鬱に対処する方法だった。
──映画館の入場者数の減少にどう立ち向かいますか?
私はいつも挑戦し賭けることで危機に対応してきた。1980年代半ばには、イタリア映画はほとんど存在しなくなっていた。 個性がなく、偽りの国際的な映画を製作し、万人を喜ばせようとして、誰も喜ばなくなっていた。そこで私は 1986 年から、カルロ・マッツァクラーティ、ダニエーレ・ルケッティ、 ミンモ・カロプレスティらのデビュー作をプロデュースした。1991年、映画館は閉鎖され 、人々はVHSで映画を見るようになった。そこで私は、若手映画作家による短編映画や野外上映の映画祭を企画した。その中の一人、カロリーナ・パヴォーネを プロデュースすることになった。(※QUASI A CASA 2024年ヴェネチア国際映画祭ヴェニス・デイズ部門上映)義務のためではなく、楽しみのために。パンデミックは私たちに新たな打撃を与えた。ポーカープレイヤーのように、私は賭けをレイズするから大丈夫だ。私は映画の力を信じ続ける。
(ル・モンド 2023年7月1日掲載の記事より抜粋)
ナンニ・モレッティ監督プロフィール
1953年、トレンティーノ=アルト・アディジェ州ブルーニコ生まれ。ローマで育つ。父は碑文研究者ルイジ・モレッティ。1981年の『監督ミケーレの黄金の夢』でヴェネツィア国際映画祭審査員特別賞受賞。85年には『ジュリオの当惑(とまどい)』でベルリン国際映画祭、審査員グランプリを受賞。93年の『親愛なる日記』でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞し、2001年の『息子の部屋』でパルム・ドールを受賞。『親愛なる日記』以降は監督作全てがカンヌ国際映画祭のコンペンティション部門で上映され、2012年には審査委員長を務めた。日本で劇場公開される機会は少ないが短編やドキュメンタリー作品も多く発表している。ローマでNuovo Sacherという映画館を共同経営している。名前はモレッティの好きなケーキ、ザッハトルテに由来する。
監督:ナンニ・モレッティ
脚本:フランチェスカ・マルチャーノ、ナンニ・モレッティ、フェデリカ・ポントレモーリ、ヴァリア・サンテッラ
音楽:フランコ・ピエルサンティ 撮影:ミケーレ・ダッタナージオ
出演:ナンニ・モレッティ、マルゲリータ・ブイ、シルヴィオ・オルランド、バルボラ・ボブローヴァ、マチュー・アマルリック
2023年/イタリア・フランス/原題:Il sol dell’avvenire/96分/ヴィスタサイズ/日本語字幕:関口英子
後援:イタリア大使館/特別協力:イタリア文化会館/配給:チャイルド・フィルム
© 2023 Sacher Film–Fandango–Le Pacte–France 3Cinéma