『アイミタガイ』映画を観る人と映画の関係が相身互いということを知ることになる映画
アイミタガイ、カタカナで書くと呪文のようだが漢字で書くと意味がわかる。
「相身互い」お互いを助け合う精神や持ちつ持たれつの関係を意味する言葉だ。
中條ていの連作短編小説「アイミタガイ」を『台風家族』の市井昌秀が脚本の骨組みを作り、『ツレがうつになりまして。』の故・佐々部清が発展させた企画を『彼女が好きなものは』の草野翔吾が脚本・監督した。
名古屋でウェディングプランナーとして働く梓(黒木華)を主人公にその両親(西田尚美、田口トモロヲ)、親友(藤間爽子)、付き合っている彼(中村蒼)など、それぞれの関係が緩やかに繋がっていく群像劇で、そこで織りなされる物語には誰一人として悪い人はでてこない。
人は、映画に何を求めて観にいくのだろうか。推しの俳優を観に、監督の世界観を楽しみに、ただただ物語に感情を委ねて世界を進んでいく、ある時は笑いに、ある時は泣きにとさまざまだろう。
『アイミタガイ』の映画の中の出来事は身の回りに起きそうでありそうでリアルなことの積み重ねであるが、そこは連作小説を3人のプロがうまく練って1本の作品に仕上げている作り物のお話だ。
では、映画においてリアルなことは存在するだろうか。それは、観る人の気持ちが映画により動かされた時だ。優れた俳優の演技に感情が同化した時だ。その観客の感情はリアルだ。
観客それぞれの今や過去のリアルの経験が映画との出会いにより、時には人は癒されるかもしれないし救われるかもしれない。そういう時、映画とそれを観る人の関係は「相身互い」と言えるのではないだろうか。
本作は、映画を観る人と映画の関係が相身互いということを知ることになる映画だ。(TA)
イントロダクション
誰かを想ったやさしい「秘密」が、立ち止まっていた人々の心を灯す。
ウェディングプランナーの梓は、日々の何気ないあれこれを亡くなった親友に送り続けていた。
たとえ返事が来なくても --。見逃してしまいそうな微かなふれあいが繋がり、秘密の糸がほどける
とき、思いもよらない幸せの歯車が動き出す。
誰かを想ってしたことは、巡り巡って見知らぬ誰かをも救う。
誰の胸にも眠っている助け合いの心を呼び起こし、
何気ない毎日をやさしく照らす、あたたかな物語が誕生した。
見逃してしまいそうな微かなふれあいが繋がり、
秘密の糸がほどけるとき、思いもよらない幸せの歯車が動き出す。
エンドロールで流れる「夜明けのマイウェイ」は、70 年代に放映されたドラマの主題歌であり、宇田川プロデューサーが市井と脚本を作っている最中から念頭にあった。「悲しみをいくつかのりこえてみました」という歌詞に重ねた、震災からの復興を願う気持ち。それはボーカルをつとめた黒木華の柔ら
かい声に乗って、世の中に向けた大声の応援ソングではなく、一人一人の個人に寄り添ってくれるような等身大の一曲になっている。「作詞・作曲の荒木一郎さんが、ご自身のライブで弾き語りでカバーしている音源を聞いたとき、アコースティックギター一本のようなシンプルでさりげないアレンジがこの映画に合うのではないかと思いました。黒木さんが歌うと決まったときも、高らかに歌い上げるのではなく、プライベートで語りかけるような
イメージにしたいと伝えました」(草野監督)
ストーリー
ウェディングプランナーとして働く梓(黒木華)のもとに、ある日突然届いたのは、親友の叶海(藤間爽子)が命を落としたという知らせだった。交際相手の澄人(中村蒼)との結婚に踏み出せず、生前の叶海と交わしていたトーク画面に、変わらずメッセージを送り続ける。同じ頃、叶海の両親の朋子(西田尚美)と優作(田口トモロヲ)は、とある児童養護施設から娘宛てのカードを受け取っていた。そして遺品のスマホには、溜まっていたメッセージの存在を知らせる新たな通知も。
一方、金婚式を担当することになった梓は、叔母の紹介でピアノ演奏を頼みに行ったこみち(草笛光子)の家で中学時代の記憶をふいに思い出す。叶海と二人で聴いたピアノの音色。大事なときに背中を押してくれたのはいつも叶海だった。梓は思わず送る。「叶海がいないと前に進めないよ」。その瞬間、読まれるはずのない送信済みのメッセージに一斉に既読がついて……。
アップリンク吉祥寺 ほか全国劇場にて公開
監督:草野翔吾
原作:中條てい「アイミタガイ」(幻冬舎文庫)
出演:黒木華、中村蒼、藤間爽子、安藤玉恵、近藤華、白鳥玉季、吉岡睦雄、松本利夫(EXILE)、升毅、西田尚美、田口トモロヲ、風吹ジュン、草笛光子
配給:ショウゲート