『パルバティ・バウル〜黄金の河を渡って』現代社会にも鳴り響く、吟遊行者"バウル"の歌ごえ―。
インドの西ベンガル州バングラデシュで「バウル」と呼ばれる吟遊行者として生きる女性、パルバティ・バウル。バウルは、家々をめぐり、歌い、托鉢をして生きている。31年前、当時まだ美術大学への進学を目指していた彼女と共同生活を送ったことのある監督・阿部櫻子が、その後どういうわけかバウルとなった彼女を通して、バウルという存在が現代社会をどうやって生きていくことができるのか、そしてその存在が現代社会を生きる私たちにとってどんな意味をもつのかを追った。
バウルとは「気が触れた」という意であり、芸能者ではなく、あくまで修行者であるという。しかし舞い歌うバウルを目の前にした人々は、まるで神の化身を見るかのように、膝を折り、頭を地面につけて、手を合わせる。
インドで最もカーストが高いとされる家庭に生まれた彼女は、一度は美術の道へ進んだが、グル(師匠)と出会い、バウルになることを決意したのだった。
歌には時間を引き伸ばす力があり、そしてそれは意識にとらわれていないということ。そのような修行の時間が現代には必要だと説くパルバティ。彼女はグルの教えを広めるために世界各地でツアーを行っている。2023年には二度目の来日を果たし、寺や神楽、能楽堂などでバウルの歌舞を披露した。
百聞は一見にしかずで、彼女が歌う空間に身を置き、その存在を肌で感じなければ、バウルを知ったことにはならないだろう。けれど、パルバティ・バウルの言葉や、曹洞宗の僧侶・藤田一照氏や元THE BLUE HEARTSのドラマー・梶原徹也氏ら、彼女の歌声、生の響きにじかに触れた人々の証言を通して、一筋の涙のような"黄金の河”の流れる音が、聞こえてくるかもしれない。
彼女は歌う。「まだ一度も会ったことがない/私の家のそばに/鏡の街/そこに住んでいる隣人と/ただの一度も/会ったことがない…」(MO)
イントロダクション
インドの吟遊行者、パルバティ・バウルが修行の意味を説くドキュメンタリー。
インドで30年近く、歌う修行の道を歩んできたパルバティ・バウル。仏教、イスラーム教、ヒンドゥー教、どんな宗教宗派にもとらわれない修行者だ。
彼女は2023年11月に来日し、「岩手・時宗、大償神楽の息づく花巻」「那智大社・飛瀧神社」「大阪・岸和田の杉江能楽堂」など、日本の修行文化の息づく地で奉納演奏を行なった。
インドでも長年「アーティスト(芸能者)」として見られてきたパルバティ・バウルが、日本の来日を望んだのは、共通する「修行」という文化背景があるからだ。
彼女は「芸能者」としてではなく「修行者」として、「歌」や「舞い」などに対する独特の考えを明らかにしていく。そして最後に彼女が日本で見つけたのは、自分に最も近い行者だった…。
インド・バングラデシュ・日本・アメリカ、世界で歌うパルバティ・バウルの姿を通して、黄金の河を渡った者だけが知る「いのち在り処」を探る旅。
【バウルとは?】
バウルとは、インドの西ベンガル州とはバングラデシュにいる吟遊行者のこと。2008年、UNESCOの世界無形文化遺産に登録された。托鉢をしながら、独特の哲学を反映した歌をうたい、舞い踊る。仏教やイスラーム神秘主義、ヒンドゥーなど、様々な伝統の影響を受けながらも、どの宗教宗派にも属さず、師弟相伝で受け継がれてきた。バウルは歌う行者であり人前で歌いながらも、芸能者ではなく、あくまでも歌や舞を術とした「修行者」である。
ストーリー
古来、人間には二種類あるという。
“修行者”と“それ以外”。
両者の間に流れるといわれる黄金の河。
バウルは8世紀からインド・ベンガルに受け継がれる“修行”の伝統をもつ吟遊行者。
彼女が発する“歌ごえ”は、修行に裏打ちされた“いのちの顕れ”。
渡河した者だけが知る豊穣な世界の在り処を、彼女はその“歌舞”から示してくれる。
圧倒的な存在感と響く歌ごえ、それはひと筋の光となって私たちの心を照らし出す。
阿部櫻子監督メッセージ
パルバティ・バウルは“黄金の河を渡った人”だ。“河”とは“修行者”と“修行者でない者”を隔てる黄金の河のこと。
この映画はその河の両岸を結ぶために、製作が始められた。しかし“修行”という世界は、“解説”や“説明”とは本質的に異なる世界。橋を掛けようにも、共通の言葉があるようでなく、ないようでもあり・・・到底、簡単には理解できない。二つの岸辺に住む人々は、そもそも目指しているものがまるで違うのだ…。
とはいえ、バウルの世界は意味がないものではなく、むしろその理解できない豊かな世界が、今もなお現代にあることが救いに思える。パルバティの生き方、そして言葉には、私たちの考え方を根底から見直す力を秘めている。
阿部櫻子監督プロフィール
1968年、東京生まれ。アジア・アフリカ語学院で2年間ヒンディー語を学び、92年に渡印。ビハール州の大学に在籍し、ミティラー画の画家ゴーダ―ワリー・ダッタ宅に3ヵ月寄寓。同年秋から、3年に渡ってインドのウエスト・ベンガル州のヴィシュワ・バハラティ―大学に遊学。大学在学中に、インドの吟遊詩人として、現在世界中で公演を続けるパルバティ・バウル(当時モウシュミー・パリエル)と共同生活を1年送る。以後、マディヤ・プラデーシュ州のバイガ族の入れ墨を探るため、彫師と旅をしたり、同MP州の現代ゴンド画の祖とされるジャンガル・シン・シャームに出会い、日本で2001年に亡くなる直前まで交流を続けるなど、インドのフォークアーティストと多くの交流を持つ。98年よりヒンディー語の通訳・コーディネートを始め、01年より、ヴィジュアルフォークロアにて、映像を学び始め、ディレクターとなる。13年より、インドのフォークアートとの出会いを生かしたいと、DEEPDANというギャラリーの運営を始める。現在サキプロでフリーのディレクター/プロデューサーとして活動中。
アップリンク吉祥寺 ほか全国劇場にて公開
監督・制作:阿部櫻子
出演:Parvathy Baul Kanai Das Baul Biswanath Das Baul Debdas Baul Meera Dasi 藤田一照 梶原徹也 阿部一成
音楽:Parvathy Baul 梶原徹也 阿部一成
撮影:大谷耕太朗 阿部櫻子 村松辰哉
ナレーション:阿部櫻子 編集:阿部櫻子 田中藍子
歌詞翻訳:Parvathy Baul Tomomi Paromita Sanatan Siddhashram Sevak Erick Gibson Sakurako Abe Saraswati Yogini
ベンガル語&ヒンディー語翻訳 Tomomi Paromita Sakurako Abe Sudip Singha
英語翻訳:Tomomi Paromita Erick Gibson Sakurako Abe
Woodcuts & Paintings: Parvathy Baul (Sanatan Siddhashram) Ravi Gopalan Nair (Ekathara Kalari)
イラスト:伊藤武
録音:甲斐隆幸 大谷耕太朗 サウンドデザイン&ミックス:吉田茂一 カラーグレーディング:織山臨太郎 字幕デザイン:藤井遼介 Sanatan Das Footage Courtesy :Charles Steiner/Vagabond Video Provide Materials :CACTUS Co.,Ltd Pixta Co.,Ltd 1/3 さいたま市教育委員会 宣伝美術:島田薫 制作協力:美竹遊民舎 渡辺美智子
制作著作:サキプロ2024
2024/日本/DCP/109分