『ロボット・ドリームズ』名曲「セプテンバー」に乗せて描く、しんみりと温かいロボットとの友情の物語
軽快なテンポの中で切ない12月の思いを歌った、アース・ウインド&ファイアーのヒット曲「セプテンバー」。この楽曲をメインテーマに、「当時のニューヨークという街の地図のようなもの」(パブロ・ベルヘル監督)になっているという本作の挿入曲は、ラテンアメリカ系音楽、パンクロック、ヒップホップ、インディーズまで、80年代のニューヨークのさまざまなミュージックシーンから選曲されている。
また、地下鉄や公園に鳴り響くストリートミュージシャンたちの奏でる音楽、『オズの魔法使い』のオマージュのようなミュージカルシーンなど、ニューヨークを感じらる場面が散りばめられ、さらには主人公ドッグの寝室にピンク・フロイドのジャケットのポスターが飾られているなど、MV監督としても活躍しているベルヘル監督ならではの、音楽ファンには嬉しい演出がいっぱいだ。音楽ストリーミングサービス「Spotify」に、サウンドトラックのプレイリスト(リンク)もあるので、ぜひ映画と一緒に楽しんでもらいたい。
“Do you remember/The twenty-first night of September?(9月21日の夜のことを覚えてる?)”
「セプテンバー」はカップルの別れを歌った曲だが、夏の終わり、ビーチが閉鎖されてしまう前日、ドッグとロボットが離れ離れになってしまった日が、ほんとうに9月21日のことだったのではないかと思えてくる。
ひとりぼっちではなく誰かとよろこびを分かち合うこと、寂しさをさわやかに乗り越えていくこと、誰かを思いつづけること。なめらかなペールトーンの色合いが、しんみりと温かく心に残る。(MO)
イントロダクション
第96回アカデミー賞®長編アニメーション映画賞ノミネートを果たし、アニー賞、ヨーロッパ 映画賞、ゴヤ賞ほか名だたる映画賞を席巻。孤独なドッグと、その元へやってきたロボットとの友情を描き、世界中の批評家と観客から愛された本作。
監督を務めたのはヨーロッパを代表する名匠パブロ・ベルヘル。アニメーション映画へは初挑戦ながら、「制約のないアニメーションで、物語を描く無限の可能性を探求したかった」と語るとおり、切ないながらも温かく、観るものの心を揺さぶる類まれな傑作として結実させた。
ストーリー
大都会ニューヨーク。ひとりぼっちのドッグは、孤独感に押しつぶされそうになっていた。
そんな物憂げな夜、ドッグはふと目にしたテレビCMに心を動かされる。
数日後、ドッグの元に届けられた大きな箱―― それは友達ロボットだった。
セントラルパーク、エンパイアステートビル、クイーンズボロ橋…… ニューヨークの名所を巡りながら、深い友情を育んでいくドッグとロボット。
ふたりの世界はリズミカルに色づき、輝きを増していく。
しかし、夏の終わり、海水浴を楽しんだ帰りにロボットが錆びて動けなくなり、ビーチも翌夏まで閉鎖されてしまう。
離れ離れになったドッグとロボットは、再会を心待ちにしながら、それぞれの時を過ごす。
やがてまた巡りくる夏。ふたりを待ち受ける結末とは――。
パブロ・ベルヘル監督インタビュー
――ベルヘル監督がお好きな映画や作り手について、ぜひ教えて下さい。
そうですね......映画監督は大体この質問をいただく割に心の準備ができておらず、おたおたしてしまう傾向があるように思います(笑)。好きな映画作家は、自由でリスクを恐れないタイプ。ポール・トーマス・アンダーソンやウェス・アンダーソンなどですね。チャールズ・チャップリンも大好きで、『街の灯』はよく挙げます。最近観た映画だと『失くした体』などでしょうか。
そして、自分の人生においても仕事上でも、特にここ25年間は日本文化に多大なる影響を受け続けてきました。公私ともにパートナーであるミュージックエディターの夕子は日本人ですしね。
『ロボット・ドリームズ』を作っている間も、日本のアニメーションを常に参考にしていました。昔ながらの手描き感を参考にするにあたり、この分野を先導し続けているのは間違いなく日本のアニメ界ですから。ギレルモ・デル・トロが言ったとおり、アニメ―ジョンはジャンルではなくメディア。僕も「アニメ」などは関係なく、一人のストーリーテラーとして高畑勲さんや宮﨑駿さんが好きなんです。
本作を制作中に出てきた「この課題をどう解決するか」という挑戦に対する答えは、全て彼らのフィルモグラフィの中にありました。『となりのトトロ』、『千と千尋の神隠し』、『魔女の宅急便』、『ホーホケキョ となりの山田くん』、『火垂るの墓』、『かぐや姫の物語』――それらすべてが参考資料であり、インスピレーション元といえます。私は『アルプスの少女ハイジ』や『母をたずねて三千里』を観て育ちましたが、どちらも高畑さんの作品でした。そういった意味では、私自身のクリエイティブの根本にあります。
ヨーロッパのアニメーションはユーモアやアクションに重きを置いた作り方をしているものが多いですが、今作ではエモーションを伝えたい、というのが制作を志した理由のひとつでした。 その部分を最も大事にしているのが日本のアニメですし、本作は80年代ニューヨークに対するラブレターでありながら、日本のアニメーションに対するラブレターでもあります。
ジブリの話をたくさんしてしまいましたが、細田守さんの『おおかみこどもの雨と雪』も大好きですし、湯浅政明さんの『マインド・ゲーム』を観た際のショックは忘れられません。そして巨匠・ 今敏さんは外せません。今回、湯浅作品の夢を見ているような世界観も大いに参考にさせていただきました。シュールであったりファンタジックでマジカルな要素は、日本のアニメにみら れる特長でもありますよね。ヨーロッパだと、先ほどお話ししたユーモアとアクションに加えて政治的・社会的要素が入ってきますが、日本は夢の要素が強い。『ロボット・ドリームズ』はそちらの方向に足を踏み入れたかったので、より日本からの影響をダイレクトに受けています。
(取材・構成・文 ――SYO)
パブロ・ベルヘル監督プロフィール
1963年、スペイン・ビルバオ生まれ。短編映画『Mama』(88)で映画監督としてのキャリアをスタートさせ、その後、ニューヨーク大学映画学科修士課程で学び、エミー賞にノミネートされた短編映画『Truth and Beauty(原題)』を監督した。ニューヨーク大学卒業後は、フランス国立映画学校やニューヨーク・フィルム・ アカデミー等で教鞭を執った。長編デビュー作であるスペイン・デンマーク合作の映画『Torremolinos 73(原題)』(03) は、マラガ映画祭で作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞を受賞し、第18回ゴヤ賞では脚本賞、新人監督賞、主演男優賞、助演男優賞にノミネートされ、興行的にも成功を収めた。2012年の『ブランカニエベス』はスペインのアカデミー賞と称されるゴヤ賞で作品賞を含む10部門を受賞し、50部門を超える世界各国の主要な映画賞を獲得。アカデミー賞外国語映画賞のスペイン代表作品にも選出された。また、MV監督としても活躍しており、日本においてもロックバンドSOPHIAのMVを手掛けている。本作は、ベルヘルにとって初のアニメーション映画である。
監督・脚本:パブロ・ベルヘル
原作:サラ・バロン
アニメーション監督:ブノワ・フルーモン
編集:フェルナンド・フランコ
アートディレクター:ホセ・ルイス・アグレダ
キャラクターデザイン:ダニエル・フェルナンデス
音楽:アルフォンソ・デ・ヴィラロンガ
2023年|スペイン・フランス|102分|カラー|アメリカンビスタ|5.1ch|原題:ROBOT DREAMS
字幕翻訳:長岡理世|配給:クロックワークス
© 2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL