『ルート29』 ちょっと不気味で、とても温かい、おとぎ話のようなロードムービー
国道29号線を舞台に、清掃員として働き淡々とした日々を過ごす女性・のり子(綾瀬はるか)と、森の中で秘密基地をつくって遊ぶ一風変わった女の子・ハル(大沢一菜)の旅が始まる。
兵庫県姫路市から鳥取県鳥取市までをつなぐ国道29号線。山陽地方と山陰地方をつなぐため、古くから”陰陽連絡”として重要だった街道だ。
この道を進む二人の前に、陰と陽を結ぶかのように、生きているような死んでいるような、でも生きているような人びとが現れる。彼らは少々不気味なのだが、なぜだかほのぼのとした温かい空気に包まれている。それはおとぎ話の世界と似ている。
「今生きている世界を、また別の角度から感じ取ることができるような映画」を目指したという森井勇佑監督の言葉通り、生きていることの確かさを、同じくらいの不確かさを通して思い出させてくれる作品だった。
誰かと関わることには消極的なのに突拍子もない大胆さを見せるのり子。掴みどころがないけれどいつでも核心をついているような眼差しをもつハル。のり子は決して暗い性格なのではないし、ハルの方は決して明るい性格というわけでもない。親子でも友達でもないこの二人のコンビが、一度きりの冒険の中で、きっとこの先ずっと失われることのない何かをしっかりと交換し合った。(MO)
イントロダクション
綾瀬はるか×『こちらあみ子』森井勇佑監督
優しい時間が流れる新たなロードムービーの傑作誕生!
監督デビュー作『こちらあみ子』(22)で、第27回新藤兼人賞金賞をはじめ、数多くの賞を受賞し、多くの映画ファンを魅了した森井勇佑監督。2作目を待ち望まれていた森井監督が中尾太一の詩集「ルート29、解放」からインスピレーションを受け、姫路と鳥取をつなぐ1本の国道29号線を1か月近く実際に旅しながら、独創的なオリジナル脚本を書き上げた。
他者と交わろうとしないひとりぼっちの主人公・のり子を演じたのは綾瀬はるか。彼女は森井監督の前作『こちらあみ子』が大好きだったという。本作のオファーを受け、「台本を読んだら、自然と涙が流れていました。読めば読むほど毎回大好きになる不思議な台本でした」と出演を決意。それは、風変わりな女の子・ハルを連れて旅に出る主人公のり子の物語。旅先での様々な出会い、次第に深まる2人の絆によって、悲しみや喜びなどのり子の心がだんだんと満たされていく。綾瀬と同世代の森井監督が強力タッグを組み、今までにみたことのない新たなロードムービーを誕生させた。
旅の相棒ハルに『こちらあみ子』で強烈な個性を放った大沢一菜。高良健吾、河井若葉、市川実日子ほか、実力派キャストたちが集結。主題歌「Mirror」はBialystocksが書き下ろし、映画本編の音楽も手がけた。
ストーリー
他者と必要以上のコミュニケーションをとることをしないのり子は、鳥取の町で清掃員として働いている。
ある日、仕事で訪れた病院で、入院患者の理映子から「姫路にいる私の娘をここに連れてきてほしい」と頼まれた彼女は、その依頼を受け入れ、単身で姫路へと向かう。
理映子から渡された写真を頼りに、のり子が見つけることができたハルは、森の中で秘密基地を作って遊ぶような風変わりな女の子だった。初対面ののり子の顔を見て、「トンボ」というあだ名をつけるハル。
2匹の犬を連れた赤い服の女、天地が逆さまにひっくり返った車の中に座っていたじいじ、「人間社会から逃れるために旅をしている」と語る親子、久しぶりに会った姉など、さまざまな人たちと出会いながら、姫路から鳥取まで一本道の国道29号線を進んでいく二人の旅が始まった──。
森井勇佑監督メッセージ
この映画は、中尾太一さんが書かれた詩がもとになっています。
ざわめきを感じる言葉たちに取り囲まれ、想像をめいっぱい広げて作りました。奇妙なものや不思議なものに触れること、そうすることでしか得られない生の実感があるのではないかという思いを根底において、現代のおとぎ話のようなものを目指して取り組みました。
トンボを演じた綾瀬はるかさんとは初めてのお仕事でしたが、ご自身のなかの宇宙が独特でおもしろい方だと感じました。その宇宙が、のり子という役をとても豊かなものにしてくれたのだと思います。綾瀬さんがあのときに生きたトンボという人間が、僕はとても好きです。
ハルを演じた大沢一菜さんは、どうしてそんな表情が出来るのかと思わされる驚くような瞬間が何度もありました。大沢さんとお仕事をするのは2度目ですが、新しい表情をたくさん見せてくれたこと、とても嬉しく感じました。
独創的な取り組みをしてくれたスタッフたち、生き生きとカメラの前に立ってくれたすべての出演者たちと一緒に、この映画を作れたことをとても誇らしく思っています。
これからご覧になるお客さまに『ルート29』がどのように届くのか、とても楽しみです。
森井勇佑監督プロフィール
1985年生まれ、兵庫県出身。日本映画学校 映像学科(現:日本映画大学)を卒業後、映画学校の講師だった長崎俊一監督の『西の魔女が死んだ』(08)で、演出部として映画業界に入る。以降、主に大森立嗣監督をはじめ、日本映画界を牽引する監督たちの現場で助監督を務める。2022年、芥川賞受賞作家・今村夏子の同名短編小説を映画化した『こちらあみ子』で監督デビュー。同作は全国でロングラン上映されるなど、多くの観客に支持され、第27回新藤兼人賞金賞、第32回日本映画プロフェッショナル大賞作品賞、新人監督賞など多数の賞を受賞。世界各国の映画祭に正式出品され、台北映画祭では台湾映画批評家協会推薦賞、JAPAN CUTS の NEXT GENERATION 部門では大林宣彦賞を受賞するなど高い評価を受けた。『ルート29』は『こちらあみ子』と同じく、脚本も自身が手がけた監督2作目となる。
アップリンク吉祥寺 ほか全国劇場にて公開
2024/日本/カラー/ヨーロッパ・ビスタ/5.1ch/120分
綾瀬はるか 大沢一菜
伊佐山ひろ子 高良健吾 原田琥之佑 大西力
松浦伸也/河井青葉 渡辺美佐子/市川実日子
監督・脚本:森井勇佑
原作:中尾太一「ルート29、解放」(書肆子午線刊)
主題歌:「Mirror」Bialystocks(PONY CANYON/IRORI Records)
配給:東京テアトル リトルモア
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会
©2024「ルート29」製作委員会