『ガザ=ストロフ -パレスチナの吟(うた)-』今起きていることを理解するためのきっかけとなる、約10年前のドキュメンタリー

『ガザ=ストロフ -パレスチナの吟(うた)-』今起きていることを理解するためのきっかけとなる、約10年前のドキュメンタリー

2024-10-09 08:00:00

「イスラエルによる攻撃は2023年10月7日のハマスの奇襲によって始まったわけではない。その証拠の1つがこの記録映画だ」(ケリディン・マブルーク監督)

『ガザ=ストロフ -パレスチナの吟(うた)-』日本公開のきっかけは、個人的な繋がりから始まります。

共同監督の1人ケリディン・マブルークは私の20年来の親しい友人ですが、その彼から、昨年10月、イスラエルによるガザ地区への大規模な軍事攻撃開始から10日後、メッセージと映画の視聴リンクが送られてきました。 「撮影から10年以上経ってもこの映画が今日的意義を持つとは思わなかった。パレスチナで起きていることを知ってもらうために、日本の人にもぜひ見てほしい。上映会を企画できないか」。

その言葉を重く受け取った私はすぐに字幕翻訳に取りかかり、その後、この作品の全国上映を目指して、賛同する友人と共に配給活動を始めました。作品は、2009年1月、当時の戦争直後のガザに生きる人々の姿と言葉、破壊の跡を記録したものです。家族や家や村を奪われた人々の証言、その中で生活を続ける姿、恐怖を耐えてきた苦悩、時にユーモアが混じる談笑、世界構図や宗教に対する深い洞察・・・。

そこには、耐えて生き延びた人々の言葉の重さと、生身の生、あまり に理不尽な現実が映し出されていました。まず、事実として、何が起き、何が起きてきたのか知らなくてはいけない。パレスチナに関して私たちがメディアを通して知ることができる情報や知識は残念ながら偏りがあります。

この作品の優れた点の1つは、パレスチナの人々の目線に立ち、その証言を通して、イスラエルによる占領や植民地主義、西洋諸国による二重基準、構造的暴力といった背景が浮き彫りになっていく点にあります。監督のケリディン・マブルークは、「ガザには世界の問題が凝縮している」と強調します。 悲しいことにガザ地区の戦禍は1年続いていますが、今起きていることを理解するためのきっかけとなる、貴重なドキュメンタリー作品です。同時代の世界構図を生きる者として、まず知り、考えられることがあるはずだとの思いです。

二口愛莉(Shkran 代表)

イントロダクション

仏監督のサミール・アブダラとケリディン・マブルークによって2009年に、イスラエルによる軍事侵攻直後に撮影されたドキュメンタリー。

ガザに暮らす人々がどのような歴史と暮らしを生きてきたか、生身の声と風景を、パレスチナを代表する詩人・マフムード・ダルウィーシュの詩を引用しながら、映し出している。

多くの人々が、これは明らかにジェノサイドだ、と声を上げる悲惨な状況が続く中(2024年9月現在)、人々の姿と歴史を知ることから変わる可能性を問いかける。

 

共同監督ケリディン・マブルークは、パレスチナの人々は常に西洋の視点から描かれ、死亡者数という数に還元されてきたが、一人一人の顔を描き世界に伝えるというのがこの作品の第一の目的だったと振り返り、「パレスチナには世界の問題が凝縮されている」と強調する。

メディア関係者の出入りが厳しく規制され、インターネット環境もスマートフォンも現在のようには普及していない当時、侵攻直後のガザの被害状況と証言インタビューを撮影することは他に例を見ない試みであった。

本作はフランスの公共放送である「フランステレビジョン」で放送されるやいなや話題になり、フランス国内での劇場公開が実現。アラブ諸国、アメリカやカナダの映画祭での上映や受賞など、国内外で反響を呼んだ。また、30時間に及ぶ記録映像は貴重な資料として国連人権理事会に提出された。

ストーリー

2008年12月末から2009年1月にかけてイスラエルによるガザの大規模侵攻が勃発。フランス人監督のサミール・アブダラとケリディン・マブルークは、停戦の翌日にパレスチナ人権センターの調査員と共にガザに入る。

爆撃で両親兄弟を失った子ども、目の前で家族を銃撃された男性、土地を奪われ逃げてきた人々…。「顔を持つ」一人一人の証言が記録されるとともに、パレスチナを代表する詩人、マフムード・ダルウィーシュの詩が引用され、ガザの人々が生きてきた歴史と記憶が呼び起こされる。

ガザの地で生きる人々の目線に立ち、その姿を丁寧に描く一方で、パレスチナ問題の背景にある西洋諸国による二重基準、構造的暴力について浮かび上がらせる。

サミール・アブダラ監督プロフィール

映画監督、エジプト系フランス人。エジプト近代美術の先駆者であるハメッド・アブダラを父に持つ。

ナンテール大学で演劇と映画を学んだ後、移民に関する報道番組やドキュメンタリーを制作。 監督、共同監督した作品に、『フランスのイスラム −伝統と現代の間で−』(1990)、『境界の作家たち、パレスチナの旅』(2004)、『ガザ=ストロフ −パレスチナの吟(うた)−』(2011)、『革命のカイロ』(2011-)他多数。2023年10月以降のガザ攻撃で犠牲になった人々の「顔」をリアルタイムで世界に発信するプロジェクト「ガザ・フェイス」主要メンバー。

ケリディン・マブルーク監督プロフィール

フランス生まれ。アートディレクター、映画監督、グラフィックデザイナー、イラストレーター、バンド・デシネ作家。アルジェリア系フランス人。

アラブ文化、中央アジア文化の造詣を深め、2009年、2010年にはアートディレクターとしてパリ市のオリエンタリズムに関する展覧会を企画。2006年からドキュメンタリー映像作品を監督。『美術 イスラムと西欧』(ブリティッシュ・カウンシル / 2011)、現代アラブ作家のドキュメンタリーシリーズを指揮制作(ブッカー賞 / 2012-2018)など。 同じく「ガザ・フェイス」主要メンバー。

アップリンク吉祥寺 アップリンク京都 ほか全国劇場にて公開

公式サイト

2011年 / フランス・パレスチナ合作 / アラビア語 、フランス語字幕 / 92分

監督:サミール・アブダラ、ケリディン・マブルーク

編集:カヘナ・アティア 

音楽:アバス・バハティアリ

製作 : Iskra、 L'Yeux Ouverts 

協力 : パレスチナ・メディア・グループ 

原題 : Gaza-Strophe, Palestine 

日本語字幕:二口愛莉  配給・宣伝 : Shkran 

© L'Yeux Ouverts / Iskra2010