『若き見知らぬ者たち』『佐々木、イン、マイマイン』の内山拓也監督が、止むことなく降り注ぐ現実を冴え冴えと描き切る

『若き見知らぬ者たち』『佐々木、イン、マイマイン』の内山拓也監督が、止むことなく降り注ぐ現実を冴え冴えと描き切る

2024-10-04 08:00:00


母の介護をしながらともに暮らしているものの、両親の遺したカラオケバーを継いだ兄・彩人(磯村勇斗)と、総合格闘技の選手として夢を追いかける弟・壮平(福山翔大)という兄弟二人が、作品の中で対をなしている。しかし、この真っ二つの対比は、ストーリーにコントラストを付けることだけを意味しない。
さらに、彼らを取り巻く恋人や友人たち、警官など、ほかの登場人物たちの描写も、文学的と言えるほどだ。

自主映画として前作『佐々木、イン、マイマイン』を作り上げ、「どうしても一本一本の映画に人生をかけることになる」と話す内山拓也監督の映画づくりへの情熱。そして監督のその意思を共有し、並走してきた磯村勇斗、福山翔大、岸井ゆきの、染谷将太をはじめとする俳優陣の表現力。
それらによって、脚本だけでは語り損なわれてしまうものが、この映画には刻み込まれている。

私たちはみな異なるものを背負ってそれぞれの人生を生きている。が、と同時に、”見知らぬ者たち”という同志でもある。
目の前にあるのは、儚くも美しい現実でもなく、むごく厳しい現実でもなく、それぞれにとっての現実でしかない。愚直に、無防備に、ときに無理をしながら、ときになされるがままに、止むことなく降り注いでくる現実を生きていく。そんな複雑さを、内山監督は冴え冴えと描き切った。

企画当初から海外へ届けることを意識し、フランス・韓国・香港・日本の合作となっている今作だが、インターナショナルビジュアルにある、「≠(ノットイコール)」は何を表しているのか?、作中何度も印象的に映し出される、母の部屋に飾ってあるエゴン・シーレを思わせる筆致の、しかし肉が膨れ上がるようにして絡み合う四者の絵は何を意味しているのか?など、鑑賞後も逡巡が尽きない。

本作と併せて、ぜひ公式noteやパンフレットで、内山監督はじめスタッフ陣がこの作品に込めた思いを読んでみてほしい。(MO)

 

イントロダクション

自主映画として完成させた『佐々木、イン、マイマイン』(20) が若者から圧倒的な支持を集め、新人賞や海外の映画祭を賑わせた内山拓也監督の、商業長編デビュー作となる本作。

『佐々木、イン、マイマイン』の将来に希望も持てない閉塞感の中で煮詰まった自意識が爆発するパッションやマインドは本作にも受け継がれ、失われた人生に絶望することも、家族から逃れることもできない一人の青年が、自分の中にある最後の砦と向き合う様が描かれる。

そして、大切な人を失った遺された人たちも、それぞれの信じるべきものを信じるために闘っている。あらゆる理不尽にまみれても、自分の正義を守り懸命に生きようとする、名もなき者たちの魂の叫び。

内山監督が身近な見聞にインスパイアされた自身のオリジナル脚本による、今を生きるすべての表現者たちに送る物語。

ストーリー

風間彩人(磯村勇斗)は、亡くなった父の借金を返済し、難病を患う母、麻美(霧島れいか)の介護をしながら、昼は工事現場、夜は両親が開いたカラオケバーで働いている。

彩人の弟・壮平(福山翔大)も同居し、借金返済と介護を担いながら、父の背を追って始めた総合格闘技の選手として日々練習に明け暮れている。

息の詰まるような生活に蝕まれながらも、 彩人は恋人の日向(岸井ゆきの)との小さな幸せを掴みたいと考えている。しかし、彩人の親友の大和(染谷将太)の結婚を祝う、つつましくも幸せな宴会の夜、 彼らのささやかな日常は、思いもよらない暴力によって奪われてしまい…。

彼はこの世で誰に何を残したのか?そして遺された者たちは──。

 

内山拓也監督インタビュー

──本作は8年前から温めてきた企画ということで、初監督作の『ヴァニタス』(16)と、二作目の『佐々木、イン、マイマイン』(20)の間にスタートしたのでしょうか。

内山監督:『ヴァニタス』が2016年の秋にPFFアワードの観客賞を受賞して、その後にこの脚本を書き始めたので、構想としては『佐々木、イン、マイマイン』(以下、『佐々木』)よりも先にあったものではあります。当時24歳で、『ヴァニタス』で香港映画祭をはじめ国内外の映画祭に参加させてもらったんですけど、観客の皆さんに届く感覚と届かない感覚も同時に経験して、この先どうやって映画を作っていけばいいのだろうと迷っていたところでした。しかも、その年のPFF受賞作品はほとんど全てが何らかの形で映画館で上映されたんですけど、『ヴァニタス』にはその機会がなかったんです。その歯がゆさや悔しさが、書き始める衝動にもなりました。

──『若き見知らぬ者たち』のベースには、『佐々木』と同じく機能不全に陥っている家族があって、最終的にはやはり家族の物語に帰結していきます。これは内山監督の作家性としても認められますが、家族のあり方を描くことへの思いは?

内山監督:家族の機能不全と欠落は、おそらく自分が人生を懸けて挑む最大のテーマです。それは自分の家庭環境がそうだったから。どうしても逃げられないもので、だったら執着して、どこまでも向き合おうと。ようやくそれを少しずつできるようになったのが、『佐々木』を撮ったぐらいの頃で、それまでの25年はとにかく苦しかった。だけど、どんなに苦しくても、いざそれがなくなったら、意外と喪失感を感じるんじゃないか。そのぐらいとことん向き合えば、苦しかった時間すらも、失ったら寂しいものになるかもしれない。少なくともそれまでは逃げたくない。今は母性と父性の定義についても世の中の認識が変容していく過渡期だったりするので、家族のあり方みたいなものも変化している。そこに対しては全ての作品でアプローチを変えながら見つめ続けていきたいと思っています。

内山拓也監督プロフィール

1992年、新潟県出身。文化服装学院入学後、学業と並行してスタイリスト活動を始めるが、その過程で映画の撮影現場に触れ、映画の道を志す。23歳で初監督した『ヴァニタス』(16)がPFFアワード2016観客賞を受賞したほか、香港国際映画祭にも出品を果たし、批評家連盟賞にノミネートされる。俳優の細川岳と共同で脚本を書いた『佐々木、イン、マイマイン』(20)で劇場長編映画デビュー。2020年度新藤兼人賞や第42回ヨコハマ映画祭新人監督賞に輝く。King Gnu「The hole」、SixTONES「わたし」などのMV演出や『余りある』(21)『LAYERS』(22)などの短編や広告映像を手がけて話題を集め続け、「2021年ニッポンを変える100人」に選出される。今作が商業長編初監督作となる。

アップリンク吉祥寺 アップリンク京都 ほか全国劇場にて公開

公式サイト

2024年/119分/PG12/日本・フランス・韓国・香港合作

磯村勇斗 岸井ゆきの 福山翔大 染谷将太

伊島空 長井短 東龍之介 松田航輝 尾上寛之

カトウシンスケ ファビオ・ハラダ 大鷹明良

滝藤賢一 / 豊原功補 霧島れいか

原案・脚本・監督:内山拓也

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