『私は憎まない』「中東のガンジー」と称えられるガザ出身医師の人生を追うドキュメンタリー
平和と人間の尊厳を追求するガザ出身医師で「中東のガンジー」と称えられるイゼルディン・アブラエーシュ博士を追ったドキュメンタリー『私は憎まない』は、引き続き中東への関心を高めること、そして終わらない戦争を終わらせるために配給を決めました。
10月7日で、ハマス・イスラエル戦争開始から1年となりますが、これまで、ユナイテッドピープルとして、一人でも多くの命を救うため、停戦を実現するためにも映画『ガザ 素顔の日常』『ガザ・サーフ・クラブ』『医学生 ガザへ行く』を立て続けに配給してまいりました。『私は憎まない』は、ガザ関連4作品目の配給です。
主人公は、ガザ出身医師イゼルディン・アブラエーシュ博士です。
3人の愛娘を殺されてもなお共存の可能性を信じ、ヒューマニティに基づき行動する彼は、これまでに5度ノーベル平和賞ノミネートされ、中東のガンジー、マンデラなどと親しまれてきた人物です。
著書『それでも、私は憎まない――あるガザの医師が払った平和への代償』で、彼のことを知っている方もいるかもしれません。今年、彼の人生を追ったドキュメンタリーが完成。予告編を観ただけで、涙が溢れてきました。
「憎しみは病だ。それは治療と平和を妨げる。」
「わたしは遺恨と報復の終わりない循環ではなく、共存の可能性を信じている。軍事的解決が両サイドにとって不毛であることを、わたしたちは知っている。」
「最も重要なステップは、互いを知り、尊敬し合える関係を築くこと。(中略) わたしたちには希望の大量投与が必要だ。」
著書にかかれている言葉です。
イスラエル・パレスチナ間では延々と対立が続いていますが、平和実現のためには、どうにかして憎しみの連鎖を断ち切らなければなりません。
アブラエーシュ博士の行動やメッセージは、私達自身の暮らすアジアでも役立つと思います。中国では日本人を対象としたヘイトクライムが目立つようになりましたが、憎しみが憎しみを生む構造を転換しなければならない。彼の決意ある行動やメッセージに、そのヒントを見出すことが出来るはずです。
10月4日、5日、12:30~の上映後に本人が登壇します。どうぞ直接本人の話を聞いてください。
関根健次 (ユナイテッドピープル 代表)
イントロダクション
憎しみの連鎖を断つために――。
3人の愛娘を殺されてもなお、ヒューマニティに基づき行動するガザ地区出身の医師、アブラエーシュ博士に迫るドキュメンタリー。
ストーリー
「医療でイスラエルとパレスチナの分断に橋を架ける」。
ガザ地区の貧困地域、ジャバリア難民キャンプ出身の医師で、パレスチナ人としてイスラエルの病院で働く初の医師となったイゼルディン・アブラエーシュ博士は産婦人科でイスラエル人とパレスチナ人両方の赤ちゃんの誕生に携わってきた。
彼は、ガザからイスラエルの病院に通いながら、病院で命が平等なように、外の世界でも同じく人々は平等であるべきだと、分断に医療で橋を架けようとする。しかし2009年、両者の共存を誰よりも望んできた彼を悲劇が襲う。彼の自宅がイスラエル軍の戦車の砲撃を受け、3人の娘と姪が殺されたのだ。
砲撃直後、博士の肉声をイスラエルのテレビ局が生放送し、彼の涙の叫びはイスラエル中に衝撃と共に伝わった。その翌日、博士は突然、テレビカメラの前で憎しみではなく、共存を語りだす。
イスラエル政府に娘の死の責任を追求するも、決して復讐心や憎しみを持たない彼の赦しと和解の精神は、世界中の人々に感動を与え、“中東のガンジーやマンデラ”とも呼ばれる存在となる。
しかし2023年10月7日のハマスのイスラエルへの攻撃、それ以降のガザへの攻撃を経て、彼の信念は再び試されることになる…。
タル・バルダ監督メッセージ
平和活動家のもとに生まれたフランス系アメリカ人である私は、凝り固まった政治的な物語ではない物語に惹かれており、アブラエーシュ博士のことを、信じがたい悲劇に見舞われながらも平和を語るパレスチナ人の医師として知っていました。2018年に彼がイスラエル国家に対する訴訟を起こした時、人権弁護士である私の姉が助言するこ とがあり、私も彼に直接会う機会を得ました。トロントを訪れ、彼と彼の子どもたちと一緒に数時間を過ごし、親交を深めました。
知れば知るほど、彼の不可能と思える状況に対する対応力は並外れていました。難民キャンプで数え切れないほどの困難を乗り越えて医者になり、パレスチナ人とイスラエル人の患者(乳幼児の両親)からの人種差別と猜疑心に耐えながら乳幼児に医療を施したのです。妻が亡くなり、8 人のシングルファーザーとなった彼は、その後3人の娘も失い、残された5人の子どもたちを海外へ移住させるために、たったひとりで奔走しました。そして、3人の娘たちが殺された後も、パレスチナとイスラエルの和平を推進する社会活動家でもあり続けました。
アブラエーシュ博士は生来の平和の使者であり、憎しみと不信に引き裂かれた社会の癒し手として個人的な悲しみを超越しています。しかし私たち、ほとんどの人々は彼がそのような苦しみを抱えているにも関わらず、なぜそのように気高く、強靭でいられるのか理解できないと思います。ドキュメンタリー作家としての私の役割は、感動的な人物の物語を共有するだけでなく、その原動力や、その人物のあらゆる面にスポットをあてることだと思っています。 彼の立場を想像した時、誰もが呼び起こすだろう復讐や憎悪といった人間的な感情を、彼はどうやって回避しているのでしょうか?自分の娘の命がイスラエルの爆弾によって奪われたわずか数時間後に、和解の必要性を主張する人物のことをどう理解すればいいのでしょうか?肉親を失った自分の子どもたちに、同じことをするよう教育できるのでしょうか?彼は現代の聖人なのでしょうか?それとも、私たちとはまるで違う世界観で生きているのでしょうか?
また、人物を取り巻くより広い文脈の中に、その人物を位置づけることも映画作家の仕事です。『私は憎まない』は個人的な物語ではなく、パレスチナの人々の権利のための闘い、暴力と復讐の連鎖を助長する中東の戦争教育文化、 移民が新しい国で直面する内面的なアイデンティティの葛藤などを含め、登場人物主導の、より大きな物語に収斂する複雑な映画なのです。
タル・バルダ監督プロフィール
エルサレムで生まれ育ったフランス系アメリカ人のドキュメンタリー映画監督、プロデューサー。
Greenhouse film program 賞、SIMA(グローバル・インパクト・メディア・アワード)を受賞。多様な映像作品が、世界中の国際映画祭や映画館で上映された。HBO、ARTE、BBC、CBC、ZDF、IKON など国際的な放送局と仕事をしてきた彼女の最新プロジェクトは『Criminal file 512』という 3 部構成のドキュメンタリーシリーズで、2022 年にイスラエルのテ レビで最も視聴されたドキュメンタリーとなった。『Woman of Valor』は 2022 年イスラエル・アカデミー賞ノミネ ート。『100 Million Views』(YesDocu/ZDF)、『Family in Transition』は 2019 年テルアビブ国際ドキュメ ンタリー映画祭最優秀作品賞を受賞。その他、『The Wonderful Kingdom of Papa Alaev』は ARTE、CNC、 IKON、Channel 8、Greenhouse film program、トライベッカ映画祭で受賞。
監督:タル・バルダ
脚本:タル・バルダ、ジェフ・クライン、サスキア・デ・ボア
プロデューサー:ポール・カデュー、マリーズ・ルイヤー、イザベル・グリッポン、タル・バルダ
製作総指揮:マヤ・カデュー=ルイヤー、マルタン・カデュー=ルイヤー、マリーズ・ルイヤー
撮影:ハンナ・アブ・アサド 編集:ジェフ・クライン
音楽:ロベール・マルセル=ルパージュ サウンドデザイン:マルタン・カデュー=ルイヤー
登場人物:イゼルディン・アブラエーシュ、クリスティアン・アマンプール、シュロミ・エルダー 他
制作: Filmoption 配給:ユナイテッドピープル
92分/カナダ・フランス/2024年/ドキュメンタリー
©Filmoption
©Famille Abuelaish