『花嫁はどこへ?』ベールを脱いだその先には――。運命のいたずらを幸せに変える感動の物語!
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第97回米アカデミー賞の国際長編映画賞のインド
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映画の舞台設定は2001年とあるので、現在のインドではもうなくなっていたり、廃れてきたりしている婚礼にまつわる伝統も中にはあるのだろうが、この映画を通し異文化の「結婚」を知ることで、今自分が身を置いている文化での慣習について、思いを巡らせずにはいられなかった。
日本のサラリーマンたちの通勤、退勤時の満員電車は国際社会からかなり物珍しく見られているが、世界一の人口を誇るインドの満員列車というのも、誰でも一度は写真などで目にしたことがあるだろう。人が入りきらないためにドアを開けたまま走行し、屋根の上にも大勢の人が乗っている凄まじい光景。
そんな次から次へと人が降りては乗り込んでくる満員の列車の中で、この奇想天外な物語は始まる。
インドには、女性、特に人妻は、敬意を払うという意味で、来客や目上の人と視線を合わせないよう頭をすっぽりとベールで覆う「パルダー(元の意味は幕・カーテンで、内と外を隔離することを意味する)」という習慣がある。そのために作中では、列車で花嫁を取り違えたり、実の花嫁の捜索が難航したり、ということが起きてしまう。
こんなシーンがある。
必死に花嫁を探す花婿とその友人たちが、結婚式で撮った花嫁との写真を街の商店の男性に見せて尋ねる。「この子に似た人を見かけませんでしたか?」。
その男性はベールで覆われて顔など見えない写真の花嫁を一瞥し、こう返答する。「顔が全てだ。顔を隠しているのは人格を隠しているのと一緒だよ」。
男性がそう言い終えた直後、店の後方から男性の妻と思しき女性が顔を出すのだが、この女性は目元以外をすべて黒いベールで覆っている...。
私たちの身の回りにも、似たようなことがないだろうか。「時代遅れだ」、「今は令和ですよ」などと口では言いながら。
本作はそんな様々な矛盾や違和感に、非難したり敵に回したりするような素振りを見せることなく、インド映画特有の明るさとユーモアを湛えたあたたかな光を当てている。
きっかけは偶然だったかもしれないし、世界は手に負えないほど広い。けれどその中で、あなたにとっての見えないベールを、あなた自身の力で脱ぐことができるときがきっと来る。そう信じる勇気や希望を与えてくれる作品だ。(MO)
イントロダクション
同じベールで顔が隠れた2人の花嫁が、花婿の家へ向かう満員列車の中で取り違えられた!?
運命のいたずらを幸せに変える感動の物語!
奇想天外に始まるのは、育ちも性格も全く異なる2人の女性の想定外の人生。トロント国際映画祭でスタンディングオベーションを巻き起こし、Rotten Tomatoesでは批評家100%、観客95%という驚異の高評価をキープ。世界中の映画ファンを魅了している話題作がついに日本公開となる。
プロデューサーは、ヒット作『きっと、うまくいく』などの主演で圧倒的な人気を誇るアーミル・カーン。2013年には米「タイム」誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた、インドが誇るカリスマだ。自身が審査員を務めるコンテストで本作の原案となる脚本を発掘し、キラン・ラオに監督を託した。
キラン監督はデビュー作『ムンバイ・ダイアリーズ』でいきなりトロント国際映画祭プレミア上映の栄誉を受け、ムンバイ映画祭の理事を務めるなどインド映画界を担う逸材。これまで共に数々のヒット作を生み出してきた2人がタッグを組み、新たな傑作が誕生した。
ストーリー
2001年、とあるインドの村。
プールとジャヤ、結婚式を終えた2人の花嫁は同じ満員列車に乗って花婿の家に向かっていた。
だが、たまたま同じ赤いベールで顔が隠れていたことから、プールの夫のディーパクがかん違いしてジャヤを連れ帰ってしまう。
置き去りにされたプールは内気で従順、何事もディーパクに頼りきりで彼の家の住所も電話番号もわからない。
そんな彼女をみて、屋台の女主人マンジュが手を差し伸べる。一方、聡明で強情なジャヤはディーパクの家族に、なぜか夫と自分の名前を偽って告げる。
果たして、2人の予想外の人生のゆくえは──?
キラン・ラオ監督インタビュー
──主人公の女性2人が成長していく姿に感動しました。 彼女たちを描くうえでどんな思いを込めましたか?
私が注力したのは、多様な女性像と彼女たちの経験を描くことでした。2人の花嫁だけでなく、本作に登場する女性たちは皆多様で、正しいあり方はひとつではないという考えを表現しています。屋台の女主人マンジュが言うように、“ちゃんとした女性(グッド・ガール)”という概念は、まさに“フロード(詐欺) ”であり、女性を従わせるための手口なのです。私たちは、女性が野心的であろうとなかろうと、自分の人生をどう生きたいかを選択する自由を持つことが大切だというメッセージを伝えたかったのです。
──2001年から現在にかけて、インドでの女性の社会的地位は変わったと思いますか?
インドは広大で多様な国で、地域や文化の違いが大きく一般化することはできませんが、確実に良い方向に変化したと思います。これは、女子と女性の教育と健康を改善するための草の根活動を我慢強く続けてきたNGO団体などの社会事業分野と、代々の政府、行政の努力の賜物だと思います。
──インドで公開した際にはどのような反応を受け取りましたか?
想像をはるかに超える愛を受け取りました。本作を日本の皆さんにご覧頂ける事を、本当に嬉しく思っています。日本の皆さんの反応がとても楽しみです!
キラン・ラオ監督プロフィール
1973年、ハイデラバード生まれ。コルカタで育つ。父方の祖父は王族出身で、外交官を経て出版社を経営していた。伝統あるカソリック系の女子校ロレート・ハウスで学び、19歳のときに家族でムンバイに移住。同地のソフィア女子大学を卒業。その後デリーのジャミア・ミリア・イスラミア大学で修士号を得ている。
アカデミー外国語映画賞(当時)にノミネートされた2001年の大作映画『ラガーン』のアシスタントディレクター、同年ベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞したミーラー・ナーイル監督『モンスーン・ウェディング』のセカンドアシスタントディレクターを務め、映画業界でのキャリアをスタート。プロデューサーとして、『こちらピープリー村』(10)、『デリー・ゲリー』(11)、『ダンガル きっと、つよくなる』(16)、『シークレット・スーパースター』(17)など数々のヒット作を製作。2010年に『ムンバイ・ダイアリーズ』で監督デビューを果たした。
アップリンク吉祥寺 ほか全国劇場にて公開
プロデューサー:アーミル・カーン、ジョーティー・デーシュパーンデー
監督・プロデューサー:キラン・ラオ
出演:ニターンシー・ゴーエル、プラティバー・ランター、スパルシュ・シュリーワースタウ、ラヴィ・キシャン、チャヤ・カダム
2024年|インド|ヒンディー語|124分|スコープ|カラー|5.1ch|原題Laapataa Ladies|日本語字幕:福永詩乃
応援:インド大使館 配給:松竹
© Aamir Khan Films LLP 2024