『西湖畔(せいこはん)に生きる』デビュー作『春江水暖~しゅんこうすいだん』で注目された監督、待望の第二作
デビュー作『春江水暖~しゅんこうすいだん』(2021)で世界中から注目されたグー・シャオガン監督が自ら「山水映画」と呼ぶ、新たな表現を追求した待望の第二作が公開。
監督の故郷、浙江省杭州に実在する「富春山居図」という大河・富春江を描いた山水画に着想を得て制作された『春江水暖』の、絵巻物を読み進めるようなのびやかな映像表現に魅了された映画ファンは少なくないだろう。
「中国の伝統的な風景画である『山水画』の哲学を映画で表すことができないか」と語る監督は今作で、天上界から地獄へと、縦に広がる掛け軸のような空間を描くことに挑戦した。山の斜面に天まで届くように続く茶畑と、どこまでも底がない人間の欲望――。その対比が、映像にもストーリーにも反映されている。
また、前作は監督の親戚を中心に演技経験のない人々が多く出演したが、今作ではプロの俳優たちを起用している点も興味深い。洗脳され、違法なマルチ商法の闇に陥る母親役を実力派のジアン・チンチン(大河ドラマ『清越坊の女たち~当家主母~』)が、その母を必死に救い出そうとする息子役を若手のウー・レイ(ドラマ『長歌行』)が演じた。
天上と地獄のあいだで振り回される迫真の演技の内にも、惨さや悲哀を超えた山水のようにただそこにある美しさが、この物語を支えているように思う。(MO)
イントロダクション
『春江水暖〜しゅんこうすいだん』のグー・シャオガン監督、挑戦の第二作。
人気俳優のウー・レイとジアン・チンチンの競演。音楽は、『花様年華』などウォン・カーウァイ監督とのコラボレーションや『陰陽師』(滝田洋二郎監督)などの日本の巨匠・梅林茂。音響に『天安門、恋人たち』のフー・カン、撮影に『ラサへの歩き方 ~祈りの2400km』のグオ・ダーミンなど第一線のスタッフが、新たな美学に挑戦するグー・シャオガン監督を支えた。
中国で4月3日に公開され、2024年4月興収で、1位『君たちはどう生きるか』、2位『ゴジラ×コング 新たなる帝国』に次ぐ3位にランクイン。話題を集めて大ヒットとなった。
日本では昨年の東京国際映画祭がプレミア上映となったが、映画祭版から監督自らブラッシュアップした中国公開版・新字幕での公開となる。
ストーリー
舞台は、前作と同じ杭州。
最高峰の中国茶・龍井茶の生産地で知られる西湖。そのほとりに暮らす母・タイホア(苔花)と息子・ムーリエン(目蓮)。
母は、山の美しい茶畑で茶摘みの仕事をして、ひとり息子を育て上げるも、あることをきっかけに茶畑を追い出され、やがて違法ビジネスの地獄に堕ちる……。
釈迦の十大弟子のひとり・目連が地獄に堕ちた母親を救う物語「目連救母」をヒントに、監督と共同脚本のグオ・シュアンが現代の物語として書き上げたオリジナル・ストーリー。
グー・シャオガン監督メッセージ
『春江水暖』で、僕たちは「山水画」の哲学を映画で表せないだろうかと考えたわけですが、あの映画を撮り終えて、山水映画という〈映画言語〉の使い方や物語を語る方法を、だいたい掴むことができたのではないか、と思えたんです。そこで、今回考えたのは、さらに押し進めて「山水映画を一つの〈ジャンル〉にできないか」ということでした。
〈映画言語〉と〈ジャンル〉は違いますよね。つまり、「山水」という〈映画言語〉を使って、ファミリー映画、犯罪映画、恋愛映画など多くの人が〈ジャンル〉としている映画を作ることは可能なのか挑戦することです。 その判断基準には、一定の興行収入を上げられるかどうかも関わっていると思います。〈映画言語〉は、興収の裏付けなどなくても成立すると思いますが、〈ジャンル〉にするなら、興収による承認を必要とするのではないか。 エンタテインメントとは言わないまでも、一定の観客がつかなくてはいけないのではないか。そんなことを考えました。
例えば、僕は是枝裕和監督も大好きなのですが、『万引き家族』や『そして父になる』はファミリー映画とも言える。芸術性が高い映画であり、市場価値もあり、エンタテインメント性も備えていると感じています。そこで僕たちは「山水映画」の可能性を追求し、今回は、犯罪という〈ジャンル〉に挑戦することにしたのです。
今はまだいろいろ試している段階で、『春江水暖』は「山水映画×ファミリー」と言えるものだったと思いますが、『⻄湖畔に生きる』は「山水映画×犯罪」と考えました。そして次回作、山水映画の第三巻は恋愛物になる予定です。今後、山水映画のロードムービーやサスペンスも生まれるかもしれません。
こうした僕たちの試みを、「既存のジャンルを新しくする試み」「犯罪映画やファミリー映画に、これまでとは違う物語の語り方を取り入れる試み」と言うこともできるでしょう。でも僕の考え方は違っていて、最終的には、 山水映画がそれ自体で物語を語る一つの方法になる可能性を探ってみたいんです。
映画の冒頭で、「掛軸」のような画面を完成させたいと思っていました。 山すそから西湖までを映して、これから物語が繰り広げられる空間を最初に見せてしまおうと思ったのです。山は天上界を表し、中間に人間界としての街があり、最後には地獄がある。まさに縦に流れる掛軸式です。その後の物語は、天上と地獄の両極の空間の中で起こります。ですので、ある種の「高低差のギャップ」を演出したいと、初期の段階から思っていました。天上界は山。人間界は、お茶を摘んだり恋をしたりという暮らし。地獄は違法ビジネス。地獄は、密閉された外が見えない空間です。物語的にも、映像的にも、映画の構造上も、こういうギャップを意識しました。
グー・シャオガン監督プロフィール
1988年生まれ。浙江省杭州出身。浙江理工大学に進学し、アニメ・漫画コースを希望したが叶わず、服飾デザインとマーケティングを学ぶ。在学中に映画に目覚め、映画を見始める。同時に宗教や哲学に興味を持ち、独自に学んでいた時に、ジェームズ・キャメロン監督『アバター』がヒンズー教の思想を反映していることに驚き、自分でも映画を作りたいと監督を志す。ドキュメンタリーや短編を制作後、初長編作品となった『春江水暖~しゅんこうすいだん』が、2019年カンヌ国際映画祭批評家週間クロージング作品に選ばれ、同年の東京フィルメックスで審査員特別賞を受賞。最新作である本作を出品した第36回東京国際映画祭で黒澤明賞を歴代最年少で受賞した。『春江水暖』から「山水映画」と呼ぶ映画表現を求め、第三巻も制作予定。
(プレス資料より抜粋)
アップリンク吉祥寺 ほか全国劇場にて9月27日(金)より公開
原題:草木人間|英語題:Dwelling by the West Lake|2023年|中国映画|118分
監督:グー・シャオガン[顧暁剛]|撮影監督:グオ・ダーミン[郭達明]|音楽:梅林茂|出演:ウー・レイ[呉磊]、ジアン・チンチン[蒋勤勤]、チェン・ジエンビン[陳建斌]、ワン・ジアジア[王佳佳]
配給:ムヴィオラ、面白映画 一般G
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